News 2001年5月21日 11:01 PM 更新

クールなXboxの課題は“楽しさ”の追求

Microsoftは,5億ドルともいわれる資金をわずか18カ月の間に投入し,全力でゲームコンソールの分野に入り込もうとしている。しかし,今のままでは日本市場を取り込むことは出来ないだろう。第2の「3DO」にならないためには,本当の意味でベンダーからコミットを得る必要がある。

 いくらゲーム専門メディアじゃないからといって,「Xbox」のレポートをサボりすぎだろう。そんな批判の声が聞こえてきた。そう,できればあまり書きたくなかったのだ。なぜなら,適切な言葉を探すのが難しかったからだ。しかし,その答えのヒントは,フロリダから来たという販売店関係者のおばさんの一言だった。

「Xboxは楽しいと思う?」

 横幅のボリュームがかなりあるおばさんは,気さくに声をかけてくれた。

「Xbox,どう思うかしら? 私はソニーの製品が大好きだし,任天堂の楽しさはほかにはないわよね? でもXboxについては,どう評価するのか結構迷ってるのよ。日本の人から見て,どうなのかしら。Xboxは楽しいと思う?」

 ここで「Xboxはイイと思う?」と訊かれたら,おそらく「性能は最高だよね。あのグラフィック機能は凄いと思うよ。本体は日本の家庭向けにはデカいけど,ハードウェアのキャパシティと,PCで開発可能な手軽さ,参入障壁の低さは魅力的だね」みたいなことを,少ない英語のボキャブラリーを駆使して説明したに違いない。

 しかし,ここでは「楽しい(Fun)と思う?」と訊かれたのだ。これに対する答えはシンプルだ。「イカしたゲームはラインナップされているけど,楽しさは感じないね」と返すと「やっぱりそうよねぇ。ゲームコンソールなんだから,ゲームが楽しくないと。映画が見たいなら,私はDVDで見るわ」とは,フロリダのおばさま。

 既に各レポートでも述べられているように,MicrosoftがE3ブースで前面に押し出していたタイトル(HaloやAzurik,Night Casterなど)は,実際にプレイしてみると「う〜ん」と考え込まざるを得ない,平たく言えば(平たくないかもしれないが)いわゆるPCゲームにありがちな「洋ゲー」の域を脱していない。

 もちろん,これまで少なくとも米国では洋ゲーがPCゲームの世界を支えてきたことを考えれば,それ自体を悪と決めつけることはできないかもしれないが,日本市場で成功するのは難しそうだ。

 ハードウェアの性能だけを取り上げれば,Xbox>PS2>GAMECUBEの順になるだろう。もちろん,PS2にはない機能がGAMECUBEでは使えたり,GAMECUBEでは自動的に陰面消去をしてくれるから性能を出しやすい,などの要素もあるため,単純に比較できない部分もある。しかし,それらを考慮してもXboxがナンバーワンの性能を持つハードウェアであることは疑いようがない。

 テクモが見せた「Dead or Alive 3」のデモを見ると,それがリアルタイムでレンダリングされているとは思えないほどだ。もっともクールなゲームを作れるゲームプラットフォームは何? との問いならば,誰もが疑いもなくXboxと答えるだろう。しかし,おもしろいかどうかは別問題だ。

第2の3DOにならないために

 Microsoftは,5億ドルともいわれる資金をわずか18カ月の間に投入し,全力投球でゲームコンソールの分野に入り込もうとしている。しかし,今のままでは日本市場を取り込むことは出来ないだろう。その結果,日本のゲームデベロッパーがXboxから離れていく可能性もある。

 市場では,ここで高く評価したGAMECUBEとXboxは,さほど強く競合はしないかもしれない。GAMECUBEは7〜12歳あたり,つまり小学生を中心に人気があり,ゲームの内容も子どもたちにフォーカスしている。スターウォーズやセガのGAMECUBE向けタイトルなど,そのほかの年齢層にもアピールしそうなゲームもあるが,基本的にターゲットとしているユーザー層が異なる。

 一方,Xboxは10代後半から20代のユーザーをターゲットにしている。そして,この層はPS2を好むユーザー層とピタリと当てはまる。異なるのは,PS2が先行してインストールベースを増やし,日本のゲームベンダーからもコミットを得ていることだ。Xboxも日本のゲームベンダーから支持を得ているって? なるほど,そうかもしれないが,問題はXboxへの対応を表明しているか否かではなく,Xboxにどれだけ力を入れるかである。

 Xboxのケースと単純に比較はできないかもしれないが,かつて「3DO」が松下電器産業と組んでゲーム業界に参入したとき,3DOは見事なまでに敗れ去った。3DOがリリースされた頃には,既に「プレイステーション」や「セガサターン」などのゲーム機情報が流れ始めていたという事情もあるが,スタートダッシュに失敗し,普及に苦労しているところに次世代ゲーム機が次々と投入され,過去の遺物にされてしまった。

 スタートダッシュに失敗した原因は何だったかを思い出してみよう。3DOは日本の大手ゲームベンダーを含む多数のデベロッパーから支持のコメントをもらい,遅れがちながらも対応ゲームソフトを出してもらった。しかし,実際に蓋をあけてみると,確かに対応ゲームは出たものの“力の入ったキラーコンテンツを投入”といったレベルではなかった。とりあえず出しました,というタイトルが多かったのだ。

 もちろん,Microsoftは,失敗の轍を踏まないよう,細心の注意を払っているはずだが,今のまま日本市場に投入しても成功の確率は低いのではないか。Xboxの発売まで,もうそれほどの時間はない。第2の3DOにならないためには,本当の意味でゲームを良く知るベンダーからコミットを得る必要がある。必要なのは,決して人気タイトルの“2”や“3”,つまり続編ではなく,オリジナリティで勝負できるキラーコンテンツだ。世界最強のXboxに足りないのは,まさにそこの部分だろう。

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[本田雅一, ITmedia]

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