News:アンカーデスク 2003年6月2日 09:51 AM 更新

ソニーが「VAIO Media」で描く未来(2/2)


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 テレビというのは、実はかなり女性的なメディアだ。公開番組の観覧募集に応募してくるのはほとんど女性だし、男性タレントも、女性的というかソフトな物腰の人物がウケる。当然そこから発信されるメッセージも、女性がターゲットになる。

 しかし外出先までも、あるいはパソコンを使ってまでもテレビを見てやろうモチベーションを持ち、さらにネットワークに対する技術的バックボーンを持ち、パソコンを複数台所有することにお金が使えるのは、一部の男性に限られる。

 外出先から自分のPC内にあるコンテンツに対してセキュアにアクセスできるVAIO Mediaは、技術的には見るべきところは多い。しかし、いざそれを利用するとなると、どうも“シチュエーションの切り出し”がうまくできないのである。

 仕事中のサラリーマンが、スタバだのドトールなどのホットスポットに入り浸って30分も1時間もテレビ見てるという図は、やはり何かが間違っているとしか思えない。

 そのあたりのギャップを埋めるには、やはり機能は少なくても、ある程度専用機ベースにならざるを得ないのではないか、という気がする。

専用機はアリか?

 「VAIO Mediaを一言で表わすなら、ホームサーバクライアントソリューションということになるでしょう。VAIO Mediaでは映像、写真、音楽の配信が可能ですが、実はPC to PCでは、音楽や写真の配信はそれほどの革新性は認めていません。PC to PCでは、ビデオを外から見る、というのがポイントです。一方、家庭内では、PC to ステレオ、あるいはPC to WEGA(ベガ)といったAV機器が繋がるのが、最大のベネフィットだと思っています」(岸本氏)。

 そこから想像すると、次のステップはAV機器を使って外からビデオを見る、というところだろう。映像を持ち出すAV機器として思い浮かぶのは、ちょうど1年ほど前に発売されたSHARPのポータブルAVプレーヤー「MT-AV1」だ。

 3型液晶モニタを持ち、SDカードを装着した本体にアナログ入力して録画する。拡張性はほとんどないが、考える材料としては適当だろう。

 この製品のポイントは、最初からちゃんと「通学・通勤時間やお昼休みにエンジョイ」と、使用シチュエーションが明確だったことだ。さらにターゲットとして、女性を選んだ点は鋭い。筆者はこの製品の狙いは悪くなかったと思っている。

 しかし後日、かなり投げ売り状態になったことから察すると、それほどは売れなかったようだ。この敗因は、番組を外で見るためには前の晩から本体とビデオをセッティングして一所懸命録画しておかないといけないところだろう。1時間かけてそんなことしてる暇があったら、その時間で番組見りゃいいじゃねえかヨ、という矛盾を克服できなかったのである。

 例えばこのぐらいのサイズで、ダビング不要のパーソナルストリーミングが受けられるデバイスがあったとしたら、かなり魅力的だ。VAIO Mediaを象徴するなんらかのカタチを求めていくと、こういうものになるのではないかという気がする。

「誰でもVAIO」なのか?

 今までバイオの強みというのは、テレビ、音楽、写真をバイオ内に取り込めるというところだった。これらの取り込みを実現するのは、それぞれバラバラのアプリケーションである。もし「バイオがホームサーバ」ということを考えると、それを引き出す人は取り込んだ人と同一とは限らない。そこで平易なインタフェースが必要になる。それがVAIO Mediaのもう一つの役割だ。

 さらに外に持って行ったPCでも、家のテレビでも、あるいはバイオ本体でさえも、とにかくVAIO Mediaさえ起動すれば、同じ操作で番組、音楽、写真にアクセスできる。アクセス方法や人間に関係なく、一元的なインタフェースを提供するわけだ。

 アピールしにくい進化だが、バイオは2002年秋モデルから全機種にVAIO Mediaを搭載した。これによって、すべてのマシンがサーバとなりうる状況となった。

 一方、クライアントの方はさらに柔軟で、バイオ内には他のPCにVAIO Mediaクライアントソフトをインストールするためのインストーラも内蔵している。

 ソニー的には保証やサポートの問題があるのでなかなか言いにくいだろうから、筆者が代わりに言うと、VAIO以外のマシンでもWindows XPさえ動いていれば、たとえLaVieでもFMVでもクライアントとして使えるのである。

 「今はまだ、クライアント側からどのサーバに接続するかを選んで、その中のコンテンツが扱えるという状態です。PCというマシンで分けてフォルダで分けてというイノベーションをなんとかしないと。今後の課題は、サーバ単位というハードウェアの垣根を越えた、一覧表示や検索といった、Windowsが持たない機能を実装していくということだと認識しています。これをどうやって実現するか、内部的にも議論は熱いです」(岸本氏)。

 とりあえずサーバになるマシンはバイオだ、といういう縛りはなくならないだろう。最低限そこがなければソニーとしても商売あがったりだ。しかしクライアント側はPCでもAV機器でも自由に選べて、同じインタフェースでアクセスでき、家の中も外も関係ない、という状況を作り出すのがVAIO Mediaだということは分かった。

 目の前に課題があるとすれば、まず誰でも使えるには、最初の使いはじめの設定から誰でもできなければ、普通の人への普及は難しいだろう。現状では外からVAIO Mediaでアクセスするためには、サーバがある家のルータがUPnP対応であるのがベストだ。

 そうでなければ自分でIPマスカレード設定でポートをフォワードしてやる必要がある。現実問題として、お宅のルータはUPnP対応ですか、と聞かれて「ああ、こないだルータ換えたんでぇ使えるハズ」とか即答できる人は、“普通の人”ではないのである。

 そこのハードルを、現状のセキュリティやプライバシーを維持しながらいかに低くしていくかは、ソニーだけ頑張ればいいってもんではなく、業界全体の努力がキモになっていくだろう。

 インターネットだって最初は繋ぐだけでえらい騒ぎだったものだが、今やハードウェア買ってきて、線をプチプチ繋いでいけばとりあえずなんとかなるところまで来た。そんな調子で世の中が進んでいけば、しめたものである。

 セキュアで簡単なVAIO Mediaの未来まで、あともう少しだ。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。



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[小寺信良, ITmedia]

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