写真と日本人(2/3 ページ)
写真に対する国民性と習慣
これはおそらく、家族の写真を持ち歩く習慣があるか否か、あるいはオフィスのデスク上に家族の写真を飾る習慣があるか否か、ということにつながってくるのではないだろうか。
筆者の場合を考えてみると、家族の写真はiPod Photoはもちろん、紙の写真も持ち歩かない。今は家で仕事をしているので、上の子供が小学校に行っている間を除けば、四六時中家族と一緒に居るからだろうか。
しかし筆者も数年前までは、スタジオに入って仕事をしていたので、ほぼ普通のサラリーマンのように外に出勤していた。だがその時も、写真を持ち歩くことはなかった。
男というのはいったん社会に出ると、家族のことなどあまり人には話さないものだ。つまり、社会的にはオレに家族はあろうがなかろうが関係ないだろう、というあり方である。仕事である程度親しくなった人に対しても、あまり家族のことを根掘り葉掘り聞くのははばかられる。
ところが日本人でも、海外赴任の経験者、あるいは外資系企業となると、妻子の写真を持ち歩いたり、オフィスのデスクに子供の写真を飾ったりするのが普通になってくるようだ。いったん現地での習慣に合わせてしまうと、抵抗がなくなるものらしい。自分の家族を見られると恥ずかしいと思うのは、日本人同士の間だけの感情なのかもしれない。
筆者の仕事部屋のコルクボードには、子供らの写真がたくさん張り付けられている。だがそれは、この部屋には家族しか出入りしないことが前提としてあるわけで、これがどこかの会社のオフィスのように人目につく場所なら、おそらくそんなことはしないだろう。
この「人目につく」という言葉には、微妙な機微が含まれている。ただ見られるだけならば、「目につく」でいいはずだ。そこに「人」の時が入ることによって、単に見られるだけでなく、その視線を快いものだとは感じていないニュアンスが加わる。すなわちここでの「人」とは、「赤の他人」の意味に等しい。
日本人にはいつの頃からか、家族や家庭の内情に対して、他人の干渉を避ける傾向が生まれたようだ。源氏物語には、垣根越しに他人の家のいざこざを見て関わりになるような表現もある。長屋住まいの熊さん八つぁんの仲なら話は別だが、平安時代あたりでは貴族階級であっても、他人の干渉をイヤがる風潮はなかったと考えられる。おそらくはそれ以降に伝来あるいは発生した、思想や教育の影響であろう。
出自証明としての写真
写真を持ち歩くか否かによって、その人の家族に対する愛情を評価すべきではない。だが欧米では、どうもそれを自分という個人の安全性を表現する手段として使っているのではないか、という気がする。つまり家族の写真を見せることで、自分には愛すべきものがある普通の人間である、すなわち自分は安全な人間である、という証明なのではないか。
握手という挨拶は、多くの人の利き手である右手に何も隠し持っていないことを証明するための手段として、あるいは利き手の自由をお互いが同時に拘束することで安全性を確認するという意味で発生し、定着した。
すなわち信頼の印としての握手は、自分が無防備であるということをさらすということが前提となっている。家族の写真を知り合った人に(例えたまたま隣に座ったという程度の相手でも)見せるという行為は、握手と同じ意味を持ち始めているのではないだろうか。
その人の家族を知るということは、その人のバックボーンを知るということになる。また同様に、その人の家族に対するアプローチを知ることにもなる。「人と会って臆した時、その人が妻とふざけているところを想像するといい、そうすればたいていの相手は取るに足らないように見えるものだ」と書いたのは、『竜馬がゆく』の司馬遼太郎だったか。
iPod Photoには、液晶をカラーにするための理由付けとして、写真も見られるようにした、というネガティブな捉え方もあるだろうが、そもそも開発段階の意図には、家族の写真を手軽に持ち歩けたらいいよね、という発想があったことだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
資さんうどん、従業員の退職理由などが外部から閲覧可能に 委託先の勤怠システムに設定不備
-
2
VTuber「兎田ぺこら」グッズにSNSで風評被害→示談成立 「保護者同伴で謝罪などがあったため」
-
3
auメールで朝から障害 全国で利用しづらい状況に
-
4
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
5
GMO不正アクセスの犯人サイト、ドメイン停止を確認
-
6
Anthropic、独自の“創薬活動”に着手 社員1人のバイオ企業を買収、小児難病の治療薬研究を進める
-
7
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
8
メアドを検索→AIで“その人専用フィッシングメール”を生成する手法、クリック率が約2.7倍に 7000人以上で実験
-
9
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
10
「対策を後回しにしたサーバが軒並み狙われている」 相次ぐ不正アクセスにラックCTOが警鐘
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR