News 2002年11月13日 06:14 PM 更新

どうなる次世代光ディスク 第1回
規格の分裂は避けられない?――松下・東芝に聞く

現在の青紫色レーザーを採用した次世代光ディスク規格は、Blu-ray DiscファウンダーズとDVDフォーラムに分かれて規格化が進められている。両者が歩み寄る余地はないのだろうか?(毎週水曜掲載)

 波長405ナノメートルの青紫色レーザーを採用した次世代光ディスク規格は、日欧韓の9社からなる「Blu-ray Discファウンダーズ」と「DVDフォーラム」の2つの団体に標準化作業が行われている。前者のBlu-ray Discファウンダーズでは、すでにリライタブル規格(規格書の表紙には、「Blu-ray Disc Rewritable」と書かれている)の策定が終了し、規格の開示も始まった。

 対して、後者のDVDフォーラムでは、現在、0.1ミリの保護層を採用した方式と0.6ミリの保護層を採用した方式の2つの方式を検討中。それぞれのテクニカルワーキンググループを設置、規格の策定を進めているという状況だ。策定中のこの規格は、「Advanced Optical Disc(AOD)」という“仮称”で呼ばれている。

 経緯はどうあれ、現在の青紫色レーザーを採用した次世代光ディスク規格は、Blu-ray DiscファウンダーズとDVDフォーラムに分かれて規格化が進められており、「ベータとVHSの時の再燃か?」――とまで言われている。本当に両者が歩み寄る余地はないのだろうか。

 Blu-ray Discファウンダーズの中核企業の1社である松下電器産業と、DVDフォーラムの議長会社、東芝にこれまでの経緯と現状について話を伺った。

「自然の流れ」として生まれてきたBlu-ray Disc

 Blu-ray Disc規格策定について、松下電器産業のメディア制御システム開発センター所長 田中伸一氏は、「Blu-rayの規格は、ブルーの光源がないと検討ができない。去年までは、各社ともブルーの光源を手に入れるため、(日亜化学と)機密保持契約(NDA)を結び、レーザーを手に入れて実験を行っていた。そういった状況の中では、DVDフォーラムのような“開かれた場”では、議論することはできなかった」とDVDフォーラム抜きで各社の研究開発が進んだ事情を説明する。

 「(その中で)各社内部での検討はどんどん進んでおり、去年の光ディスクの学会(ODS)発表では、各社の技術の方向が揃ってきていた。自然な流れとして、ここまで揃っていたなら、細かい点を合わせて規格を統一した方が良いだろうという話が出てきた。そして、話し合いが始まり、ブルーレーザーが一般の市場で購入できるようになった今年には、ほとんど骨格ができてしまっていたというのが実態」(田中氏)。

 確かに、2001年の光ディスクの学会(ODS)では、青紫色レーザーを採用した光ディスクに関する研究成果が多く発表された。そして、その内容は、光源に「波長405ナノメートル」の青紫色レーザー、保護層が「0.1ミリ」、対物レンズのNA(開口数)が「0.85」という現在のBlu-ray Discの仕様に沿ったものが多くを占めていた。学会発表だけをとってみると、各社で同じものを設計しているのではないかと思えるほどだった。

 田中氏の話すように、その中で「自然な流れ」として、規格を統一しようという動きが出てきても不思議ではない。

2000年ごろから検討を進めていたDVDフォーラム

 一方、東芝の山田尚志氏(東芝デジタルメディアネットワーク社首席技監)は、DVDフォーラムの青紫色レーザーを採用した規格の策定について「ブルーレーザーを第2世代としてやっていこうという話をずいぶん前から進めていた」と話す。同氏によれば「その規格化について2000年ごろから『アドホック08』というものを作り、状況の検討を進めていた」という。

 しかし、DVDフォーラムという開かれた場での規格策定は、Blu-ray Discと同様に「青紫色レーザーに絡む機密保持契約(NDA)があったため、具体的な規格策定に入ることができなかった」(同氏)。

 今年に入ってこの制限がなくなり、オープンな場での議論が行える環境が整った。「今年2月の委員会で規格の議論を始めようということの承認がなされた。そこからスタートして、いろんな議論が始まり、まず、技術を検討しようということでワーキングループを作って検討を始めた。現在の状況は、提案された技術内容の確認が終了し、これから具体的なフォーマット策定を始めるという段階」(山田氏)。

 DVDフォーラムには、現在、青紫色レーザーを使用した規格策定のためのサブグループが2つある。1つは、保護層0.1ミリ保護層を採用したもの、もう1つが保護層0.6ミリのものである。現在進行中なのは、このうち、東芝とNECが規格の共同提案を行った後者の保護層0.6ミリのもの。前者の0.1ミリの保護層については、規格提案がなされていないため、事実上の開店休業状態である。

 すでに技術内容の確認が終了した0.6ミリの規格の今後のスケジュールについて、山田氏は「基本的には、DVDフォーラムでは、フォーマットをどこかが提案し、それの技術的な点の確認がなされれると後は、フォーマットがちゃんとしたものであれば認めるということになる。DVDフォーラムとしては、(0.6ミリについては)スケジュール通りに規格を作っていくしかない」という。

規格統一は本当にできないのか……

 Blu-ray DiscファウンダーズとDVDフォーラムに分かれて標準化が進む次世代光ディスク規格だが、両者ともに共通している点が1つある。それは、「門戸を閉じてはいない」ということである。

 というのは、Blu-ray Discファウンダーズでは、規格書の開示を開始しオープンな状態で仲間作りを行っている。DVDフォーラムでは、0.1ミリのサブグループを準備し、規格提案があればいつでも検討に入る準備がある。お互いがウェルカムの状態であるというわけだ。しかし、両者の姿勢は微妙に食い違う。

 「完成しているものを今更、フォーラムに持ち込んで(再度)議論する必要はないと考えている。(Blu-ray Discの規格は)すでに商品設計を行える段階まできており、タイミングを逸してしまったというのが状況だ。先にできているという事実を今更消すことはできない。かといって、ゼロに戻して、もう一回議論するというのも変な話だろう」

 田中氏は、Blu-ray Disc規格をフォーラムに審議提案を行っていない理由をこのように話し、規格提案する予定はないという。加えて「DVDフォーラムの方が業界を統一するために、Blu-rayの規格をフォーラムとしても承認していきたいというのであれば、きちんと説明する必要があると考えている」と話す。

 一方、山田氏は、「Blu-ray Discをやっている方々は、DVDフォーラムの主要メンバーでもあり、DVDフォーラムのルールややり方(議論の進め方)を知っている。DVDフォーラムとしては、規格提案があれば、審議を行う。もちろん、技術的なアドバンテージがあれば、それを認めて、規格にすることになるが、(Blu-ray Discの)提案は行われていない」という。

 Blu-ray DiscファウンダーズとDVDフォーラム。こうして見るといずれの言い分にも一理あるが、それは微妙にすれ違っている。救いなのは「分裂が決まったわけではない」「門戸は開いている」と両者が口を揃えており、分裂や対立の構図が、完全にでき上がっているわけではないことだ。しかも、実際の製品はまだ市場に出てはいない。

 とはいえ、このまま進めば複数の規格が策定される可能性が高いことは確か。エンドユーザーとしては、各社が「大人の態度」で事態の収拾に臨み、最終的な規格――というよりは実際の製品に採用される規格の統一がなされることを願うのみだろう。

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[北川達也, ITmedia]

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