SNSでバズった〝四足歩行モビリティ〟は本当に実現する? 川崎重工の開発者が「山で四つんばい」になって見えてきたもの(2/3 ページ)

実用化の壁は「安全性」と「操作性」 AIだけに頼らない理由

 では、実際に人を乗せて山道を走るには、どのような課題があるのか。天辰氏は「技術課題は山のようにあります」と話す。特に難しいのが、安全性の確保と、乗り手が思い通りに操作できる仕組みの両立だという。

SAFE ADVENTURE事業総括部長の天辰祐介氏

 同社が目指すのは、馬に乗るように身体の動きで機体を操る「人馬一体」の操作感だ。具体的にはどういったものなのか。例えば、段差を越える際、コントローラーで脚の接地位置を細かく指定するのではなく、乗り手の重心移動などを読み取り、直感的に操作できる仕組みを構想している。

 その鍵となるのが、乗馬で足を置く「鐙(あぶみ)」に相当するステップ部分だ。将来的にはAIによる自動制御も組み合わせる考えだが、まずは人間が意のままに操作できることを優先する。現在は、乗り手の意思をどのように機体へ伝えるか、直感的に操作できる仕組みの開発を進めているという。

 乗り心地も重要な課題だ。天辰氏自身も乗馬に取り組み、馬に乗った際の感覚や体重移動を研究しているという。特に注目しているのが、速度によって変化する馬の脚運びやリズムだ。こうした馬の動きを参考に、振動を抑えながら、乗ること自体を楽しめる走行を実現したいとしている。

 速度については、あくまで構想段階とした上で、2050年の完成イメージとしてサラブレッド(走行速度は平均時速約60km)と同程度を目標に掲げる。

 ただし、利用者が山道をその速度で走行することを想定しているわけではない。「スーパーカーが時速300~400km出るといっても、購入者のほとんどはその速度を出さない」と天辰氏。実際の利用時には安全性を踏まえた速度での走行を想定する一方、機体が出せる最高速度は高めていきたい考えだ。

 現在は、乗車時の揺れや操作感、操作方法などを疑似的に検証する装置「ライディングシミュレーター」を開発中だ。川崎重工は27年中の完成を目指している。

 開発ではAIも活用するが、その使い方にもこだわりがある。天辰氏によると、AIに大量の試行錯誤を繰り返させ、うまく動いたモデルを採用するような強化学習は現時点では行っていないという。

 「なぜ飛んでいるか分からないけれど、飛べたから採用した、ではトラブルが起きたときに対応できません」と天辰氏は語る。そのため、人間が設計したモデルを基に機体の挙動を検証する「モデルベース開発」を基本とし、AIについては、雨や風など多様な環境への対応を検証するツールとして活用しているという。

CORLEOのモックアップと天辰祐介氏 提供:川崎重工業㈱

2035年に製品化へ リヤド万博では新たな姿も

 こうした課題が残る中、川崎重工はなぜ2035年の製品化を目指すのか。

 天辰氏によると、2050年の構想は、山奥まで自在に走り、障害物を跳び越えて戻ってこられるような完成形を描いたもの。一方、走行できるコースや条件を限定すれば、2035年にも乗って楽しめる製品として提供できると判断したという。

 事業化を後押ししたのが、万博での大きな反響だ。メディアやSNSを通じて話題が広がり、「市場として確かにある」という社内の手応えにつながったという。

 川崎重工は2035年の製品化に向け、観光・レジャー分野を中心とした展開を計画している。天辰氏によると、当初は機体が高額になると見込まれるため、法人向けから始める構想だ。また、同社による専用の「ライディングパーク」などを設け、一般利用者が乗車を体験できるサービスから始めたいとの考えも明かした。

 ライディングパークでは、利用者ごとの操作の癖を記録する機能も構想している。例えば、乗車時の体重移動の癖などをCORLEOが記憶し、次回の利用時にそのデータを呼び出すことで、自分に合った操作感を再現するというものだ。機体を所有していなくても、乗車を重ねるほど自分になじんだCORLEOを利用できる仕組みを目指す。

 その前段階となるのが、2030年のサウジアラビア・リヤド万博だ。川崎重工は同万博で新型機の披露を目指しており、会場内モビリティとしての採用も狙う。

 天辰氏は同万博で、現在のコンセプトモデルに続く新たな機体「CORLEO X-1」を発表する予定だと明かした。ゲーム産業やメカeスポーツとの親和性も高め、より力強いデザインに進化させる考えだ。

 さらに、リヤド万博では、CORLEOの用途を移動手段以外にも広げる提案をしたいという。その1つが警備用途。天辰氏は、バッキンガム宮殿の騎馬警備を例に挙げ、CORLEOも高い視点から周囲を見渡せることに加え、その場に立っているだけでも存在感を示せると説明。移動だけでなく、その見た目を活かした用途への展開も視野に入れている。

CORLEOのモックアップ 提供:川崎重工業㈱
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