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JR飯田線で「PayPay」による乗車実験 JR東海に経緯を聞いた

既報の通り、JR東海が8月1日から「PayPay」を使った乗車(精算)の実証実験を行う。その経緯などを同社に聞いた。

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 既報の通り、東海旅客鉄道(JR東海)は8月1日から10月31日まで、飯田線の川路駅(長野県飯田市)〜宮木駅(長野県辰野町)間においてスマートフォン決済アプリ「PayPay」を使った乗車の実証実験を実施する。

 このニュースに触れた筆者は「なぜ飯田線?」「なぜこの区間?」「なぜPayPayで?」と、複数の疑問が浮かんだ。そこでJR東海広報部に質問をしてみたところ、回答を得られたのでまとめて記事として掲載する。

 なお、質問と回答は、意味や文脈に影響のない範囲で体裁を整えている。

イメージ
実証実験における決済のイメージ(写真提供:JR東海)

なぜ飯田線? なぜ川路〜宮木間?

筆者 なぜ飯田線で実証実験をすることしたのでしょうか。

JR東海 ワンマン列車で運賃をお支払いいただく際に、2000円以上の高額紙幣をご利用の場合にお客さまにご不便をおかけするケースがあることなどがあり、その対応策として、近年普及率の高まっている二次元コード(PayPay)による運賃収受の有用性を検証いたします。

筆者 実証実験の区間を川路〜宮木間と絞ったのはなぜなのでしょうか。

JR東海 飯田線の川路〜宮木間は、駅係員無配置駅が連続していること、高額紙幣をご利用のお客さまが一定数存在すること、列車体系が分かれていることなどから、データを取得しやすい区間のため、試行区間としました。

 飯田線は、豊橋駅(愛知県豊橋市)から辰野駅(長野県辰野町)を結ぶ195.7kmの路線だ。山間地域を走ることなどから、全線を通して運転する列車は限られており、区間運転の列車が多い。

 広報部の話にもある通り、今回実証実験を行う川路〜宮木間はいわゆる無人駅が非常に多く、先の記事でも触れた通り、この区間で終日駅員のいる駅は飯田駅(長野県飯田市)と伊那市駅(長野県伊那市)だけとなる。一方、ワンマン列車に搭載されている運賃箱には両替機も付いているが、両替できるのは硬貨と1000円札のみとなる。

 無人駅の多いこの区間で高額紙幣を使う乗客が多いと、運転士が対応に忙殺されてしまうのは想像に難くない。

高額紙幣への対応は大変なのか?

筆者 ワンマン列車での運賃収受によって発生する列車の遅延は深刻なのでしょうか。

JR東海 ワンマン列車で運賃をお支払いいただく際に、高額紙幣をご利用の場合にお客さまにご不便をおかけするケースがあることがございます。具体的には、当社におけるワンマン列車では車内の両替機が高額紙幣に非対応であり、高額紙幣をお持ちのお客さまに対しては、お客さまから一時的に高額紙幣をお預かりして証明書を発行し、後で駅にて差額の払い戻しを行う「概算収受」という取り扱いを行っています。

 概算収受は、証明書の記入に時間を要すため列車の遅れにつながる他、お客さまには再度、差額の払い戻しのために駅までお越しいただく必要があります

 筆者はかつて、JR東海のワンマン列車に乗った際、広報部の話に出た「概算収受」の手続きをしている場面にも何度か遭遇した。1件当たりの手続きは1分程度で済んだと記憶しているが、これが複数人となると、列車のダイヤにも大きな影響が出てしまう可能性がある。

 「だったら、両替機を高額紙幣対応にすればいい」と思うかもしれないが、高額紙幣対応の両替機は、両替用の札を搭載するためのスペースが必要な上、そもそも値が張る。セキュリティの観点からも、極力避けたいところだろう。

運賃箱
飯田線のワンマン運転に搭載されている運賃箱には両替機能は付いているが、硬貨と1000円札のみとなる(写真は別路線の別形式に搭載されているもの)
概算収受の案内
JR東海でワンマン運転を行う列車の一部には、概算収受に関する案内が掲出されている(写真は別路線の車両に貼られているもの)

交通系ICカードの「車載型改札機」などは考えなかった?

筆者 JR西日本(西日本旅客鉄道)では、一部で交通系ICカードの「車載型改札機」を導入しています。これを御社の車両に搭載して対応することは検討したのでしょうか。

JR東海 日本のキャッシュレス決済額や比率の推移を見ると、近年は≪コード決済はクレジット決済に次ぐ規模で利用されていると認識しています。そこでコード決済の1つであるPayPayで実証実験を行うこととしました。

筆者 数あるコード決済の中から「PayPay」を選んだのはなぜでしょうか。

JR東海 複数種類の二次元コードを運転士が使い分けることになると、運賃収受に時間を要して列車遅延につながる懸念があると考えているため、PayPayのみで検証することとしました。

 日本ではコード決済サービスが多数存在している。一部では「共通コード」を導入しているケースもあるが、それでも複数のサービスに対応しようとすると複数の二次元コードを用意しないといけないケースもある。

 実証が目的であれば、コード決済の中でシェアの高いPayPayに絞って対応するのは理にかなっている。

在来線全線における「TOICA対応」方針は変わりない?

筆者 御社の交通系ICカード「TOICA」について、10月に身延線の鰍沢口駅(山梨県市川三郷町)〜甲府駅(山梨県甲府市)の間で導入されることになりました(参考リンク)。御社は在来線の全駅でTOICA対応を進める方針だったかと記憶していますが、今回の実証実験の結果によって方針を変更する可能性はあるのでしょうか。

JR東海 2022年10月に発表したように、「TOICA利用エリアの全線拡大」「在来線のネット予約/チケットレス化」については、残る線区の利便性向上や効率化について、各線区のご利用実態等も勘案しながら、検討を進めているところです。その方針に変更はありません

 飯田線のうち、起点側の豊橋駅から本長篠駅(愛知県新城市)までの間は、既にTOICAが使えるようになっている。今回の実証実験にかかわらず、終点の辰野駅までTOICAのエリアを拡大する方針は変わりないとのことだ。

本長篠駅
飯田線の豊川駅(愛知県豊川市)と本長篠駅の間では、この3月からTOICAを含む交通系ICカードが利用可能となった(写真は本長篠駅のICカード用簡易改札機)
方針
JR東海では、業務改革の一環としてチケットレス化の推進を掲げている。その一環として、自社の在来線全駅におけるTOICA対応を掲げている(ニュースリリースより)

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