小寺信良の「プロフェッショナル×DX」
変わるライブ配信の姿 待望の新型スイッチャー、ローランド「V-1-4K」に見る“10年分の進化”(2/2 ページ)
10年間の開発成果を詰め込む
V-1-4Kは、入出力がかなり多様になった一方、機能的にはかなりシンプルにまとまっている。
バスはPGM/PSTもしくはA/Bの切り替えのみで、それの後ろにDSKがあるだけだ。バス上でPinPやキーヤーを使う場合はPST列がなくなり、NXTの待機ができなくなる。またABバスを使ったスプリットは、両方のバスを使用するので、PGM/PSTもなくなる。このあたりは他のV-1シリーズと同じだ。
一方で10年前と大きく違うのは、Graphics Presenterの存在だ。これをDSKにアサインすることで、エクスターナルキーを使ったカラーロゴなどの合成が可能になる。以前ならキーヤーにエクスターナルキーがなければこうした合成はできなかった。
ある意味Graphics Presenterがあることで、バスでキーヤーを使う必要がなくなったともいえる。おそらくPinPで使用するほうが多いだろう。
また操作面でも、VenuSetに対応したのは大きい。VenuSetはスイッチャーの機能のうち、必要な機能だけをiPad上に並べて操作できるアプリだ。プレゼンターが自分のタイミングで操作したいという場合、必要な機能だけを渡すことができる。
また、iPad対応「V-1-4K Remote」もリリースされる。設定などをグラフィカルに操作できるのに加え、コントロールパネル上の操作も可能だ。本体とV-1-4K Remote、もしくはVenuSetを併用すれば、2人でのスイッチング操作が可能になる。USB経由ではiPadは1台しかつながらないが、LAN経由でもう1台つなぐことができる。
例えば演者がVenuSetでPinP操作を行い、V-1-4K Remoteで1人がミキシングを行い、本体パネルでもう1人がスイッチングするといったオペレーションが考えられる。Graphics Presenterはスポーツなどの得点ボード機能も搭載しているので、それ専用のオペレーターがいてもいいだろう。V-1-4KとiPad2台、PC1台持ち寄れば、かなり自由度がきくシステムが構築できる。
この10年で変わったのは、配信技術者はそれぞれの専門職ではなく、カメラを振る、スイッチングする、ミキシングするなどの役職のどれにも対応できるようになったことである。また演者、例えばウェビナー講師なども、スイッチングとは何かを理解するようになった。e-ラーニングでは、先生が自らスイッチングしながら授業を行うといったことも行われるようになった。
発端は東日本大震災だったが、その後のコロナ禍によるリモート対応も重なり、ライブ映像配信に対する知識は飛躍的に広がったといえる。
もう一つ、機材量の減少に寄与するのが、「ROI」(Region of Interest)機能だ。これは4Kスイッチャーが出始めた頃からある機能だが、物理配線が必要だったり設定までが大変だったりしたため、あまり使われてこなかった。
ROIは、4K高解像度のカメラを1台用意して現場を広角で撮影しておき、そこから特定の画角をいくつか切り出すことで、複数のカメラがあるかのように見せる機能である。舞台やステージなど、特定の範囲内に全て被写体があるような現場では、カメラを1台用意するだけで数台分の映像ソースが得られる。
V-1-4KでROIで切り出せるのは最大4区画だ。設定は本体メニューでもできるが、V-1-4K Remoteでもグラフィカルに設定できる。ズーム倍率で切り出しサイズ、ポジションで切り取り位置を指定すると、その切り出し区画がクロスポイントに自動でアサインされる。2つ目、3つ目も同様だ。
例えば入力1に4Kカメラを接続すると、クロスポイント1~4までがROIの1~4に割り付けされる。ROIの設定はコピーしたり、設定を入れ替えることもできる。
例えば登壇者4人を公平に同じサイズに切り出したい場合は、1人に対して切り出し範囲を決め、そのROI設定を他のROIにコピーして位置を変えれば、確実に同じサイズで切り出すことができる。
オペレーションの分散
ローランドスイッチャーの特徴は、本体とコントロールパネルが一体化した構造にある。特に4Kスイッチャーとして見た場合、直接的なコンペティターとなる豪Blackmagic Designの4Kスイッチャーは、本体はラックマウント型でコントロールパネルを分離する傾向にある。どちらかというとマシンルームが別にあるスタジオ固定設備向けだ。つまり演者にスタジオに来てもらうという想定だ。
一方日本におけるライブ配信の主流は現場中継になるため、機材を持ち込んで設営するほうがメインである。このため、本体とコントロールパネルの一体化が有利に働く。
ローランドのスイッチャーは、1台の中に音声ミキサーを含め、多くの機能を詰め込む傾向にある。以前はローランドもオーディオコンソールを作っていたが撤退したことで、そうした詰め込み傾向に拍車が掛かった。しかしスイッチャーの前に座った1人が、映像と音声全部をオペレーションするのは、困難である。
そこでコントロールをiPadなどの外部に出すことで、オペレーションを分散する方に舵を切った。ハードウェアコンパネをつなぐのではなく、ソフトウェアコンパネを追加するという考え方だ。
ハードウェアコンパネは、結局はスイッチやスライダーの塊であり、どうしてもコストがかかる。一方ソフトウェアであればいくらでも提供できる。実際ローランドの制御用ソフトウェアのほとんどは、無償で提供されている。もともと専用ハードでしか動かないのでコピーしても意味がなく、ある意味ハードウェアドングルで保護されている状態ともいえる。
ソフトウェアが共通なので、スイッチャー本体が変わってもほとんど同じ設定やオペレーションで対応できるというところも利点である。 またスイッチャー本体のファームアップも頻繁に行われており、ハードウェアなのにバージョン3.5ぐらいにまで到達している製品も多い。
放送用スイッチャーのオペレーションに近いのはBlackmagic Designの「ATEM Television Studio」シリーズだが、ローランドは放送用をモデルにしながら、オートスイッチングやオートミキシングといった自動化や効率化を意識して取り入れており、独自の省力化を重視している。
こうした、機材が勝手にやってくれるといった傾向が好まれるのも、ネット中継の業界ならではであり、放送業界とはまた違ったニーズがある。ある意味そこが、ローランドが開拓した部分ともいえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小寺信良の「プロフェッショナル×DX」
クラウド活用にリモート編集環境と、映像にまつわるプロフェッショナルの分野にDXの波が押し寄せている。プロの現場で何が起こっているのか。最新のITトピックを小寺信良氏が解説する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
資さんうどん、従業員の退職理由などが外部から閲覧可能に 委託先の勤怠システムに設定不備
-
2
NEC、委託先の情報漏えいで謝罪 「セキュリティ事業を手掛ける企業として反省」
-
3
Apple、初のタッチ対応「MacBook Pro」発表 新型OLED搭載、国内価格は49万9800円から
-
4
JALの予約システムに不正アクセス 約9万人分の予約情報が漏えい 一部ではパスポート番号も
-
5
VTuber「兎田ぺこら」グッズにSNSで風評被害→示談成立 「保護者同伴で謝罪などがあったため」
-
6
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
7
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
8
Google、「Gemini 4 Carbon」発表 「Argon」公開から2週間、サイバー防御能力などを強化
-
9
メアドを検索→AIで“その人専用フィッシングメール”を生成する手法、クリック率が約2.7倍に 7000人以上で実験
-
10
Anthropic、独自の“創薬活動”に着手 社員1人のバイオ企業を買収、小児難病の治療薬研究を進める
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR