「機動戦士ガンダム」の監督として知られる富野由悠季さんが9月2日、パシフィコ横浜で開かれているゲーム開発者向けイベント「CESA Developers Conference 2009」(CEDEC 2009、3日まで)で、「慣れたら死ぬぞ」と題した基調講演を行った。
「僕にとってゲームは悪」「CGの絵は、はっきり言ってつまらない」など、歯に衣着せぬ言葉でゲーム業界やCGを痛烈に批判しながらも、昨年語ったプロ論(「お前らの作品は所詮コピーだ」――富野由悠季さん、プロ論を語る)と同様、「あのジジイ(富野氏のこと)を黙らせてやろうと考えてくれ」などとクリエイターを鼓舞する“富野節”に、詰めかけた来場者はわいていた。
講演テーマ「慣れたら死ぬぞ」は、口をすべらせた言葉がたまたまタイトルになったということが実情ですが、基本的にはお話できると思います。
まず、僕がどういう立場の人間かをお話しすると、アニメの演出家・監督・原作を担当するアニメ業界のものです。お分かりの通り、ゲーム業界を迫害しており、ゲーム業界に参入できなかった悔しさを徹底的に持っているというキャリアの者です。
僕はもともと映画の仕事をやりたかったのですが、なぜ、テレビ漫画の仕事をやっているかというと、就職するころにテレビが出始めて映画産業が衰退していったからです。映画の仕事をしたかったけれど、基本的に学力が不足していたし、映画制作会社の大手が新規の求人を止めたころで、CMを作る仕事やテレビ局で働くことが求められ始めた時代でした。
ところが映画をやりたかった人間にとってCMの仕事は、きちんとした映像の仕事に就けなかった人がやるもの、みじめな仕事だと思われていました。CMの仕事でさえ、そういうふうに思われていたんです。テレビで映像制作をすること自体が地に落ちた仕事をやっていると思われるような時代でした。
ですから、テレビ漫画の仕事をやるなんて、最下等の仕事だと思われ、前の世代の仕事人にから「そういう仕事をよくやるね」とバカにされる。我々は、映画関係者から映画の作り方、アニメーションの作り方、漫画の作り方を教えてもらいたいなと思いましたが、教えてもらえなかった。
かつて隆盛を極めた産業があったとして、そこに蓄積された技術があったとします。そういうものは次の世代に継承しなければならない、あるいは、していいと思ってくれる人がいてほしかったんですが、いなかった。そのため、映画や漫画映画がどういうものかは、独学するしかなかった。アニメで食ってきたけれど、映画からの劣等感を徹底的に植え付けられてここまで来ました。
そういうキャリアを持っている僕自身ですから、20年ほど前に、電子ゲームという世界があることを知って新しいビジネスシーンになるのでは、と見当がつきました。そういう仕事をやってみたい、ビッグビジネスに参入したい、時代遅れの人間にはなりたくないと思ったんです。
それから20年、ゲーム業界に参入することはできなかった。全くやらなかったんじゃなく、やってみたけどできなかった。大手メーカーは、呼んでくれなかったですし。今からでも、呼んで下さいということは申し上げません。もう70歳近くになるから使いものにならないと思うし。
ですからこの場所に自分が立つのは、似つかわしくないと思っていますし、実は、2度はっきり断っている。3度目に関係者の方がいらしてくださったので、やむなくここに立つことになりました。
ここに立つことになって思い出したのが、先ほど言ったことです。僕にとっての前の時代を担った映像関係の人たちが、なぜ映画のことを積極的に教えてくれなかったのか。それは先輩としてやるべき仕事だ、と思うところもちょっとだけあるんです。
映画界が何一つしてくれなかったことに対して、今でもちょっとだけ恨んでいるし、それが劣等感になっている。アニメだって漫画だって映画だと信じてやってきたつもりですが、日本映画界は今でも認めてくれていません。それは本当に悔しいことです。
そう言っている僕ももうじき70歳の立派な大人。……今言ったことは、かなりいろんな矛盾があるんですよ。だから来ました。
電子ゲームという仕事を(僕が)迫害しているのは、参入しようとしたけれど中に入れてもらえず……誰も優しくしてくれないから。でも、1人の人間ですからそういう感情は持っていいでしょう?
でも、今日来たのは、ゲーム業界からみるとアニメ業界は、(アニメにとっての映画のように)その前にあった業種かもしれないから。うぬぼれさせてもらいます。現在のゲームは、映像に頼っている部分がある。
ゲームが映像をあてにしているのは、われわれが、映画から学ぼうとしたのと同じようなこと。違う業態に見えるけれど、仕事の仕方を考えると、どうも同じようなところがあるんじゃないかと、うすうす感じることがありました。
招いてくれた人がおっしゃった言葉に「ゲーム業界も30年経っちゃったんですよね」というフレーズがありました。何より、それが印象的でした。
30年という期間はとてもいい時間で、業態なり、組織なりが固まる時期です。完全に固まってくる。色んな部分で動脈硬化を起こしていって明日が見えなくなくなるかもしれない。このままで持つかどうか分からなくなってくる時期でもあります。
映画、テレビに限らず、商売一般あらゆる業態に対して言えることです。これを突破するためにどう考え、どうしていかねばならないか。前の世代で経験している人々が次の世代に対して少しでも知っていることをお話しすることは、無駄ではないと思って来ました。
そういう趣旨を承れば、僕自身からどういう話ができるか。基本的に「慣れたら死んじゃうんだよね。それだけなんだよね」というとこに行き着きます。これ以後は、ゲーム業界が、ということだけではなく、ものをつくる立場からお話させていただきます。
30年ぐらい経って、次の30年、次の50年どうするかを考えたとき、基本的なハウツーはありません。ハウツーをしゃべれるなら誰にもしゃべらずに自分でやっています。こういうとこでしゃべるのは、自分自身も分からないから考えているためです。
今年、ガンダム30周年を迎え、これから先、どうやれば生き延びられるかを考えました。そう考えたら、ガンダムはとっくの昔に終わっているんだ、商品の再生産をやっているだけのタイトルになっているのかもしれないと思いました。
僕はありがたいことにもうじき70歳、あと10年も生きられたら十分ですが、僕より若い人は、あと10年も30年生きなくてはならない。そうい人にガイドラインを示せるんだろうか、示さねばならんと思いました。
ですが、そんなことできる天才はおそらくどこにもいません。自分たちでやるしかないんです。ただ、考え方の手順を1つだけ、示すことはできます。原理原則を持って考えるということがまず基本です。
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