架空世界で「認証」を知る
君は「マニュアルプロテクト」を知っているか? 小島秀夫監督のゲーム作品に見る“認証の謎解き”(2/2 ページ)
実はこの幾何学模様は家紋であり、従業員コードはその名字の従業員の家紋と一対一で対応している。と言っても、ジョナサンも相棒のエドも日本人ではなく家紋についての知識など持ち合わせていないし、プレイヤーも分からない人が多いだろう。何回か間違えるとエドが「ジョナサン、家紋のことなら何かに載っていなかったか?」というヒントを出してくる。
実は、家紋表はゲームの取扱説明書(マニュアル)に載っているのだ。これに気が付けば、この場面は簡単に突破できるというわけだ。ジョナサンたちゲームの中の人物にとっては「知識認証」なのであるが、プレイヤーにとっては実は「所有物認証」となっているのだ。もちろん、家紋の知識が十分にあるプレイヤーにとっては「知識認証」なのだが……。
このように、ゲームを進める際にマニュアルの一部を参照しないといけない「所有物認証」がかけられていたゲームはPC黎明期にはいくつもあり、「マニュアルプロテクト」と呼ばれていた。
ゲームのディスクがコピーされても、マニュアルがなければゲームを突破できないようにしてコピー対策としていたのである。
現在では、ライセンスコードを同封し、オンラインで認証するなど、ライセンス確認のオンライン化が当たり前になったために、マニュアルプロテクトは少なくなってしまった。マニュアルのコピーやスキャン、そしてアップロードも手軽になったことも要因の1つだろう。
「ポリスノーツ」ではこのマニュアルプロテクトをゲームの謎解きの1つとして採用し、現実とゲームの境界を溶け合わせたところに評価すべきものがあると、私は考えている。
余談:コピープロテクトを巡るいたちごっこの歴史
ゲームソフトのコピープロテクトは、何も「マニュアルプロテクト」だけではない。フロッピーディスクでゲームが販売されていた時代は、ディスクに特殊な加工を行って、そこを読み取れるかどうかを試すプロテクトが一般的だった。
この特殊な加工は、コピーソフトでは再現できないものが多かったため、マスターディスクかどうかの「所有物認証」が成立していたのだ。
また、ゲームだけではなく、高価な商用ソフトウェアの中には、いまでも専用の装置(ドングル)をUSBポートに接続していないと起動しない「所有物認証」がかかっているものもある。
一方、昔のマイコン少年たちはどうにかしてこのコピープロテクトを破ろうと必死になっていた。プロテクト部分も精密にコピーする技術を作り上げたり、プログラムにパッチ(改変)を当て、プロテクトチェックの部分をスキップさせたりして動作するようにするプログラムを改ざんすることも一般的だった。
もちろんゲーム会社もそれに対抗してより複雑なプロテクトチェックを導入し、中にはエンディング直前でプロテクトチェックを行い、ゲームの正常な進行を不能とするなんて仕掛けをする場合もあったくらいだ(※3)。
※3:多くのプロテクトハッカーは、起動するかどうかでプロテクト解除の成否を判断し、ゲームを最後まで遊ばなかったことが多い。そうした事情を逆手に取った、巧妙なプロテクトチェックである。
そうしたマイコン少年の中には、その技術を磨いてエンジニアになり、世の中に役立つ製品を生み出している人も多い。コピープロテクト破りは違法であるし、決して褒められたことではないが、その知恵比べの結果として腕の良いエンジニアが生まれたと考えると、新しい技術が登場し始めた時期の面白さを感じられるのではなかろうか。
ちなみにCD-ROMの時代になると、ディスクに特殊な加工を行うことが難しくなってしまったため、コピープロテクトをかける側も難しくなった。その結果、ポリスノーツのマニュアルプロテクトのような工夫が生まれたのかもしれない。
次回はあの魔法少女を認証にこじつける!?
今回はややオールドゲーマー向けの話になってしまったが、いかがだっただろうか。ソフトウェアの形も変化してきている今だからこそ、こうした温故知新も必要かと思った次第だ。
さて次回は、ある魔法少女を取り上げようと思っている。魔法少女と認証に関係があるのか? 今度ばかりはこじつけに近いことになるかもしれないが……。ともかくお楽しみに。
では、本日の講義はここまで!
著者プロフィール
朽木 海 (ライター、編集者、γ-Reverse代表)
ゲーム会社や出版社などの「IPが欲しい会社」と、ライトノベル作家や脚本家、漫画家などの「IPを作りたいフリーランス」を繋げるためのプロジェクト「γ-Reverse」の代表。引き続きライター業や編集者業も行っています。
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架空世界で「認証」を知る
小説やマンガや映画やアニメやゲームといった「架空の世界に現れる、認証的なモノ」を伝える連載「架空世界 認証セキュリティセミナー」を転載。ITを活用する上で無視できない認証とセキュリティの話題を、楽しく分かりやすく伝える認証セキュリティの情報サイト「せぐなべ」内のコンテンツです。
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