ユーザーのステップアップに応え始めたインクジェットプリンタ(1/2 ページ)
前回のコラムで、米国のプロ写真家のほとんどがエプソンプリンタを使っていると書いたところ(そのこと自身はコラムの主題ではなかったのだが)、さまざまな反応があった。このようになった理由は、エプソンが発売しているPM-4000PX、PX-1000、PX-8000、PX-6000といった、PX-Pインク(グレーインクを含む7色インクシステム)の完成度が高いことも一因だが、筆者はむしろ、ライバルがそうした分野における取り組みで遅れを取ったことが真相ではないかととらえている。
もう一つ付け加えれば、デジタルカメラなどの画像を、撮りっぱなしでそのまま入力すれば、それなりに好ましい画像で出力される“DPE的な使い方”を重視したコンシューマー機と、プロ向けの製品を同じ土俵では評価できない。前回のコラムに対しては、キヤノン派ユーザーから多くの反論をいただいたが、むしろメッセージはプロ向け製品の完成度と絶妙のテイストを、エプソンがG900などのコンシューマー製品に生かし切れていない歯がゆさを伝えようとしたものだった。
かつてインクジェットプリンタは、4万円から5万円のハイエンド機が根強く売れ続けていたが、写真画質性能の底上げにより、昨年末からは4万円の写真画質多機能機(具体的にはPM-A850)が売れている。おそらく単機能のコンシューマー向け写真画質プリンタは、早晩、市場が縮小へと向かうはずだ。「より高画質」よりも、「より低価格で多機能」が求められるようになるだろう。
しかし低価格の写真画質インクジェットプリンタは、メーカーにとって簡単な製品ではない。“お店プリント”との激しいランニングコスト競争の中、本体の低価格化とランニングコストの引き下げを同時にやっていきながら、品質を上げていけるだろうか?
だからこそ、一般コンシューマーとは別に、写真にこだわるアマチュア層に向けた製品展開を別途行う必要がある。その市場は(前回述べたように)銀塩の世界には存在せず、デジタルイメージングの世界にのみあるものだ。インクジェットプリンタベンダーは、そろそろ“銀塩写真の真似”を卒業し、インクジェットプリンタだからこその市場を掘り起こす段階に来ているのではないだろうか?
少々前振りが長くなったが、今回はキヤノンが“コンシューマーとプロフェッショナルの間にあるプロシューマー市場を意識した”という、「PIXUS 9900i」について、その方向性について感じたことを書いてみたい。
より完成度を増した9900iの「絵作り」
結論を先に書いてしまおう。PIXUS 9900iは高品質の写真出力、それもA3ノビという家庭用としては大きなフォーマットでの出力を求めるユーザーに福音となる製品だ。近年のキヤノン製品は、ターゲットユーザーへの最適化を意識するあまり、やや柔軟性に欠ける仕様の製品が多いと感じていたが、本機はDPE的な使い方にも、思い通りの写真印刷を求める使い方にも適している。
キヤノンはA4写真画質の現行機である「PIXUS 990i」の基礎になった「BJ F850」以降、メキメキとその画質を向上させてきたが、現在に至るまでの“絵作り”の方向性については、方針変更を繰り返してきた。
まずF850では、デフォルトガンマ値が1.4と非常に明るいトーンカーブが物議を醸した。後継のF860は、インクの色純度を引き上げて再現域を広げ、さらに後継のF870ではガンマ値のデフォルトも1.8と常識的な線に変更。このころから徐々に色調が変化してくる。
そしてBJ F900になると、一気にキヤノンカラーとも言うべき色に変化する。肌色や森の緑、青空などが鮮やかさを増し、「忠実な色再現」よりも、「好ましい色再現」を目指す方向へと明らかに振ってきたのだ。デジタルカメラの画像をそのままプリンタに流し込めば、それなりにきれいな色になってくれる。極端な自動写真修正処理を行わなくとも、見栄えの良い写真を得るという方向だ。
ところがPIXUS 950iは一転し、派手さを抑えたナチュラルな印象(あくまでも印象であって絵作りはされていたが)に変貌する。肌色や空、森をきれいに出そうという意図はあるが、それがわざとらしくないホドホドの調子になっていた。
しかし、950iの色調は一部の写真好きには受けたが、コンシューマーユーザー全体の評価としては「冴えない色」と判断されることが多かったという。同年のエプソン機は、低彩度部分の鮮やかさをアップさせる調整が加えられていたため、950iは特に日陰でのポートレイトなどで見栄えが悪かったのだ。
その反動か、昨年末のPIXUS 990iはレッド(実際にはオレンジ)インクなどで広がった色再現域を使い、見栄えを重視した絵作りに回帰していた。
この絵作りには賛否両論あったが、DPE的にデジタルカメラ写真を出力することにかけては、かなり高い完成度を実現していた。極端な絵作りによる破綻もさほどなく、色を調整しながら意図した出力を行おうというのでなければ、充分に納得できる色設計の素性の良さが990iの長所だ。
夕景におけるオレンジ色など、派手にするにしても“やりすぎ”を感じる部分や、濃青部で色が紫方向に転じるといった、特定の色域での未完成な部分があり、不得手な写真がマレに存在はするものの、総合的な絵作りの能力は、昨年末の製品でもっとも高かったように思う。
もっとも、このように書くと、キヤノンは何のポリシーもなく色を変えてきているように思えるかも知れないが、あくまでも基本線は同じだ。言い換えれば、同社は“キヤノンカラー(正式にはキヤノンナチュラルフォトカラー)”のコンセプトを守りつつ、その時々にターゲットとするユーザー層に適した絵作りを探し続けてきたのである。
エンドユーザーが求めているものが、(色の合う、合わないではなく)純粋にきれいさだけなのであれば、990iではかなり完成されてきていた。そして9900iは、基本的に990iの絵作りを踏襲している。しかし、990iで不自然に感じていた部分は大きく改善された。
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