ニッチ企業でもできる!IT活用で海外進出

誤訳で“違う製品”を作りかけた? ベトナム工場への指示書、通訳よりGeminiの方が伝わったワケ

 世界でも高い技術力を持つことで知られる日本企業。ニッチ分野で目立たないものの、高い技術や世界シェアを持つ企業は少なくない。ドイツの経営思想家のハーマン・サイモン氏はこうした企業を「隠れたチャンピオン」と定義し、経済産業省も「グローバルニッチトップ企業」として支援している。

  グローバルニッチは高い技術力を持つ一方で、知名度が実力に比べて劣り、ITを駆使して海外でのブランディングや販売にいかしていることも多い。この連載では、こうした企業のIT戦略をインタビューで深掘りする。

 第18回は金型交換装置や搬送ロボットなど産業機械の製造・販売を手掛けるニチエツ(横浜市)を取り上げる。同社は、ベトナムの現地法人に送る製品の指示書をAIで翻訳して、生産の正確性や迅速化を実現しているという。

中村高志社長

 同社の中村高志社長は「かつては指示書の翻訳が誤解され、生産性が下がっていた。AIを活用して改善を進めている」と話す。聞き手は、海外進出する中小企業のブランディング支援などを手掛けるZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)。

AI翻訳でベトナム工場の生産性向上

──ニチエツは産業機械を日本、ベトナムで製造しています。事業の概要を教えて下さい

中村高志社長(以下、中村社長):当社は2017年11月に横浜市で創業した産業機械メーカーです。金型交換装置や搬送ロボットなどを開発、生産しています。主力の金型交換装置は、プラスチック成型機、プレス機などの金型を自動または半自動で搬送・着脱する装置のことです。数十kg~数tもの重量のある金型を安全かつ短時間で交換し、段取りの時間短縮と安全性を向上させるものです。供給先は自動車、自動車部品、電機などのメーカーのほか、医療関係です。

同社は金型交換装置や搬送ロボットなどを開発、生産している

──製品の特徴や強みは

中村社長:当社の金型交換装置は、既存の製品に比べて小さく、値段も高くないのが特徴です。機械の機能を維持しながら高密度で設計・レイアウトする独自の製造方法を開発したことで、装置が専有する床面積を従来品より30~50%小さくできるようになりました。国際競争の激しい製造業では工場の1単位当たりの生産性を重視しており、専有面積の小ささは自社製品の強みになっています。

このほか、耐久性の高さも特徴です。従来の装置は、金型を高速で動かす際にローラーが強く当たってしまい、ローラーのベアリングが壊れるという欠点がありました。このため当社では、ローラーが柔軟に動いて衝撃を逃がす仕組みを開発し、壊れにくい交換装置にしています。日本に比べれば人件費の安いベトナムで生産しているため、比較的安価に製品を提供できる強みもあります。

──海外では人材確保や運営など難しい面もありますが、海外進出に踏み切った理由を教えてください

中村社長:私は起業前にキヤノンのエンジニアとして12~17年に同社のベトナムの現地法人で勤務し、優秀な人材が多くいることを知りました。このため、起業した際にはベトナムで製品を生産しようと考えていました。19年にはハノイに現地法人を設立。ハノイ近郊のバクニン市の工場を25年に稼働させました。ベトナム工場は単なる生産拠点としてだけでなく、研究開発拠点としても活用しています。

──海外でのAI活用について教えてください

中村社長:海外ビジネスでは言語の違いに難しさがあります。特に助けられているのは、工場に送るベトナム語の製品開発の指示書を生成AIで作れるようになったことです。指示書は、高度な技術の内容を書き込むため、どんな仕様にするのか、どんな場所に注意して作るべきなのか、などを細かいニュアンスを含めて正確に表現しなければなりません。

──誤訳などの恐れもあるのではと思いますが

 そもそもこうしたことは、ベトナム語に堪能な通訳にお願いしても、どうしても技術的な知識が不足していたり、自分の頭のフィルターを通したりして、正確に伝わらない時がありました。実際、これまでも翻訳の誤解から、ベトナム工場が間違った内容の製品を製造しかけたり、意思疎通が遅くなったりすることもありましたが、AIを使うことで改善しています。

──採用しているAI翻訳ツールは

中村社長:現在はオフィススイート「Google Workspace」上で利用できる有料版のGeminiを活用しています。日本語で設計意図や細かな技術的ニュアンスや数式を入力し、技術用語に特化したベトナム語の指示書を出力させることで、現地のエンジニアが直感的に理解できるドキュメントを迅速に共有できるようになりました。指示書の作成にとどまらず、開発の試行錯誤で行き詰まった際の「新たな制御アイデアの壁打ち」や発想の引き出し役としても活用しています。

──国内で活用しているシステムを海外にも展開する計画があると聞きました

中村社長:海外ではまだ実用化していませんが、今後、活用したいと思っているのがトラブル対応のシステムです。日本国内では装置にトラブルが起こっても、オンラインで状況を詳細に聞き取り、プログラムをアップグレードできるシステムを導入しています。

 これにより、小さなシステムトラブルや現場オペレーターの操作の不慣れにより呼び出されることが大幅に減り、国内出張の数は大幅に減りました。このシステムを導入している製品に限定すれば、出張の8割以上を削減できています。トラブル時の迅速な対応によって高い顧客満足にもつながっていると考えています。

 今後はこのシステムをさらに発展させ、ベトナムや米国をはじめ、欧州やインドなど、その他の販売先にも展開していく方針です。また、当社のエンジニアが出張などで海外に滞在している際にも、遠隔からスムーズにトラブル対応ができる体制を整え、海外事業全体での機動力向上とサポートコストの削減を進めていきたいと考えています。

──IT活用を進める一方で、対面で会うことの重要性も再認識しているそうですが

中村社長:もちろんオンラインミーティングもしていますが、最近は実際に現地に行くべきだと思うことも増えています。実際の機械を目の前にして議論することが必要だからです。

 特に搬送ロボットの開発では、データや画面上の映像だけではなく、実機の挙動や音、振動、発熱といった物理現象、さらには工場の床面の状態を直接確かめながら開発者と議論し、その場でトライアンドエラーを繰り返すことが欠かせません。開発者から新しいアイデアや深い議論を引き出すためにも、直接顔を合わせて対話する機会は極めて重要だと考えています。

著者プロフィール:本村丹努琉 Zenken取締役

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社(現:Zenken株式会社)に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」(現:グローバルニッチトップ事業本部)の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸とした WEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。

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この記事の著者

本村丹努琉
本村丹努琉

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社(現:Zenken株式会社)に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」(現:グローバルニッチトップ事業本部)の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸とした WEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。

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