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» 2019年12月16日 16時00分 公開

「守りが堅い地銀」が「攻めのデータ会社」に脱皮するまで──山口フィナンシャルグループの変革者たちの挑戦

[PR/ITmedia]
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 ここ数年「Fintech」という金融の新潮流が広がり、異業種やIT企業が金融業に参入するなど、常識を変える出来事が相次いだ。世界の金融業界を飲み込まんとする変革の嵐は、日本の地方銀行にも例外なく襲い掛かっている。山口県下関市に本社を置く「山口フィナンシャルグループ」(YMFG)は、そんな激動の時代を生き抜くため、金融の枠を超えた企業へと脱皮を試みている好例だ。

 彼らの武器は「データ」。これまで傘下の銀行(山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行)がバラバラに保有していた顧客情報などをまとめ、一元管理する「統合データベース」をクラウド上に構築した。ゆくゆくは各社員が率先してデータを分析し、顧客の状況に合った金融商品をおすすめするなど新サービスの創出につなげる。

 そんなビッグプロジェクトを推し進める、YMFGの高田敏也氏(IT統括部 副部長)は「銀行自体が保守的な業態だと思うが、その中でもYMFGは『守りが堅い』という傾向があったと思う」と苦笑する。レガシー企業の課題に果敢に立ち向かった、男たちの心中に迫った。

photo 左からYMFGの山丈宗一氏(カスタマーサービス部)、高田敏也氏(IT統括部 副部長)、原田紘幸氏(IT統括部)

「データを活用したくても、1〜2週間はかかっていた」

 従来の考え方に立脚すれば、お金の流れの起点・中継点になることが銀行の主たる存在意義だった。そうした環境では、社員は「融資額」「金融商品」といった営業ノルマの数字を追いかけることに主眼を置いており、データの分析までは手が回らなかった。高田氏は「データのことはシステム部門にゆだね、現場が自ら分析するという発想はなかなか出なかった」とかつての状況を振り返る。

photo YMFGの原田紘幸氏(IT統括部)

 その上、システム自体の使い勝手の悪さもデータ活用を縁遠いものにしていた。当時を知るYMFGの原田紘幸氏(IT統括部)は、顔を曇らせながらこう話す。「従来、各銀行のデータは汎用機の中に蓄積されており、システム担当者しか扱うことができなかった。そのため、顧客と向き合う現場の社員たちがデータを活用したくても、システム担当者にデータの抽出や分析を依頼する必要があり、1〜2週間はかかっていた」

 当時、情報システムを担当していたYMFGの山丈宗一氏(カスタマーサービス部)は「さまざまなデータが存在することは分かっていたが、使い勝手の悪さからデータを生かした分析が十分になされていないことにジレンマを抱えていた」という。高田氏は、データ抽出・分析にかかるコストはタダではなく、時間もかかるため「(依頼してきた社員に対し)本当にそのデータは必要なのか、と言ってしまったこともある」と後悔する。

「状況がガラッと変わった」

 だが「状況がガラッと変わった」(高田氏)。きっかけは、2016年に就任した吉村猛社長の“大号令”だ。直近では、吉村社長はメディアの取材に対し「19年は変革の年になる」と発言し、組織だけでなく社員の意識改革の必要性を熱く説いている。

 YMFGは、3月に発表した「YMFG中期経営計画2019」の中で、地域の社会課題を解決する経営を標榜(ひょうぼう)している。地方は、少子高齢化、過疎化などによる経済の減退、ひいては地域社会の地盤沈下という課題を抱えている。YMFGが地域経済の発展に寄与しながら、企業として生き残るためには、これまでの銀行の役割や在り方を見直す必要があるというわけだ。

photo YMFGの高田敏也氏(IT統括部 副部長)

 では、新しい銀行の形とは何か。キーワードは「データ」だ。お金が動くと「誰が」「いつ」「どこで」「何に」使ったのか、といったデータも付随して動く。キャッシュレス化が進展し、得られる情報量は桁違いに増えるだろう。当然ながら銀行にもそうしたデータが集まる。蓄積したデータを地域活性化の武器として生かしながら、自社の金融ビジネスも成長させていく。

 18年に営業ノルマを廃止したことも、変革への覚悟の現れといえる。ノルマを達成するために、数字ばかりを追いかけるようになると顧客が何を望んでいるのかが見えなくなる。真のニーズを掘り起こすには、ノルマは邪魔な存在というわけだ。

 こうしたトップの決断に、現場の意識が変わろうとしている。「上長が部下に対し数字を問うのではなく、お客さまとどれくらいの時間、どんな話をし、そこから何を得たのかというプロセスを問うことが普通になり始めている」(高田氏)という。

「取りあえず、チャレンジしよう」

 ただ、このような新しい銀行の在り方を現実のものにするには、社員一人ひとりが自ら考えて顧客に関する「データ」を扱う仕組みづくりが必要だ。例えば事業継承問題を抱えている企業の担当であれば、事業存続のための方策に頭を悩ますだろう。その際、その企業に関係するあらゆる情報を分析する必要がある。

 仮にM&Aの必要が生じれば、最適なパートナー先を探すのにも、相手の詳細な情報が必要になる。そこでは単に決算の数字だけでなく、企業特性、業界構造、合併後のシナジー効果などを分析するために、広範囲な情報が求められるだろう。

 こうした背景から、社員が率先してデータにアクセスし、日々の活動に活用するための基盤として「統合データベース」が必要になったわけだ。原田氏は「過去に議論されていた大きなデータウェアハウスではなく、分析に使えるデータをあちこちから抽出してつなぎ合わせるため、拡張性のある仕組みが求められた」と説明する。こうしてパブリッククラウド「Microsoft Azure」上に構築し、7月中旬に本番運用を始めた。

 高田氏は「今でこそ金融庁は、金融機関のクラウド導入について調査報告書を出すほどになったが、このプロジェクトの検討を開始した18年当時は、手探り状態だった。パブリッククラウドのPaaS利用は初めてで、社内外から『大丈夫なのか』という声は聞こえてきた」と振り返る。だが「情報分析の基盤として、社員が日々使えるものを構築したいという思いがあり、『コスト』『柔軟性』『敏捷性』を考慮し採用に踏み切った」という。

photo YMFGの山丈宗一氏(カスタマーサービス部)

 「取りあえず、チャレンジしよう」という精神で取り組んだ統合データベースの構築だが、山丈氏は「実際に使ってみると『こんなことができるのか』という発見の連続で、これまで不可能だった分析にも積極的にチャレンジしている」と顔を輝かせる。

 「統合データベースでは、情報の種類やクロス集計の切り口を少しずつ変えるといった試行錯誤が気軽にできるので分析の幅が広がった」と山丈氏。これまでは1〜2週間かかっていたデータ分析のスピード感が増した上に、データを活用したい社員がシステム担当者の負担を忖度する必要もなくなったという。

地道な“布教活動”で、「Power BI」も社内に定着

 しかし導入当初は、統合データベースをどのように使えばよいのか、すぐには理解してもらえなかった。社員のマインドを変えるため、何度も勉強会を開いたり具体的な使い方をレクチャーしたりといった、地道な“布教活動”は欠かせなかった。高田氏は「社員の要望が具体化されていない中で、最初はシステム部門から『こういうものが欲しいだろう』と仕掛けていくことが必要だった」と説明する。

 理解を深めてもらえたケースの1つは、対話型データ視覚化ツール「Power BI」を使い、地図上に顧客の情報をマッピングした事例だ。「どの年齢層の顧客、どれくらいの資産を持っている顧客が、どの地域に住んでいるか、といったデータを地図上にプロットできるようにした」(原田氏)。数字の羅列だけでは感じ取ることができなかった情報を、地図上に生き生きと可視化でき、営業や店舗配置の立案などに利用され始めているという。

photo Power BIの画面イメージ。YMFGでは顧客情報や店舗情報などを地図上にプロットすることで可視化している(画像は店舗情報を表示したもの)

 原田氏らの布教の成果もあり、最近では「システム部門でプログラムしたSQLのパラメーターを変えるなどし、それをPower BIに取り込むことで新しい可視化コンテンツを作ったり、独自にSQLをプログラミングしてデータを抽出したりするユーザーが出始めた」という。Power BIという言葉も、社内に定着したそうだ。

 布教がうまくいった背景には、プロジェクト立ち上げ時の組織形成にも一因がありそうだ。「YMFGの各事業部と統括本部から年齢の若い、柔軟な思考を持った若手を加えてプロジェクトを進めた」(高田氏)という。そうした若手が自分の部署で、統合データベースを積極的に利用することで、利用拡大の下地が踏み固められたということだ。

 現状はセキュリティを考慮し、一部の社員だけがデータベースにアクセスし分析を行う仕組みだが、将来は全社員がアクセスできるようにしていく計画だ。

「昔は銀行だったんだね」といわれる存在に

 統合データベースは、顧客情報の管理と活用だけでなく、本格的な金融デジタル時代を見据えた、マーケティング施策にも生かす。昨今の銀行は、顧客との接点が、支店や営業担当による対面だけでなく、Webページやスマートフォンアプリを介したデジタル領域にも拡大している。

 Webの閲覧履歴など、これまで得られなかった顧客のデータも統合データベースに取り込んで分析したいと、高田氏は意気込む。また、既に蓄積している取引データなどを分析すると「結婚や子どもの入学など、顧客のライフステージが見えてくる」といい、人生のタイミングに合った金融商品を、顧客ごとにスマートフォンアプリやWebページ上で提案する──といった展望も描く。

 高田氏は、経営陣からは「『YMFGは、昔は銀行だったんだね』といわれるぐらいに変わるんだ」と叱咤激励されるという。「これまで銀行というと、預金を受け入れ、資金を貸し付けるというビジネスモデルだったが、これからは銀行=情報産業へと変えられるように力を発揮したい」(同氏)

(後編)「厳しいスケジュール」「セキュリティ確保は当然」──山口フィナンシャルグループの“データ分析基盤”を構築した男たち

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 データ活用へ一歩を踏み出した山口フィナンシャルグループ(YMFG)。しかし、その基盤となる統合データベースの構築は一筋縄ではいかなかった。

 「これだけの規模のプロジェクトをおよそ半年間で成し遂げたのは、初めての経験だった」──構築をサポートした、ブレインパッドの石母田玲氏はそう振り返る。開発期間の制約に加え、金融という業種上、セキュリティには特に気を配る必要もあった。担当者に舞台裏を聞いた。


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