うちの会社に中途入社し、俺の平穏な日々をぶち壊した悪の幼馴染・桜坂彩乃から「PC禁止令」が出されてからはや1カ月。アイツの気まぐれに翻弄されながらも、手渡されたWindowsタブレットとオプションキーボードによって、俺はようやくまともに仕事ができるようになってきた。
ただ、彩乃の上司であるIT部門長の言葉が気がかりだ。あんなヤツを心配してやる義理はないと思いながらも、あの時からずっと頭のどこかに引っ掛かっている。
「桜坂くんはいま、体調を崩して入院中だ」――。
「宇津木くぅ〜ん、ちょっと話があるの」
ある日、聞き慣れた声が俺の背後に響く。俺の上司にあたる御手洗マリが、いつものゾクゾクするような甘い口調で声をかけてきた。
この調子だと、また何かどぎついイヤミを言われるに違いない……そう身構えた次の瞬間、彼女の口から飛び出したのは全く予想していなかった言葉だった。
「最近、仕事が順調みたいね。私たちのチームで半年前から温めてきた例の企画、来週の会議でプレゼンしてもらえるかしら?」
――俺はなんとうかつだったのだろう。脊髄反射的に「分かりました」と答えてから、ことの重大さに気がついた。
来週の会議。これは小規模な会議室で行ういわゆる普通の「会議」ではない。300人は余裕で収まるであろうホールで年に1度だけ開かれる全社会議だ。
もちろん、これまで日の当らない人生を送ってきた俺がそんな場に立ったことなどあるはずもない。果たして自分がそんな重要な発表を成功させられるのか? そもそも、彩乃から渡されたこのちっぽけな8インチタブレットだけでまともにプレゼンなどできるのか……。
「できるに決まってるじゃない」
さっきとは別の声が夕暮れのオフィスに響き渡る。
「彩乃……! お前入院したって……」
「単なる胃腸炎よ。ここのところダメな社員のヘルプデスクで疲れちゃってたからね。まあ、主にアンタのことなんだけど」
胃を痛めていてもこの減らず口は健在のようだ。だが、なんだろうこの気持ちは。いつも通りの罵言に腹を立てつつ、俺は心のどこかで安堵している……のか?
「で、アンタがそんな大きな場でプレゼンなんて信じられないけど、私が選んだDell Venue 8 Pro タブレットをなめてもらっちゃ困るわ。micro-USB 2.0を備えているのはもちろんだし、Miracast(※)でプロジェクターとワイヤレス接続すれば、どんなに大きな場でもプレゼンできないわけないじゃない!」
その妙に自信ありげな口調に後押しされるかのように、俺は翌日からプレゼン資料の作成に取りかかった。Dell Venue 8 ProにプリインストールされたMicrosoft OfficeのPowerPoint 2013を起動し、タッチ操作とワイヤレスキーボードでサクサクと資料をまとめあげていく。
そして本番の日――。
緊張を隠せないまま壇上に登ろうとする俺のタブレットに、彩乃からSkypeで一通のメッセージが届く。なにやら添付ファイル付きで「プレゼンが終わるまで絶対見ちゃダメだから」と書かれている。
フツー、このタイミングでこんなメッセージ送るか?――そう思いつつも、そんな突拍子もないメッセージで緊張がほぐれたのか、俺はなんとか大一番のプレゼンをやり遂げた。
冷や汗をかきながら壇上から降りた俺に、すかさずマリさんが駆け寄ってくる。
「宇津木くん、すっごくよかったよ」
――興奮で頬をほてらせながら話しかけてくるマリさん。……正直、サイコーです。
いつもより一層甘い声を受け止めながら会場の奥に目をやると、そこには不満げな表情で会場を後にする彩乃の姿があった。
「なんだよ、アイツなに怒ってるんだ」――そう思いながら俺はあることを思い出す。
「そういえば、さっきの添付ファイル……」
それを開くと、そこにあったのは俺の脳内から失われていた彩乃との記憶だった。
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憂介のプレゼン終了後、怒り顔で会場を立ち去ってしまった彩乃。「アイツなに怒ってるんだ」と思いながら彩乃に渡された添付ファイルを開くと、そこにあったのは……
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ニュース編集部/掲載内容有効期限:2014年7月27日