植物のように生活に寄り添う“第2の耳”で何ができる? 大手メーカーとスタートアップの共同開発「Listnr」
言葉で指示するのではなく、周りの音を聞く“第2の耳”――Interphenomが開発したリスニングデバイス「Listnr」(リスナー)が現在クラウドファンディングサイト「Kickstarter」で製作資金を募っている。ハードウェア開発は家電ベンチャーのCerevo、音声認識エンジンはパナソニックと、3社による共同開発。大手家電メーカーがスタートアップとタッグを組んで世界を狙う。
植物のように生活に寄り添う“第2の耳”
「Listnr」はその名の通り、“聞く”デバイス。Wi-Fi接続機能とマイクを搭載した白いボディの前後に2つのマイクが組み込まれており、周囲5~6メートル程度の範囲から集音した音声をクラウドサーバに自動でアップロード。音声はクラウド上で分析し、特定の音声を認識した場合に本体のLEDが光ったり、スマホアプリに通知する。現段階では、乳児の泣き声の感情分析と、照明器具「Philips hue」の操作に対応している。
Interphenomの共同創設者・江原理恵さんは、植物や自然をモチーフに、プロダクトやオフィス空間の設計を手がけるボタニカルデザイナーだ。一見、ITやハードウェアとのつながりは薄く思えるが、根底にあるのは「生活に溶け込むものを作りたい」という視点だという。
音声認識機能を搭載したスマートフォンや家電はもはや珍しくないが、ユーザーが声を発して機械に指示しなければならない。江原さんはそのことに違和感を覚え、「何気なく周囲にある生活音をトリガーにできれば、もっと自然に“コミュニケーション”できるのでは。人間が機械に合わせるのではなく、機械が人間に寄り添ってくれる世界に近付けたい」と考えるようになったという。
大企業で埋もれている技術をスタートアップの手に
スタートアップによる新たなプロダクト――というだけでなく、大きな特徴はその開発プロセスだ。コンセプトを描いたのは江原さんだが、電子回路・組み込みソフトウェア・筐体設計を含むハードウェア開発はCerevo、音声認識エンジンはパナソニックが手がける3社共同のプロジェクトになっている。
乳児の泣き声を「泣く」「笑う」など4つの感情に分析する技術は、若手有志によるパナソニック社内プロジェクト「ベイビーブレス」で開発した。業務時間の10%を自主的な技術開発に当てられる「10%ルール」の中で生まれたもの。プロジェクトメンバーの飯田恵大さんらは小さな子どもがおり、言葉ではやりとりできない赤ちゃんとの新しいコミュニケーション手段を目指した。
開発は2013年の秋。技術自体は社内で表彰されるなど一定の評価を得たものの、ニッチなニーズには限界がある。だがせっかく開発した技術、このまま埋もれさせるのも――パナソニック出身でもあり、元々交友があったCerevoの岩佐琢磨代表の元に飯田さんが開発のタネとして持ち込んだのは今からちょうど1年ほど前の14年初めのことだった。
「最初はとにかく『これで何か作りましょう!』というくらいで。まだ具体的に製品化のめどはなかったものの、プロトタイプとして筐体のデザインや機能部分を少しずつ詰めていきました」(飯田さん)
江原さんが合流したのはそれから半年以上後。昨年10月にオープンした、電子工作やハードウェア制作に携わる人が集まるシェアオフィス兼スペース「DMM.make AKIBA」に、Listnrの元となるアイデアとコンセプトを持ち込んだのがきっかけだ。
岩佐代表がこのプロトタイプを持ち出し、「今開発しているものとつなげたらどうか」と提案したのがきっかけとなり、形やコンセプトを数カ月で固め、製品として打ち出すことが決定。「DMM.make AKIBA」から誕生したプロダクト第1号となった。
飯田さんは「社内では数年かけて製品を開発するのが当たり前。長く時間をかけて開発し、大きなヒットを狙う既存のやり方と異なる新しいビジネスモデルの必要性を感じていても、自分たちだけではチャレンジの仕方が分からなかった」という。「クラウドファンディングの使い方も含め、外の企業と協働してスピーディに開発・マーケティングできたのは新たな選択肢になったと思う。既存企業の中で埋もれている技術は多く、フットワークの軽い組織との協働は今後1つの流れになっていくのでは」と今回の開発プロセスの意義について話す。
江原さんは、自らはエンジニアリングの知識はなく「1人では絶対にできなかった」。「こういうオープンな場所があることで、アイデアを口に出し、実際につながっていく可能性があるのは大きい。情報や技術が集まり形になる、そのプロセスのスピード感も印象的」と、ここまでの数カ月を振り返る。
世界に向けて情報発信 CESにも出展
1月に製品を発表し、米Kickstarterで出資を募り始めた。大手企業がスタートアップとタッグを組み、英語圏を視野に入れてクラウドファンディングを行うのは国内では初めてだとみられる。
英語でプロジェクトを立ち上げ、国外ユーザーにも送り届けることは、過去に自らニューヨークへの取材旅行の資金をクラウドファンディングで募った江原さんがこだわりたかった点だという。実際、現時点で出資者の3割を国外ユーザーが占める。
出資段階で家電見本市「2015 International CES」に出展したのも、世界展開を当初から視野に入れる意識の表れだ。ハードウェアが世界的に勢い付いている今、今年のCESは運営側の意向で例年よりもスタートアップエリアが拡大しており、メディアの注目も終始高かったという。
初めての製品化、初めてのCES――発売前に世界的な展示会でフィードバックを得られたのは貴重な経験だったと江原さんは話す。米国だけでなく世界中のメディアに1度に対応でき、他の企業とも情報交換できるだけでなく、将来のユーザーとなりえる人から直接声を聞くこともできた。
「情報公開という意味だけでなく、製品の魅力や問題点をユーザーの声で直接知ることができたのが良かった。『盗聴の心配は?』という質問が予想以上に多く、そのあたりを気にする人が多いのであればもう少し丁寧にメッセージングしていこう、と気付いたり」(江原さん)
Cerevoが単独でCESに出展するのは今年で3回目。岩佐代表は「海外に自ら出て行くのはハードルが高く感じるかもしれないが、ポイントを抑えればそう難しいことではない。時間とお金が限られているスタートアップこそ、国外も含めたメディア対応、ユーザーへのリーチ、販路の拡大が同時にできる場として価値がある」とみる。
「何ができるの?」は可能性がある証拠
出資は3月初めまで受け付け、出荷は9月を予定する。Listnrはある意味、未完成のプロダクト。開発者向けに各APIを公開し、ユーザーのアイデアを実現するツールとして、マイクとLEDを備えたこのシンプルなガジェットを活用してもらうことがもう1つのスタートだ。
「今の時点では『何ができるの?』とピンとこないユーザーも多いかもしれないが、逆に言うと、音が聞けること、インターネットとつながること、を使ってできることにはまだまだ可能性がある。室内の盛り上がりに応じて音楽や照明を切り替えたり、恋人同士2人の親密な雰囲気を察して光や音でアシストしてくれたり――“第2の耳”として、そっと生活を豊かにする存在になれれば」(江原さん)
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