Innovative Tech
3年間毎月15万円を、無条件に支給──サム・アルトマンが関わるベーシックインカム実験 結果は?
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
OpenAIのサム・アルトマンCEOが取締役を務める研究チーム「OpenResearch」が、ベーシックインカムに関する社会実験の結果を公開している。この研究は、米国における無条件の現金給付に関する包括的な実地調査であり、受給者の生活実態や行動変化を多角的に分析したものである。
米国の低所得成人1000人への毎月1000ドルの現金給付が、個人の意思決定や生活の質にどのような影響を及ぼすかを、政治的態度、自己決定能力、健康、雇用、支出の5つの主要な観点から検証している。対照群として、2000人に毎月50ドルを支給し、これらを3年間続けた。結果は次に示す通りである。
政治的態度と行動への影響については、投票行動や政治的選好に大きな変化は見られなかった。しかし、仕事に対する認識において変化が観察でき、個人や社会にとっての仕事の重要性、さらには政府プログラムへのアクセスにおける仕事の必要性についての認識が強まった。
労働時間の減少は見られたものの、これは仕事の価値を軽視したためではなく、むしろ自身のゴールや家族のニーズにより適した雇用を選択できる余地が生まれたことを示している。
自己決定能力の面では、予算管理や将来計画の立案、教育機会の追求、起業への関心において顕著な向上が見られた。具体的には、教育や職業訓練を受講した確率が対照群と比較して平均14%上昇し、低所得者に関していえば34%と高い上昇をみせた。
予算管理を実施する確率も5%増加し、財務管理に費やす時間も1カ月当たり約20分多くなった。
受給者は起業家精神を持つ可能性が高く、対照群と比較して8%上昇した。特筆すべきは、黒人受給者の起業率は対照群と比較して26%上昇し、女性受給者では15%増加した。これらの結果は、現金給付が個人の目標設定と実現に向けた具体的な行動を促進する効果があることを示唆している。
医療サービスの利用においては、救急医療や外来診療、特に歯科治療や専門医への受診が増加。歯科治療を受ける確率は対照群と比べて10%以上、医療支出は月平均20ドル増加した(健康保険料は含まれていない)。また、日常生活に支障を来すような飲酒が20%減少、処方されていない鎮痛剤を使用する日数が53%減少するなど、健康的な生活習慣への好影響も観察できた。
他者への経済的支援も増加 “助け合い”を促進か
雇用状況については、登録時点でCOVID-19の影響があり受給者の失業率が高かったことを踏まえなければならない。登録時の受給者の就業率は58%で、対照群は59%であった。プログラムの最終月には、就業率は受給者で72%、対照群で74%に上昇した。
受給者は、対照群に比べて、積極的に仕事を探している可能性が10%高く、仕事に応募する可能性が9%高かったが、応募した仕事の数は少なかった。受給者は、どんな仕事でも必須の条件として、興味深い仕事や有意義な仕事を選択する傾向が高かった。
現金給付プログラムの世帯収入への影響を分析したところ、給付金自体を除外して考えると、受給者の世帯総収入は2500~4100ドル減少し、対照群を下回っていた。ただし、月々の給付金1000ドルを含めて計算すると、受給者の平均個人収入は約1万ドル、平均世帯収入は約6100ドルと対照群を上回る結果となった。
支出パターンの分析では、月平均310ドルの支出増加を確認し、その内訳は食費(67ドル増)、交通費(50ドル増)、家賃(52ドル増)など、基本的なニーズに関連する項目が中心であった。
特筆すべき点として、他者への経済的支援が26%増加し、月平均22ドルの支出増となったことが挙げられる。この支出増加は、現金給付が個人の生活基盤を安定させるだけでなく、コミュニティー内での相互扶助を促進する効果があることを示唆している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「命の砂時計」連呼のGMO会見──熊谷代表の発言にXではツッコミ続出
-
2
GMO熊谷代表、涙の謝罪会見でも“熊谷節”さく裂──「31年間、もうけるという言葉は使ったことがない」
-
3
GMO熊谷代表、会見で改めて謝罪 SNS投稿巡り「配慮が欠けていた」
-
4
ロゴ画像用の公開領域に顧客ファイルも保存 GMO系シングルサインオン、4.5万人分漏えい
-
5
アットコスメ、会員約300万人分の情報漏えい 不正アクセスで
-
6
ニコニコレンタカー、免許証画像の事前登録を廃止 保存済み画像も全削除 サイバー攻撃の増加受け
-
7
「楽天銀行から数百万が勝手に移動」「残高が0に」……楽天証券のシステム不具合、連休中に発生
-
8
渦中のGMO、熊谷代表の発信は“火に油”か? 「経営トップが自ら広報」の功罪
-
9
総務省、GMO攻撃者サイトの「ブロッキング」を通信各社に要請 報道
-
10
楽天証券、顧客情報362件が漏えいか NTTデータ委託先に不正アクセス
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR