Innovative Tech
遺伝子の「鶏が先か、卵が先か」に答えが出た? ゲノム内移動の謎を東大が解明 Nature誌で発表
Innovative Tech:
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
東京大学とアーク研究所(Arc Institute)の研究グループが英国科学誌Natureで発表した論文「Structural mechanism governing the directionality of bridge recombination」は、大腸菌のゲノム内を移動する「動く遺伝子」(IS621因子)が、元の場所から切り出されるメカニズムを解明した研究報告だ。
この遺伝子が別の場所へ移動するには、「リコンビナーゼ」という酵素と、ガイド役の「ブリッジRNA」がセットで働く必要がある。これまでの研究で新しい場所へ挿入される仕組みは判明していたが、移動の第一歩である切り出しには「鶏が先か、卵が先か」というパラドックスが残されていた。
遺伝子をゲノムから切り出すためにはブリッジRNA(鶏)が必要不可欠。しかし、ブリッジRNAを作るためのスイッチは、遺伝子がゲノムから切り出されて環状のDNA(卵)になって完成する仕組みになっている。切り出しにはブリッジRNAが必要なのに、ブリッジRNAを作るには先に切り出されなければならない、という矛盾だ。
研究グループが詳しく解析した結果、このパラドックスの結論は、微量のブリッジRNA(鶏)が先であることが判明した。遺伝子が環状の卵になる前でも、ゲノム上の遺伝子周辺からごく微量のブリッジRNAが作られていた。
この微量のブリッジRNAが酵素と結びついて最初の切り出し反応を起こし、遺伝子を環状にする。環状化してスイッチが形成されれば、ブリッジRNAの産生が促進され、次のターゲットへの挿入反応が効率よく進むというサイクルが明らかになった。
さらに、同じ酵素とブリッジRNAを使うのに、切り出しは挿入より起こりにくい理由を解明した。1つはブリッジRNAとDNAの結合の強さ。ブリッジRNAには「ハンドシェイクガイド」と呼ばれる短い配列があり、反応の途中でDNAとの結合が挿入では強まるのに対し、切り出しでは弱まってブレーキがかかる。
もう1つはDNAの形で、挿入時はU字型に折れ曲がったDNAが真っすぐに戻る方向に進むため楽なのに対し、切り出し時は逆に、X字型に交差した真っすぐなDNAを折り曲げなければならず、エネルギー的に不利になる。
切り出されたまま新しい場所に入れなければ、動く遺伝子は自らを失ってしまう。さらにブリッジRNAがもともと微量にしか作られないことも、挿入の優先を支えていた。
Source and Image Credits: Hiraizumi, M., Athukoralage, J.S., Perry, N.T. et al. Structural mechanism governing the directionality of bridge recombination. Nature (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10903-y
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
-
2
タイムズカー、退会後も7年間保管していた免許証画像を全削除へ 約660万アカウント分の漏えい受け
-
3
BASE子会社の漏えい、約2335万人分に 209万人分はクレカ番号「先頭6桁と下4桁」「有効期限」も
-
4
人気Web制作ツール「Studio」全ユーザーの情報漏えいか フォームに送信された内容、外部APIキーなども
-
5
Microsoft、社内エンジニア数万人を対象に「Claude Code」「Copilot CLI」導入の影響を分析 生産性どう変わる
-
6
コミックシーモア、不正アクセスの可能性でサービス停止 メンテ終了時期は未定
-
7
「不気味の谷を越えた」? 中国の美男美女型ロボット「U1」話題 286万円から
-
8
「『楽天カード公式』から詐欺メール」報告相次ぐ ドコモメールに公式マーク付きフィッシング、一部企業の認証設定に脆弱性
-
9
「セキュリティソフトも売ってるのに」ソースネクスト会員情報漏えい、パスワード含む最大2252万件 API不正利用される
-
10
Tesla、新型「Roadster」発表 SpaceX技術で“飛べる”モデルも 日本でも予約受付中
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR