ガラスと金属の調和──江戸の業を刻んだ「オシアナス」金属魂特別編、ギヤマン魂

» 2019年12月18日 10時00分 公開
PR

 「ギヤマン」という言葉がある。ポルトガル語でダイヤモンドを意味する「ジアマント」が語源で、江戸時代にヨーロッパから輸入されたカットガラス器がこう呼ばれていた。

 「びいどろ」もポルトガル語の「ヴィドロ」、ガラスを意味する言葉が語源だ。だからギヤマンは、びいどろの中の輸入品、高級品を指した。しかし日本で作られたものの中にも「ギヤマン」と呼ばれた貴重な工芸品があった。それが「切子」(きりこ)、今回撮影させていただくことになった江戸切子である。

 金属とガラスはもともと親和性の良い素材だ。両方とも時を経ても劣化しないし、再び研磨してもとの輝きを取り戻すことができる。江戸切子をベゼル部分にあしらった「OCEANUS」(オシアナス)、「OCW-S5000D」が生まれたのは至極当然のことだったのかもしれない。

「OCW-S5000D」。金属とサファイアガラスが美しくせめぎ合う

 OCW-S5000Dが僕のスタジオに届く前に、バックの素材を考えていた。琥珀(こはく)とブルーの切子、サファイアガラスのキラキラしたものを引き立たせるのは何かと。

 金属とガラス、ならばこれしかないと思い付いたのが「レンズ」だ。レンズは正確に研磨されたガラスレンズの上に綺麗なコーティングが施されている。それを頑丈な金属の鏡胴が包み込み、一つの芸術的な物体として完結している、僕の大好きな創造物なのだ。

 もう20年以上前に役目を終えた4×5(しのご)用レンズ、「Nikkor-w 300mm f5.6」を取り出し、クリーニングペーパーで磨きをかける。これならOCW-S5000Dにふさわしいだろう。

 やがてOCW-S5000Dが届き、箱を開けると、想像とは違った腕時計がそこにあった。もっとゴツゴツとした、角が立ったものを予想していたのだが、意外に薄く、なめらかな筐体の時計だった。これで本当に電波ソーラー、Bluetoothを内蔵しているのかと疑うほどの薄さである。

 もうすでにセットしてあったレンズの上にOCW-S5000Dを置いてみる。思った通りの構図が出来上がる。ただ問題は切子細工の見え方だ。ベゼル部分は山型に傾斜しているので、一方向の光だと細工が半分しか見えないOCW-S5000D。全部を見せようとライティングすると本体の立体感が失われてしまう。

 でもこれは半分は見えないで良しとした。腕につけたとき、角度によって切子細工がくるくると見えたり見えなかったり、それがOCW-S5000Dのデザインの狙いなのだろう。

 シャッターを切りながら、切子細工に思いをはせる。この、硬度が高いサファイアガラスに細工を施すなんて、だれが発想したんだろう。サファイアガラスは、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持っている。それに一つ一つ、すべて手作業で伝統的な模様「千筋」を縦横に刻み込むというのは、まさに職人泣かせそのものだ。でもその結果が今僕の目の前にある。ギヤマンの魂のなせる業(わざ)といっていい。

 OCW-S5000Dは、江戸切子職人、堀口徹氏とのコラボレーションによって生まれた。堀口氏は、祖父が江戸切子の職人という環境で育ち、二代目秀石の須田富雄氏(江東区無形文化財)に師事。秀石の名を受け継ぎ(三代秀石)、30代のときに堀口切子を創業した。伝統的な手法や様式を継承しながら、斬新で現代的なものづくりを貫いている。

舐めるように撮影しよう

 メインの写真撮影が終わって、細部の撮影にかかる。まずはギヤマンをアップで。琥珀色とブルーの組み合わせは伝統的な意匠らしいけれど、カメラマンの見方からするとフィルターの色に通じていて面白い。

ある方向から光が入ると切子がキラリと姿を現す。伝統的な模様「千筋」で人や道が交差する都会の街を俯瞰(ふかん)した情景を表現したという

 琥珀色はコダックのゼラチンフィルターでいえば「85B」(色温度を下げる)、ブルーは「80A」(色温度を上げる)の色に近い。このフィルターはタングステン光と日光の変換に使われるもので、フィルム時代には常用されたものだった。二枚を重ねると、全く逆の効果があるから黒になってしまう。まさに陰と陽、江戸時代のデザインは奥が深い。

 その琥珀は蒸着(物質を蒸発させ、別の物質に付着させて薄い膜を形成する加工手法)で作られている。琥珀色の蒸着は、このモデルを作るときに新たに開発した技術。サファイアガラスのベゼルに江戸切子を施した後、琥珀、青の順に蒸着で色を着ける。都会の夕日のような琥珀色を出すため、裏面からシルバーの蒸着を施すことで発色を高めたという。1つの色を出すために面倒な作業を重ねる、そこに職人の魂を感じる。

9.3mmの薄型ケース。軽量とあいまってセンスを感じる

 撮影する前から気になっていたのは、OCW-S5000Dが異常に軽いことだ。見た目の体積と重さが不釣り合いなぐらい軽い。これはベルトがチタン製であることも大きいが、本体の薄さが一番の原因だろう。ケースの厚みはわずか9.3ミリ。クロノグラフでこれほど薄い、しかもベゼルに江戸切子の装飾を施した時計など他にはないだろう。たぶんこの時計は、人にやさしいクロノグラフを目指したのではないだろうか。

完全手作業、ザラツ研磨のケースはエッジがすべて鏡面仕上げだ

 そのことは細部にも表れている。筐体(ケース)の仕上げが実に丁寧なのだ。デザインとしてはエッジが立っている部分もあるのだが、そこが肌に当たらないように微妙なカーブで避けている。またそのエッジ部分だけに鏡面仕上げを施し、高級感を増している。これがすべて手作業による研磨だというから恐れ入る。金属はやはり人の手で磨かれてこそ、と思う。

 なめらかな本体とは打って変わって、ベルト(バンド)は武骨な印象だ。確かにクロノグラフというイメージからすると、本体は少し弱い。だからベルトに強さを与えたのだろう。矢羽根形のH駒と鏡面ライン入りの中駒で構成されているベルトは、分厚い金属をゴツゴツと並べたような武骨な見た目をしている。

 ただし、これはチタン素材なのだ。グレーよりシルバーに近い色はステンレス風だが、持ってみるととても軽い。たぶんわざとステンレスのように加工しているのだろうが、これは驚きのギミックだ。

ベルトも、加工しにくいチタンでゴツゴツと仕上げている。それをケースに直接取り付けることで根元の可動範囲を広げ、装着感を向上させている

 僕は金属の中でもチタンはあまり好きではない。軽く、肌にやさしいなどの利点はあっても、何か金属っぽくないところが嫌だ。それは研磨しても鏡面になりづらいところとか、素材そのものの色も金属とはかけ離れているところがどうにも好きになれない。

 ところがこのOCW-S5000Dのベルトはどうだ。見た目は完全に僕のイメージの中の「金属」である。細かなヘアラインの仕上げを施してあり、金属としての主張をしっかりとしている。あとはベルトの各パーツの厚みだろう。僕はこれほど分厚いチタン素材を見たことがない。これほどの存在感を持ってして、この軽さ。開発者の心意気がよく分かる。

撮影を終えて

 時計を撮影するときにいつも思うのだが、表面のガラスの写り込みを避けるのにとても苦労する。ライトが写り込むとアウトだから、ライティングも限られてくる。ところがOCW-S5000Dはそんな苦労が一切なかった。ガラスの表面に無反射の加工が施してあるようだ。これは「時間を見る」という時計の基本の機能に最も忠実な加工といえる。さすがの高級腕時計、さすがの「OCEANUS」である。 

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:カシオ計算機株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2020年1月17日

CASIO WATCH SQUARE

関連リンク