DVDレビュー
れこめんどDVD:「西鶴一代女」(1/2 ページ)
発売日:2006年9月22日
価格:4725円
発売元:東宝
上映時間:137分(本編)
製作年度:1952年
画面サイズ:スタンダードサイズ・スクイーズ
音声(1):ドルビーデジタル/モノラル/日本語
世界のクロサワと並び称される巨匠でありながら、今ひとつ手が伸びない、というか格調高くて何だか見るのに決心がいりそうな佇まいのミゾグチ(溝口健二)作品。
でもね、ブッ飛びますよ。スーパーマリオ、魔界村またはグラディウスばりの淀みない横スクロールのワンカット。映画用語では長回しって言うんですか。そこに彩りを添える情念のストーリーとダシの効いた役者がいれば、もうそれだけでいい。
本作を皮切りに「雨月物語」(1953)、「山椒大夫」(54)と、3年連続でヴェネチア映画祭受賞となった、世界のミゾグチ作品の切り込み隊長「西鶴一代女」を体験してみましょう。
ミゾグチのカンペキ主義に応えた職人のワザ
たとえばもう序盤からスゴイわけですよ。恋人・勝之介が不義密通の罪で斬首刑に処せられた知らせを聞いたお春(田中絹代)が、取り乱し家を飛び出し、竹やぶのなかを振り袖で走る、走る。それをやや見下ろす位置のカメラが延々、追いかける。ってどうやって撮ってるの? っつうか、いい竹やぶだなあってわけの分からない感心をしてしまいます。
また、意外にもコミカルかつポップなシーンもあります。お殿様の側室(子孫を残すために迎える正妻以外の妻)探しのために、茶屋などが並ぶ通りに、ずらりと集められた娘たち。いわば街頭オーディションですな。
お殿様の命を受けた爺やが、オーダー通りの娘をスカウトすべく路上を右往左往。「この娘はどうじゃ」「だめじゃ顔が長い」「おお丸顔、よいぞ」「だめじゃホクロがある」てなさまざまを滑らかに移動するカメラがとらえる。最後の娘に至ったとき「はあ、だめだあ」と途方に暮れる爺やの後ろで、娘たち全員がカメラの方を覗き込んでいる。
ミゾグチはまったく難解じゃない。こんなにポップな、言ってみればコントを撮っているわけですから。ところで似たようなセンスの映像を「ナック」(66・イギリス映画)でみたような気がします。居並ぶモデルをカメラがゆっくりナめていく感じ。
意識的にしろ無意識的にしろ、ミゾグチ作品は60年代のヨーロッパ映画の作家たちに多大なる影響を与えたといわれています。トリュフォー、ゴダールのヌーヴェルヴァーグはミゾグチなしでは生まれなかった、なんて説もあるとか。
もうひとつだけ名シーンをご紹介。ラストの見せ場、側室として産んだ我が子・若殿様にひと声かけようと、近寄るお春。「ならん」と取り押さえる屋敷の者たち、それを振りほどき目で威嚇し引き下がらせる女の凄み、長い渡り廊下を遠近法で去る若殿様をヒューっと追いかけるお春、再び屋敷の者にとらえられ、ンガーっと戻ってくる。ここではカメラは固定、役者の縦の動きで魅せてくれる。横スクロールから一変、客観視点のダンジョンに放り込まれた感じでしょうか。
カンペキ主義な画づくりをどうしても、ゲームやアニメーションのそれに重ね合わせたくなる私めであります。そうして見ると巨匠ミゾグチとのミゾがググッと埋まる気がします。
その論考がアリなのか、全然なっちゃいないのかは、没後50年ということで続々と発売されるDVD、全国を巡回するという特別上映について、それはたくさん作品を見て、パンフレット「はじめての溝口健二」を拝読させていただき、確かめていきたいと思います。だめですか、そんなスタンスじゃ。
また、本作には映画評論家・山根貞男氏による解説書、美術監督・水谷浩の仕事を、図面を交えながら解説する映像特典が付いており、長回しと流動的なカメラの動きでも破綻を来たさない、緻密なセットづくりが行われたことが分かりやすく示されています。
ご参考:WEB MIZOKEN http://www.kadokawa-herald.co.jp/mizoken/
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
日本人の大腸がん、約半数に“腸内細菌の毒素”が関与 40歳以下の発症は7割 東大・阪大が200人を全ゲノム解析
-
2
「コミューン」不正アクセスでLINEヤフー、Sansan、パナソニックでも会員情報漏えいの可能性
-
3
「お前たちのクラウドはわれわれのもの」 IDCFクラウドの管理画面に出た攻撃者のメッセージ 内容に運営元は
-
4
「男は狩り、女は採集」はどこまで本当? 約8割で女性も狩り、乳児連れの例も 過去100年の狩猟採集社会を調査
-
5
新作映画「バイオハザード」公開で原作ゲームも大盛り上がり? 劇場でマンガ家が頷いた、その理由とは
-
6
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
-
7
JR東日本、「えきねっと」「ビューカード」などで漏えいか メルアドなど最大609万件 IDCFへの不正アクセスで【追記あり】
-
8
OpenAI、安全性研究者3人を解雇 本人らは「安全性を優先したため」と主張、同社は「機密情報の扱いに関する規定違反」と説明
-
9
IDCFクラウド障害、親会社のソフトバンクが顧客窓口に 調査・復旧も支援
-
10
ココナラ、会員の履歴書など2294件漏えい スキルマーケットに不正アクセス
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR