SoftBank World 2026
「新人でもベテラン並み」を6週間で実現? 内線対応の効率化に奔走する横須賀市 通話録音から“対応の勘”抽出
内線での問い合わせ対応を“蓄積したデータ”で効率化──横須賀市が、ベテラン職員が経験から培った“暗黙知”を通話録音データから抽出し、他部署から内線でかかってくる問い合わせ対応の効率化に役立てる実証実験に挑んでいる。ソフトバンクが7月14日に開催した年次イベント「SoftBank World 2026」の講演では、同市の大島健範氏(デジタル・ガバメント推進室長)からその現状が語られた。
同市が実験の対象としたのは、市役所内の他部署の職員から会計課に内線でかかってくる問い合わせ電話への対応業務。抽出・明文化した暗黙知で対応できる問い合わせの割合(既知率)が、6週間で1桁台から69%まで伸びたという。ベテランの頭の中にしかなかった知見が誰でも使える形で残るため、経験の浅い職員の対応力の底上げや業務負担の軽減につながると期待する。
大島氏によれば、横須賀市では全国の自治体と同様に職員数の減少が続く一方、行政の支援を必要とする住民は増えているという。
限られた人数で行政サービスの水準を保つのは本来難しい。それでも「この案件は後回しでOK」「この根拠を伝えると早く終わる」といったベテランの経験と知識で業務を効率的にさばき、何とか維持しているのが実情だった。
しかし、標準の手順やツールが整わず、職員の能力でサービスの質が左右される「業務の属人化」や、通常業務のひっ迫で時間を確保できない「引き継ぎの負担」といった問題が現場ヒアリングで表出。ベテラン頼みの体制をいつまでも続けられない以上、その経験と知識を組織の資産に変える必要があった。
一方で横須賀市は2023年、全国の自治体に先駆けて全職員が使える生成AIを導入し、内部事務の効率化に活用してきた組織でもある。大島氏は3年間の運用を通じて「質の高いナレッジがあれば、質の高いアウトプットが出力される」と実感したといい、マニュアルに書くほどでもないコツや判断基準といった暗黙知の抽出が重要だと考えるようになった。そうした中、コンタクトセンター業務で暗黙知のナレッジ化に取り組んできたパーソルビジネスプロセスデザインから提案を受け、実証実験の実施に至ったという。
実証実験では、他部署の職員から会計課への内線電話の録音870件をテキスト化し、ナレッジマネジメント手法「KCS」(Knowledge Centered Service)に基づいて構造化した。KCSは、実際の対応内容を一定のルールで記録・整理し、次の対応で再利用しながら洗練させていく手法。録音からは問い合わせ内容や対応プロセス、資料に載っていない「判断の観点」を抽出し、499件のナレッジを作成した。
週ごとに測った既知率は、開始直後の1週目は1桁台で、新たな問い合わせのほとんどが蓄積済みのナレッジでは対応できない状態だった。しかしナレッジの蓄積とともに右肩上がりで増加し、実証期間の最終週に当たる6週目には69%に到達。つまり約7割の問い合わせが、過去の対応から作ったナレッジでカバーできる内容だったことになる。
作成した499件のうち再利用されたのは156件(18%)にとどまったものの、一部の頻出ナレッジが繰り返し使われる構造で、よく使うナレッジを優先的に整備すれば効率よく対応を改善できることも分かったという。
作成したナレッジの一部は、実務への還元も始まっている。利用頻度の高いナレッジをFAQ化し、市職員向けに展開しているチャットbotに取り込んだ。ベテランの頭の中にしかなかった「どんな状況の問い合わせに、何を基準に、どう答えるか」という知見が誰でも参照できる形で残るため、課題だった属人化の解消や人事異動時の引き継ぎにも効果が見込めるという。
大島氏は今後「対象範囲を広げて暗黙知をデータ化していきたい」としており、職員が業務の中でナレッジを本格活用できるよう、生成AIを最大限活用できるインフラの構築も検討しているという。
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