「好きなことで、生きていく」の現在
ボカロPは「1人レコード会社」? 活動広げるネットクリエイターたちの新たな権利と義務(2/2 ページ)
例えば、ボカロPや歌い手が楽曲制作や歌唱のノウハウをまとめて販売すれば「デジタルコンテンツ販売」、ゲーム実況で人気を集めたユニットやユーザーが自ら旅番組を撮影し、編集してDVDとして販売した場合は「動画制作」、有料のメールマガジンやブログは「著述業」――と捉えられる可能性がある。人気ユーザーになればなるほど、単なる「作詞・作曲者」「ボーカリスト」「ライブ配信」から活動を広げている場合がほとんどだ。
特に音楽関連では、1人のユーザーが楽曲の制作、収録用の演奏、CDの制作・販売などまですべて行うスタイルはさながら“1人レコード会社”。「分業が基本のこれまでのレコード会社では存在しないスタイル」(仁平さん)であり、持つ権利や必要な申請も自ずと変わってくる。
楽曲に対する権利としては、作詞・作曲者が持つ「音楽著作権」に加え、通常はレコード会社や楽器演奏者、歌手が分割して持つ「著作隣接権」が存在する。ボカロPの場合、CDの制作販売を行う「レコード製作者」(一般には「原盤権者」)、収録音源を演奏するスタジオミュージシャンとしての「実演家」の権利も持つことになり、本来、楽曲使用時にはそれぞれの立場から印税の一種として「原盤二次使用料」を受け取ることができるのだ。
しかし、個人で活動している限り原盤二次使用料の請求のハードルは高く、権利を行使していない人が多いのが現状だ。仁平さんは「クリエイターに与えられている正当な権利として知名度を上げていくとともに、後に続く人がやりやすくなるためにもぜひきちんと活用してほしい」と啓蒙する。
同協会は、日本レコード協会や日本音楽制作者連盟と提携し、TVやラジオで使われた際の「放送二次利用料」、レンタルショップの貸し出し数で支払われる「レンタル使用料」のほか、私的録音録画補償金などを所属会員に還元する仕組みを構築している。
生活を支える健康保険、正当な契約をサポート
現在、同協会の会員は200人程度で、会員のジャンルは「音楽」「イラスト・デザイン」「文章やライトノベル」「ゲームや動画制作関連」がそれぞれ4分の1程度だ。ドワンゴとの結びつきが強いため、当初はニコニコユーザーが多かったが、最近はニコニコ外で活躍するWebデザイナーや小説家などからの問い合わせが増えているという。
入会の大きな同機になっているのがクリエイターを対象とする健康保険「文芸美術国民健康保険組合」への加入だ。ゲーム実況主を中心に、タレントや実演家であってクリエイターではないという理由で断られるケースが出てきており、「東京芸能人国民健康保険組合」へのあっせんも行っている。
創作物の権利や保険だけでなく、契約サポートなどのアドバイスも行っている。個人の創作者の知識やノウハウの少なさも伴い、クリエイターにとって有利とは言えない条件での取引も少なくない。詐欺など悪質なトラブルに巻き込まれるケースも起きている。困った時に司法書士や税理士に相談できる体制を整え、事前の相談や契約の代行を可能にしている。
次に来るのは「個人ゲームクリエイター」?
仁平さんが新たに盛り上がりそうなジャンルとして注目しているのが、フリーゲーム制作者だ。実況から注目される自作ゲームも生まれており、ゲーム制作ソフト「RPGツクール」でのスマートフォンアプリ制作が可能になるなど、裾野の広がりや成長の兆しを感じるという。
ゲームはシナリオやイラスト、プログラムなど複数の権利者が関わることも多く、キャラクターグッズやメディアミックスなどの横展開もしやすい。個人開発のゲームが書籍や映画につながった大ヒット作品「クロエのレクイエム」「青鬼」などに続くタイトルが出てきた時に、円滑に活動領域を広げていけるようなサポートを考えていく必要が出てくるかも――と活性化に期待を寄せる。
会員向けの施策としては、確定申告に限らない専門家への個別相談会や、地方在住者へのSkypeでの税務相談などを提供していきたいという。レコード会社や放送局と共有できるようなボーカロイド関連楽曲のデータベース化や、ニコニコ動画からYouTubeに転載された動画も同一著作物として管理する仕組み作りなども検討していく。
納税や権利に関わる問題は一概に正解があるものではなく、特に個人の趣味に端を発するネットクリエイターの場合は顕著だ。「今まで存在しなかった職業や生き方だからこそ、1人1人のクリエイターが何をしているかをきちんとヒアリングすることで次の提案ができる。これからも状況に応じて、既存の業界や制度と結ぶ方法を検討していきたい」(仁平さん)
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