「上りトラフィックは5年で約3倍に」 エリクソンが示すAI時代のネットワーク像と新世代基地局
AIが普及すると、モバイルネットワークに求められるものは何が変わるのか。エリクソン・ジャパンは9月28日の「エリクソン・フォーラム2026」で、上り通信の増加、ばらつきのない遅延、カバレッジの3つを同時に満たす必要があると説明した。基地局側にAIを載せる新世代機も展示した。
エリクソン・ジャパンは9月28日、自社イベント「エリクソン・フォーラム2026」を開催した。開催にあたって報道陣向けに開いた会見では、代表取締役社長のジャワッド・マンスール氏らが登壇し、AI時代のモバイルネットワークに求められる要件を説明した。
下り9割のスマホ通信から、上り7割のロボットへ
マンスール氏の講演は、AIアプリケーションを支えるネットワーク(Networks for AI)と、ネットワークの運用や性能向上にAIを使うこと(AI for Networks)の2つが中心だった。前者について、AIが普及すると通信の何が変わるのか。マンスール氏が第一に挙げたのは上り通信の増加だ。
これまでスマートフォンのトラフィックの大半を占めてきたのは動画視聴で、データを受け取る通信が中心だった。結果として下りが約90%、上りが約10%という比率になった。一方、写真や動画をAIエージェントに送る用途では上りの比率が上がる。
エリクソンは自社の分析として、上りのトラフィックが5年ごとに約3倍、下りが約2倍のペースで増えると予測する。世界55社の通信事業者の直近12カ月を見ると、約8割で上りの伸びが下りを上回っているという。
2つ目は遅延だ。動画視聴やアプリの操作は数百ミリ秒の遅延を許容するが、ロボットの制御のような用途では、短いだけでなくばらつきのない遅延が求められる。同社がAIアプリケーションの例として示した目安では、産業用ロボットなどの自律システムは下り30%、上り70%で、遅延はエンドツーエンドで10〜30ミリ秒に収める必要がある。AI搭載のウェアラブル端末は下り70%、上り30%で、遅延の目安は150ミリ秒だ。
3つ目はカバレッジで、こうした用途を成り立たせるには場所を選ばず接続できることが求められる。マンスール氏は「上りだけ、遅延だけ、カバレッジだけなら満たすのは簡単だ。だが3つを同時に満たすことが、モバイルネットワークにとっての課題になる」と述べた。
基地局は自社設計の半導体、ソフトバンク商用網で25%改善
後者のAI for Networksでは、AIをネットワークのどこで処理するかが論点になる。エリクソンは基地局とベースバンドには、無線処理向けに自社で設計したカスタム半導体(ASIC)とCPUを使い、将来はNPUも組み込む方針だ。エッジのデータセンターではGPUやCPUで推論を行い、さらに上位の拠点でAIの学習を担う。基地局は数万局の規模で設置するため、機器の価格だけでなく電力などの運用費まで含めて1台あたりのコストを抑えられる専用ハードウェアが不可欠だとマンスール氏は述べた。
なぜ汎用(はんよう)GPUではなく自社チップなのか。マンスール氏は、多数のアンテナ素子で複数の端末に同時に電波を向けるMassive MIMO無線機を例に挙げた。2017〜2018年の初代製品は55〜60kgあったが、現行機は12kgまで軽くなり、消費電力を抑えながら出力を上げている。この最適化は汎用設計では実現できないと説明した。基地局に載せるAIの処理についても同じだと、エリクソン・ジャパンの鹿島毅CTOは補足した。汎用チップでも処理はできるが、本体が大きくなり消費電力も増えるため、通信事業者が求める小型化に合わないという。
AIを組み込んだ無線アクセスネットワーク(AI-RAN)は、世界で15件を超える導入・実証が進んでいる。日本ではソフトバンクの5G商用網で、AIを使ってリンクアダプテーション(電波状況に応じた変調方式の切り替え)を制御するスケジューラーの有効性を検証した。8月に公表した結果では、スペクトル効率が最大約25%、下りのユーザースループットが最大約50%向上し、全評価エリアの平均でも両方が約10%改善したという。マンスール氏は「ラボの実験でも計算機シミュレーションでもなく、商用ネットワークでの結果だ」と強調した。
AIモデル用ストレージを20倍にした新世代ベースバンド
展示会場に並んだ新世代のベースバンド装置は、前世代と比べてダイナミックメモリを約3倍、AIモデルを格納するストレージを約20倍に増やした。ベースバンド側でAIモデルの推論を回せるようになり、前述のリンクアダプテーションやセル間のエネルギー調整といった制御に使う。Massive MIMO無線機にもニューラルネットワークのアクセラレーターを内蔵しており、こちらはチャネル推定など無線信号処理のAI化を担う。
無線機では、3つの周波数帯に対応する3バンドMassive MIMOや、600〜700MHz幅の帯域に対応する広帯域機も並んだ。鹿島氏は、通信事業者が離れた2つのバンドを持つ場合や、複数事業者でインフラを共用する場合に1台で済ませられると説明した。FDD帯の無線機についても、上りトラフィックの増加に備えて2×2から4×4アンテナへの更新を提案しているという。
場所と時間を指定してスライスを予約する、ソニーと実演
ソニーと共同で見せたのは、ネットワークAPIを使い、5G SAのネットワークスライスを場所と時間を指定して予約する仕組みだ。報道カメラマンが連写した数十枚の写真を、圧縮していないRAW形式のままスタジアムから送ると数GBに達し、観客で混雑した会場では5Gでも送りきれない。そこで撮影する場所と時間帯を事前に予約し、端末がその場所に着いて時刻になると、ネットワーク側が帯域を確保したスライスへ自動で切り替える。SIMにひも付いた契約の単位で制御する。
この仕組みはMWC Barcelona 2026でも披露しており、独ボーダフォンのネットワークでも動作を確認している。複数のカメラマンが同じ場所に集中した場合について、ソニーの豊田修之氏(技術センター 通信システム開発部)は、容量には限りがあるため予約が取れない人も出るとし、通信事業者がダイナミックプライシング(需要の変動に応じて料金を決めること)のような運用をする可能性にも触れた。帯域を保証するか優先制御にとどめるかは事業者のサービス設計次第で、現時点では実証段階だという。
日本でも3月のF1日本グランプリで、ソフトバンクがエリクソンと共同で6つのスライスを同時に運用し、フジテレビの中継カメラの映像伝送に上り25Mbpsを確保するスライスを割り当てた事例がある。
詐欺電話をネットワーク側のAIで見抜く
通話の基盤であるIMS上でAIを動かすデモもあった。1つは声紋の照合で、あらかじめ登録した本人の声と一致すれば着信側に本人からの電話だと表示し、別人が話すと警告を出す。もう1つはAI合成音声による詐欺電話の検知で、攻撃者が日本語を学習したAI音声でクレジットカード情報を聞き出そうとする通話を再現し、着信側の画面にAI音声である旨の警告を表示した。会話の内容と声の質の両方を判定材料にする。
AIはエリクソンのIMS製品内部に置いたサーバで動く。担当者は、IMSには音声データを処理する機能がもともとあり、外部から音声データに直接アクセスさせるとセキュリティ上の問題になるため、IMSに組み込む形にしたと説明した。声紋データなどの個人情報は電話番号とひも付けて外部に漏れないよう保護しているという。現時点ではテストラボで実演している段階で、通信事業者への商用導入例はない。
6Gに向けた展示では、基地局の電波で物体の位置を正確に検出するISAC(センシングと通信の統合)を紹介した。時速150キロで飛ぶドローンの追跡や、高速道路を走る車両の検出をプロトタイプで試験している。送信と受信を別の基地局で行う構成で、商用化は6Gが始まる2030年以降になる見通しだ。
村田製作所・住友電工と部品開発で協業
日本での取り組みとしては、村田製作所および住友電工と、次世代モバイルネットワーク技術の推進に向けた協力協定を個別に締結したと発表した。
エリクソン北東アジアのヨアキム・ソレリウス氏(ヴァイスプレジデント兼エコシステム開発総責任者)は、Massive MIMO無線機の内部写真を示しながら、既に40社以上の日本企業から部品を調達している一方で「赤で囲った部品は日本では調達できない」と説明した。該当するのはフィルターやサーキュレーター、RFパワー系の部品だという。両社が供給する部品を先端的で競争力の高いものにするための共同開発を進め、他の日本企業との連携も順次広げるという。
ソレリウス氏は、4月に横浜で開設したR&Dセンターを両社との連携拠点にするとした。同じく代表取締役社長の安東宏昭氏は、このセンターで最大300人規模の研究開発体制を構築する計画を示した。協業の成果は、エリクソンの次世代のグローバル製品に直接組み込むという。
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