日本通信が「ネオキャリア」に向けて一歩前進 迷惑電話撃退や音声翻訳など、電話機能の拡張も具現化:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
ドコモとの音声相互接続に伴い、2026年5月24日にフルMVNOとしてサービス開始を目指す日本通信。その一環として、同社はドイツに拠点を構えるng-voice社との提携を発表し、同社のIMS(音声通話やメッセージサービスを制御する装置)を導入する。このIMSにはどのような特徴があり、日本通信はなぜこれを利用することを決めたのか。
NTTドコモとの音声相互接続に合意し、2026年5月24日にフルMVNOとしてのサービス開始を目指す日本通信。同社はこの事業形態を「ネオキャリア」と呼び、現在その準備を進めている。音声通話が可能になるだけでなく、自社でSIMカードを発行できるようになり、コンシューマー向け、法人向けのどちらでも、その事業範囲やサービスが大きく広がることが期待されている。
その一環として、同社はドイツに拠点を構えるng-voice社との提携を発表した。ng-voiceはソフトウェアベースのIMS(IP Multimedia Subsystem)を開発する新興企業で、世界各国のMNO、MVNOがこれを採用している。では、このIMSにはどのような特徴があり、日本通信はなぜこれを利用することを決めたのか。日本通信の代表取締役社長を務める福田尚久氏と、ng-voiceのCEO、デビッド・バックマン氏に話を聞くと、同社の狙いが分かった。
クラウドベースでコスト8割削減が可能なIMS、スケール拡張も容易に
IMSとは、携帯電話のコアネットワークに置かれる装置の1つで、IP Multimedia Subsystemの略語であることからも分かるように、音声通話やSMS、MMSなどのコミュニケーションサービスを制御するために利用される。「+メッセージ」や「Rakuten Link」といったRCS(Rich Communication Services)アプリも、このIMSを介している点が一般的なコミュニケーションアプリとの最大の違いといえる。
一方で、既存ベンダーのIMSには専用ハードウェアの上に構築されていることが多く、コストが割高になっていた。この分野でも仮想化は進んでいるが、既存ベンダーのそれは、ハードウェアで実現した機能を単純にソフトウェアとして“移植”しただけのことが多いという。これに対し、ng-voiceは「ソフトウェアベースのコンテナ化されたIMSをゼロから開発した、おそらく世界で初の会社」(バックマン氏)で、よりコスト効率が高く、柔軟性も備えているという。
ng-voiceは2011年に設立された企業。歴史の長いベンダーの中ではまだ新興といえる存在だが、欧米各国のキャリア、ベンダーで経験を積んだメンバーが集まる“ドリームチーム”で運営されている。それを率いるのが、バックマンCEOだ
ng-voiceは、既存のベンダーと比べ、コストは80%程度削減できるとうたっている。バックマン氏は、「これは、クライアントのコスト削減に直結する」と語る。また、「私たちは透明性が高く、隠れたコストがない」(同)という。通信方式や機能のアップデートによって、思いのほか高くついてしまうことがないのも同社の売りだという。MVNOで大手キャリアほどの資金力がない日本通信にとって、これは非常に重要だ。コストが上振れしてしまう心配が少ないのも、導入しやすかったポイントといえる。
ソフトウェアとして構築されたIMSを展開するng-voiceだが、それを動作させる環境にも幅広く対応している。AWSやGoogle Cloudといったパブリッククラウドや、Red Hatなどを用いて構築されたプライベートクラウドでも動作する。また、既存ベンダーの装置上でも動くように設計されているという。「専用環境は必要なく、既製のハードウェアでも任意のクラウドでも動作するし、パブリッククラウドでも実行が可能になっている」(同)ため、キャリアは自身の環境に合わせて導入することが可能だ。
もう1つの特徴は、ダウンタイムがないことだ。ソフトウェアアップデートやリソースの割り当て変更をする際に、電話などのサービスを中断することなく、裏側でそれを実行できる。取材にあたってデモを見ることができたが、IMSの機能の1つで、3GとLTEでハンドオーバーした際に音声が途切れないようにする「SRVCC(Single Radio Voice Call Continuity)」のアップデートは、わずか30秒で終わった。しかもその間、他のサービスは継続していた。
これに加えて、IMSを動作させるためのリソース割り当ても、動的に行える。電話のトラフィックが増え、一時的に処理能力を上げたいときにそれを拡大することも瞬時にできるというわけだ。バックマン氏は、「同じことをレガシーなベンダーの装置でやろうとすると、数カ月はかかるプロジェクトになる」と笑う。福田氏は、「このスケーラビリティやフレキシビリティは、われわれにとって重要だった」と話す。
日本通信は、自身でMVNOを展開しているのはもちろん、MVNEとして他のMVNOにも回線を提供している。そのため、必要とするリソースが一気に増えてしまいやすい。段階的にキャパシティーを上げていければ、あらかじめ処理能力を上げておくといった不要なコストをかけずに「膨大な数の顧客に提供することもできる」(同)。低コストで、柔軟性が高いことが導入の決め手になったというわけだ。
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