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ヒトiPS細胞活用の“脳が若返る鼻スプレー”、投与された中年マウスの記憶力や認知機能が改善 学術誌で掲載
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2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米テキサスA&M大学に所属する研究者らがJournal of Extracellular Vesicles誌で発表した論文「Intranasal Human NSC-Derived EVs Therapy Can Restrain Inflammatory Microglial Transcriptome, and NLRP3 and cGAS-STING Signalling, in Aged Hippocampus」は、加齢に伴う脳の炎症を抑え、記憶力や認知機能を回復させる新しい点鼻薬を開発した研究報告だ。
加齢に伴う記憶力や認知機能の低下には、脳の記憶をつかさどる海馬で起きる慢性的な軽い炎症が深く関わっている。火事のような激しい炎症ではなく、ボヤがずっとくすぶっているイメージで、このくすぶりが物忘れや認知機能の低下の一因になっているという。
この課題に対して、今回の研究では、加齢による脳のダメージを食い止める新たな治療法として、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作られた神経幹細胞が分泌する「細胞外小胞」(EVs)という極小カプセルを用いることで改善を目指す。
研究チームは、人間に換算すると60歳くらいにあたる生後18カ月の中年マウスに対し、このEVsを点鼻薬のように鼻から2回投与し、その後の脳の変化や認知機能を評価した。
EVsを投与されたマウスの海馬を調べたところ、細胞を傷つける酸化ストレスが減少し、脳の免疫細胞であるミクログリアの異常な集積が抑えられていた。さらに、細胞のエネルギー源であるミトコンドリアの働きを正常に保つ遺伝子が活性化し、脳を保護する機能が高まっていることも確認された。
治療効果の鍵となるのは、EVsに豊富に含まれるマイクロRNAという有効成分だ。これが、脳内で炎症の引き金となる特定のシグナル伝達(NLRP3インフラマソームやcGAS-STING経路など)の働きをブロックし、根本から炎症を抑え込んでいることが明らかになった。
また、個々の細胞の遺伝子の働きを調べる解析によって、EVsを取り込んだミクログリアの性質が大きく変化したことも判明。炎症を引き起こす遺伝子の働きが低下する一方で、細胞のエネルギー産生を高め、組織を修復するような働きが活発になっていた。つまり、脳内の免疫細胞が炎症モードから保護モードへと切り替わったことを意味している。
こうした脳内環境の改善は、実際の能力向上にも結びついており、見慣れた物体の認識や新しい環境の変化を察知する能力など、記憶力や認知機能を測る行動テストにおいて、EVsの治療を受けた老齢マウスは成績の改善を示した。
Source and Image Credits: Madhu, L. N., M.Kodali, S.Rao, et al. 2026. “Intranasal Human NSC-Derived EVs Therapy Can Restrain Inflammatory Microglial Transcriptome, and NLRP3 and cGAS-STING Signalling, in Aged Hippocampus.” Journal of Extracellular Vesicles15, no. 2: e70232. https://doi.org/10.1002/jev2.70232
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