山形豪・自然写真撮影紀
南部アフリカでヒョウを撮る
「一番好きな動物は何ですか?」という質問を最近よく受ける。アフリカに生息する数多の動物たちの中で、私がもっとも気に入っているのはヒョウだ。ルックスの美しさや習性の面白さ、そしてアフリカの動物を追う写真家にとってチャレンジングな被写体である点などさまざまな魅力を持っているからだ。
ヒョウは、イエネコを、プロポーションはそのままに、大きくして模様を加えた感じの動物だ。俗に言う“ヒョウ柄”は、一般的に斑点模様と思われがちだが、正確には、ロゼッタと呼ばれるバラの花のようなパターンと斑点との組み合わせになっている。体長はメスが104~140cm、オスが130~190cm、体重がメスで28~60kg、オスで35~90kgだ。イエネコ同様、一匹一匹が非常にはっきりとした個性を持ち、顔、特に目の周りの模様の違いを見分けて個体識別を行う。
アフリカの大型ネコ科3種(ライオン、チーター、ヒョウ)の中ではもっとも個体数が多く、分布域も極めて広いため、決して珍しい動物ではない。さまざまな環境への高い適応能力を持ち、砂漠からサバンナ、山岳地帯、湿地帯など、あらゆる場所に生息している。ところが、動物保護区に暮らすライオンやチーターが人目に触れることをあまり気にしないのに対し、ヒョウは総じて警戒心が強く、あまり姿を見せてくれない。しかもカムフラージュの名手であるため、向こうが姿を隠す気になったら、仮に目の前にいたとしても、我々の鈍い感覚では見つけ出すことは極めて困難だ。
サファリツアーにおいても、ヒョウはかなりハードルの高い”ターゲット”である。例えば、野生動物が多いことで世界的に有名なタンザニアのセレンゲティ国立公園に一週間のツアーに行けば、ライオンやチーターはかなりの高確率で見ることができる。しかし、ヒョウには一度もお目にかかれなかったとしても、まったく不思議ではないのだ。
そんなヒョウは、そのルックスからしても、被写体として魅力的であることに疑いようはない。では自力でヒョウの撮影にこぎつけるにはどうするか。まずは当然ヒョウの生息地に赴かねばならない。例えば、南アフリカのクルーガー国立公園は、ヒョウの数が多く、密度も高いことで知られている。
しかし、それだけでは不十分で、セルフドライブでヒョウを探し当てるには、相手の習性をしっかり勉強する必要がある。特に鍵となるのが、彼らの好む環境を知ること。ヒョウは完全に開けた場所にはあまり姿を現さない。ライオンなどに襲われた場合に備え、すぐに樹上に逃げられるように、木の多い場所を選ぶ。
特に頻繁に利用されるのが、身を隠し、狩りをするのに有利な川筋だ。アフリカのサバンナには、雨季の大雨の時にだけ水が流れる小型河川が多数存在する。そのような川の両岸は河辺林(かへんりん)で覆われており、ヒョウにとって格好の生活の場となるのだ。
また、獲物を安全な樹上に引っ張り上げてから食べる習性を持っているので、木の枝分かれしている部分に不自然な塊が乗っかっていたりしたら、それはヒョウの食べ残した動物の死骸である可能性が高く、そこが縄張りの一角であることの証明となる。サバンナにまるで島のように点在するコピーと呼ばれる花崗岩の大きな岩場も、身を隠すのに都合がよいためヒョウが大変好む地形だ。
見逃したくないサインは他にもある。例えば足跡。柔らかい砂や雨が降った直後の泥などは足跡が残りやすく、よい手がかりになる。草食獣がヒョウの居場所を教えてくれるケースもある。もしインパラの群れが全員一方向を向いて、耳をそばだてていたら、その先に何か彼らにとって危険なものがいる可能性が高いし、捕食者を見つけたら警戒警報を出したりもする。
これらに気付くことができれば、お目当ての相手を見つけだす確率は上がる。とはいえ、かなり根気の要る作業なので、相当な時間を費やす覚悟が必要だ。しかも、国立公園や動物保護区の中では、定められた道路を外れて車を運転することはできないので、捜索範囲もおのずと限定される。
フィールドに長期滞在する時間はないが、どうしてもヒョウが見たい、撮りたいということであれば、金にものを言わせるという手段もなくはない。南部アフリカには“私営動物保護区”という、国ではなく個人や企業が管理、運営する動物保護区が存在する。これらの場所では、国立公園などと違い、サファリカーで道を外れてブッシュに車で分け入る行為が許されている(セルフドライブはできないが)。
しかも、優秀なガイドが捜索を行ってくれる上、他の車と常時無線交信を行っているので、動物との遭遇率はセルフドライブの場合とは比べものにならないくらい高い。さらに、私営動物保護区では夜間でもサファリができる。これは日没後に活動的になるヒョウを撮るのにとても都合がよい。車には強力なスポットライトが積んであるので、ストロボを使わずに撮影ができるのもありがたい。
場所によっては保護区内に暮らす全てのヒョウが個体識別されている上に縄張りも特定されており、一日に何頭ものヒョウに出会うことすら夢ではない。南アフリカのサビサビ動物保護区、マラマラ動物保護区やボツワナのマシャトゥ動物保護区などがそれだ。これらの場所では、2泊もすればほぼ確実にヒョウの写真が、それも信じられないくらいの至近距離から撮れる。ただし、お値段も目玉が飛び出るほど高かったりするので、別の意味で覚悟が必要となる。地獄の沙汰も何とやらだ。
ちなみに、ヒョウが世界の大型ネコ科の中でもっとも広い分布域を持つのには、彼らが身を隠す能力に長けていること以外にも理由がある。それは、節操がないともいえる捕食行動だ。ライオンやチーターが獲物とするのは、基本的にガゼルのような草食動物だけだ。ところがヒョウは、自分が殺せるサイズの生き物であれば昆虫、両生・爬虫類、魚類、鳥類、哺乳類と何でも食べる。しかも、肉食獣すら好んで捕食する。南部アフリカのカラハリ砂漠に暮らすヒョウたちのメニューには、セグロジャッカルやケープギツネ、果てはリビヤネコというヤマネコまで入っているほどだ。また町や村の近隣では、人の庭先で飼われている犬も頻繁に餌食になる。そんなえげつない一面もまた、ヒョウの魅力なのだ。
アフリカで20年以上にわたり動物を撮り続けているが、ヒョウは何度出会っても惚れ惚れするし、いくら撮っても飽きることがない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
山形豪・自然写真撮影紀
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
日本人の大腸がん、約半数に“腸内細菌の毒素”が関与 40歳以下の発症は7割 東大・阪大が200人を全ゲノム解析
-
2
「コミューン」不正アクセスでLINEヤフー、Sansan、パナソニックでも会員情報漏えいの可能性
-
3
「お前たちのクラウドはわれわれのもの」 IDCFクラウドの管理画面に出た攻撃者のメッセージ 内容に運営元は
-
4
履歴書100通に1通「AIだけが読める文字」 20万件調査でわかった“就活ハック”の手口 米研究
-
5
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
-
6
JR東日本、「えきねっと」「ビューカード」などで漏えいか メルアドなど最大609万件 IDCFへの不正アクセスで【追記あり】
-
7
OpenAI、安全性研究者3人を解雇 本人らは「安全性を優先したため」と主張、同社は「機密情報の扱いに関する規定違反」と説明
-
8
新作映画「バイオハザード」公開で原作ゲームも大盛り上がり? 劇場でマンガ家が頷いた、その理由とは
-
9
山中で遭難の16歳少年、登山計画に生成AI「Claude」利用 救助隊は「ルートの妄信」警鐘
-
10
SBI証券、Google・Appleパスキー乗っ取り被害「確認されていない」 注意喚起は他社事案
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR