News:アンカーデスク 2003年2月24日 03:10 PM 更新

大丈夫か、デジタル放送(2/2)


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 例えば瀬戸内地方など海を隔てた隣県同士では、お互いの放送が受信しやすい。これは電波には海上伝播という現象があって、地上に比べて海上では電波の到達距離が伸びるためである。

 地形が複雑な日本では、このような地域的メリットを享受して多くの放送を楽しんでいる家庭も少なくないことだとは思うが、デジタル放送になるが故にチャンネルが減るという事実を受け入れなければならない。放送事業者からすれば、対象地域外の人がどうなろうが知ったこっちゃないというところなんだろうが、その地域の映像文化にも影響する問題である、とは大げさだろうか。

結局誰が払ったのか

 デジタル放送の前哨戦として行なわれるアナアナ変換だが、1800億円と言われるこの対策費用がどこから出ているのかご存じの方は意外に少ない。ほとんどの方は税金から出ていると思われるだろうが、実際にこの費用は「電波利用料」という財源から出ている。

 電波利用料は、電波を使用する事業者が支払うものだが、その90%は携帯電話会社が支払っている。現実にはそのキャリアを利用しているユーザーに、その負担が分散されているわけである。

 ではデジタル放送にダイレクトに関係するテレビ局は、電波利用料という財源にどのぐらい寄与しているか。答えはわずか1%である。結果としてアナアナ変換で投入されるアンテナ、ブースター、あるいは工事のおじさんの給料は、あなたのケータイ使用料の一部で賄われるということになる。

 当然、携帯電話会社では、この不均衡に納得できるわけもなく、電波法改正をもって是正したい考えだが、放送局側としては、デジタル放送にすると決めたのは国であって放送局じゃないし、という大義名分を掲げている。

 つーか、そもそも電波利用料なんかで変換費用をまかなうことになーんか疑問を感じるわけだが、その理由付けは「お金に関すること編」のQ10に回答がある。放送のデジタル化は電波の有効利用のためなんで、ケータイとかにも関係あるでしょ、ということだ(モバイルの記事参照)。

 これに関しては以前から有識者の間で反対運動が行なわれているのだが、結局世論を動かすことなく現在に至っている(9月6日の記事)。

 例えばあなたがプラズマテレビを買いに量販店に行ったとしよう。そこの店員にやおら携帯電話コーナーに連れて行かれ、「これなんかどうでしょう。いや同じ電波を使うもんだから同じですよ」と言われたら、普通そいつをハリ倒さないか? だが政治レベルでは、テレビもケータイも同じようなもんに見えているらしい。

 結局デジタル放送というのは、いろいろな方面に多大な迷惑をかけながら進んでいく国策なのである。誰にメリットがあるのかよくわからないまま、ここまで来た。それでいざ始まった番組がつまんなかったら、がっかりだ。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。



関連リンク
▼ 総務省の告知ページ

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[小寺信良, ITmedia]

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