オンデマンドサービスの「限界」(2/2 ページ)
ところが、技術が進歩するのは良いのだが、オンデマンドが便利になり過ぎて、次回の放送を見たいと思ったら、すぐに見られるようになったら、視聴者の心理はどう変わっていくだろうか。最初のうちは便利であると思うに違いない。ただし、大多数の人が短期間の間に、飽きてしまうことになるだろう。毎回のドラマがどのような終わり方をしようとも、気になる予告編を流しても、オンデマンドですぐに続きが見られるのだから、ワクワクなどすることはなくなるからである。
そういう心情の変化は、タイムシフト視聴が可能になるだけでは起こらなかった。リアルタイムに見ていなくても、次週の分まで見られるわけではないのであれば、ワクワク感はちゃんと残るのである。
ただし、録り貯めしておいて、後から見るのなら、1回分か2回分が限度だろう。仮に、十一話なら十一話をすべて録画しておいて、あとになって一気に見ることを試してみると、ストーリーがよほど面白ければ見続けられるけれども、別にワクワクしながら続きを見ているわけではないことに気づくのではないだろうか。スポーツ番組が生中継でないと面白くないのと同じことである。結果が分かっているスポーツ番組でワクワクする人は少ないからだ。
サーバ型放送の目的も、一話か二話を見損なってしまった人を救済することにあるのであって、それによって引き続き連続性を保ったまま、ドラマを見てもらおうといったサービスになるはずである。
人間はわがままな生き物であり、すぐに楽をしようと考える。だから、何もかもが便利になってしまったら、それを簡単に受け入れてしまう。だが、実はそれと同時に楽しさが失われていくことには気付きにくいものである。
VODの利用者を増やしていくには、あまりに便利なオンデマンドを実現してしまうのではなく、その一歩か二歩手前で止めておくことだろう。対象となるコンテンツを、映画やアーカイブ物の範囲を超え、限りなくリアルタイム物に近づけていくのは、ほどほどにしておくべきである。
エンターテインメントに限らない
オンデマンドの利便性を発揮するためのコンテンツとは、別にエンターテインメント系に限ったものではない。もともと、ワクワクなどしないジャンルになら、いくらでも好材料は見つかるはずである。
例えば、簡単な医療知識を得られるような映像や、学校の授業を補完するための教育素材を映像化したものなどは、非常に便利だし、いくら便利になっても飽きられることはない。もちろん、医療の専門家や、教育の専門家に取って代わるものを提供することはできないし、むしろそういう性格のものであるとの誤解を受けないようにすべきではある。
ただ、前者について言えば、どこの家にでも分厚い本が買い置かれているが、活字だけでは分かりにくい部分を補完する意味で、医師が簡単に説明してくれるような映像コンテンツがあって、それをオンデマンドで見ることができたら便利である。学校の授業の補完についても同じである。どうして参考書を読むだけでは済まず、塾に行って講師の話を聞くのかといえば、活字だけでは伝わりにくいニュアンスなどが、話を聞くことによって理解しやすくなるからである。
もちろん、両者とも補完に過ぎない。しかし非常に便利な補完である。映像で見られることができるからこそ便利なのである。オンデマンドで必要な映像コンテンツの素材は、むしろエンターテインメント以外のところに豊富に眠っていると言っても過言ではない。
放送局や、放送番組に関係する著作権者たちとの交渉に時間を費やすのは構わないが、その時間の中の一部をこうした実用的なジャンルを見渡すことに使ってみたらどうだろうか。VODの利用者は確実に増加していくことになるだろう。むしろ実用的なニーズに応えるところから、VOD利用者を増やしていくことにより、マーケットを広げてみたらどうであろうか。
放送局や、放送番組に関係する著作権者たちとの交渉は、おそらく、ある一定サイズのマーケットができてから行った方が、より効率的に成果を上げられるのではないかと思われる。
西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。
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