経験・勘に依存しない「データドリブンの会社」に──住友生命の社内で“意識改革”を仕掛ける男たち

» 2020年01月29日 10時00分 公開
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 「これまで当社は、どちらかというとオールドエコノミーの世界で長年ビジネスを行ってきたため、経験や勘を頼りに意思決定を行う場面が多かったように思います。しかし今後はデータをより有効に活用し、データから導き出された知見を基に意思決定を行えるような仕組みを実現していきたいです」

 こう語るのは、住友生命保険(以下、住友生命)の中川邦昭氏(情報システム部 システム業務室 上席部長代理)。営業職員がより効率よく保険商品を販売するには、顧客に対しどんなアクションをとるべきか、また一人一人の顧客に最適な商品を提案するにはどうするべきか──。データに基づきこうしたパーソナライズに取り組むことは、保険会社にとって大きなテーマという。

photo 右から住友生命の辻本憲一郎氏、中川邦昭氏、日本マイクロソフトの中川一郎氏、中川一馬氏

 また、同社の辻本憲一郎氏(情報システム部 システム業務室 部長代理)は「デジタル技術を活用し、顧客とのコミュニケーションの接点を増やしていく必要がある」とも力説する。「当社のビジネスはこれまで、お客さまとの直接対面の営業活動に支えられてきましたが、お客さまの職場に出向いても会えないケースが出てきました。会社に所属しないフリーランスや、ITツールを駆使して場所にとらわれない働き方を実践しているお客さまが増えているからです」(辻本氏)

 こうした状況を踏まえ、辻本氏は「まずはデジタルの仕組みを下支えするデータを蓄積して、それらを有効活用できるシステムを整備していく必要があります」と話す。同社は、販売情報や顧客情報を管理・分析するための「情報分析システム」をクラウドへ移行させるプロジェクトを進めている。2018年12月に立ち上がり、2020年6月の本番稼働開始に向け、最終的な詰めのテストを行っている段階だ。

photo プロジェクトのスケジュール

 今後より多くのデータにも対応できる「拡張性」、短期間のうちにサービスを立ち上げられる「俊敏性」などを考慮すると、クラウドの採用はうってつけといえる。今回のプロジェクトにはそんな期待も込められているが、実現までの道のりは一筋縄ではいかなかった。

経営陣に「説得力のあるプラン」を提示

photo 住友生命の中川邦昭氏(情報システム部 システム業務室 上席部長代理)

 従来、金融機関のITシステムは「オンプレミス環境のレガシーシステムを安全・確実に運用し続ける」というイメージが強かった。しかし三大メガバンクが一斉にクラウド導入に踏み切ったこともあり、多くの金融機関がクラウド化を進めている。

 「こうした流れに当社の経営陣もいち早く反応し、トップダウンで『クラウドファースト』の号令を全社にかけました。これからデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していくためには、クラウドを積極活用した次世代のITインフラが欠かせないと判断したのです」(中川氏)

 住友生命は2018年、長年固持していたオンプレミス重視からクラウドファーストに急旋回。更改タイミングを迎えるシステムがあれば、次期インフラとして真っ先にクラウドを検討する方針を打ち出し、情報分析システムのクラウド移行を決めた。

 情報分析システムは、約1000人のユーザーが利用する社内システムで、販売情報や顧客情報などの各種データをデータウェアハウス(DWH)で一元管理している。ユーザーはBIツールを通じてDWHにアクセスし、必要なデータを参照・集計・分析してレポートを作成したり、ビジネスアイデアの元ネタを日々模索している。そのデータ容量は実に130億件/6.5TBにも及び、1日当たり300GBものデータが基幹システムから送り込まれてくる。

 これだけ巨大なデータベースを抱え、基幹システムとも密接に連携しているシステムを、現行のオンプレミス環境からクラウドへ移行するのは、どう考えても至難の業だった。もちろん技術面の課題は山積していたが、ビジネス面でも越えなければいけないハードルが幾つもあった。

 住友生命の辻本氏は「経営陣はもともとクラウドファーストに理解を示してくれていましたが、これだけ大規模なクラウド移行プロジェクトとなると、それなりに説得力のあるプランを提示する必要がありました」と苦労を語る。

 検討の末、単に情報分析システムをクラウド化するだけでなく、その周辺のBIツールやCRMシステムも合わせて刷新して、より大きなビジネスインパクトをもたらすプロジェクトとして上申し、経営陣の承認を得たという。加えて、辻本氏は「クラウド移行の費用対効果を『10年スパン』で試算したことも、クラウドの導入メリットを訴求する上で有効でした」と振り返る。

photo 住友生命の辻本憲一郎氏(情報システム部 システム業務室 部長代理)

 通常、企業が導入・利用するITシステムは、5年スパンで更改を行っていく。そのため、その費用対効果も5年間の収支で算出するのが通常だ。しかし情報分析システムをクラウドへ移行した場合と、従来通りオンプレミスで運用し続けた場合のコストを比較した場合、5年スパンではほぼ同額か、もしくはクラウドの方が若干高くつくという試算結果が得られたという。

 「ただし、いったんクラウドに移行してしまえば、次回の更新ではハードウェアの入れ替えなどを行わずに済むため、より少ないコストでシステムを更改していけます。そこで今回はあえて5年スパンではなく、10年スパンで費用対効果を算出しました。これまでの通例を破りましたが、社内各所と密接にコミュニケーションを取りながらその有効性をきちんと説明したことで、結果的には広く理解を得られました」(辻本氏)

「金融データを社外に預けて大丈夫か」 懸念を払拭

 越えなければいけないハードルは、これだけではなかった。初めてのクラウド導入でよく問題になる「情報セキュリティ」の懸念も払拭(ふっしょく)する必要があった。「重要な金融データを社外に預けて本当にいいのか」「何か事故が起きた際は誰が責任を取るのか」──こうした不安を取り除くために、社内のリスク管理部門とも密接に連携し、同社のセキュリティ基準をクリアできるクラウドサービスを選定した。

 「近年では、金融機関のシステム導入・運用の業界標準ガイドライン『FISC安全対策基準』にもクラウド利用に関する基準が明文化され、当社のリスク管理部門でもこの内容に基づいて細かなチェック項目を設けています」(中川氏)

 こうした業界特有の厳しいセキュリティ基準や可用性要件をクリアするクラウドサービスとして、同社は「Microsoft Azure」を採用した。

photo 日本マイクロソフトの中川一郎氏(クラウド&ソリューション事業部 インテリジェントクラウド第2統括本部 Azure第3営業部 ソリューションスペシャリスト)

 日本マイクロソフトの中川一郎氏(クラウド&ソリューション事業部)は「Microsoft Azureは、金融庁の管轄下でも安全に使えるよう、業界規制への対応をいち早く進めています。国際的および各国のセキュリティやコンプライアンス基準を満たし、ISOやSOCなどに加えて、クラウドセキュリティゴールドマークにも対応しており、金融機関をはじめ、高いセキュリティ基準が求められるお客様のニーズに応えています。また、日本マイクロソフトが提供する見解だけではなく、当社のパートナー各社もFISC安全対策基準最新版に関する取り組みを実施しています。」と力説する。

 今回のプロジェクトは住友生命のメンバー、実際の作業を担当するシステム子会社のスミセイ情報システムのメンバーだけでなく、日本マイクロソフトをはじめとする製品ベンダーの技術者も適宜加わり、関係各社が密接に連携しながら進めている。住友生命がMicrosoft Azureを採用した決め手の一つには、そうした手厚いサポート体制もあったという。

「データドリブンの会社」への第一歩を踏み出す

 今回のプロジェクトは、今後データをより活用していくという側面で、意義深い取り組みだ。クラウドへの移行やBIツールの刷新を通じ、データ活用に対する経営層の理解を促し、業務部門のリテラシー向上にもつながる第一歩といえるからだ。

 ただ、ツールを導入しただけではデータ活用の習慣は根付かない。そこで同社は、業務部門から若手層の利用者を募ってより高度な分析ができる環境もMicrosoft Azure上に半年ほど前から構築し、データを取り扱える社内人材の育成を始めている。

 「やみくもにデータ人材を育成できるかというと、そうではありません」(住友生命の中川氏)。部門ごとに必要なデータ人材はどのようなものか、彼らに求められるスキルセットは何かを定義し、人材を育成しやすい環境を整えていく方針だ。

 また、将来は大規模なデータレイクを構築し、BIツールだけでなく機械学習を活用した分析も取り入れていく──という構想も描いている。

 同社は2018年7月、新しい保険商品「Vitality」の提供を始めた。顧客の健康に関する情報(歩数データなど)を定期的に収集し、その内容に応じて保険料金を割り引くという画期的なものだ。

 データレイクには、このVitalityで収集するデータのように、ウェアラブルデバイスやIoT機器などから集めるデータの他、SNSのデータ、医療系のオープンデータなども取り入れ、社内外のデータを組み合わせて分析していく考えだ。

 中川氏は「データから何が見えてくるかは分からないが、まずは取り組んでみたいです」と意欲を見せる。「今後もデータを活用できる人材を社内で育成したり、データレイクや機械学習といった新たな技術を積極的に取り入れていくことによって、データドリブンの会社を目指して前進していきます」

(後編)「恐怖心があった」 住友生命のデータ基盤構築、“PaaS初チャレンジ”を乗り越えた担当者たち

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 クラウドファーストを打ち出し、情報分析システムのクラウド移行を始めた住友生命。しかしプロジェクトの実際の設計・開発作業を任された、スミセイ情報システムの担当者たちは大きな悩みを抱えていた。

 「オンプレミスの場合と比べて、性能面など含め使い勝手を損ねてはならない」「PaaSを取り扱うのは初めて」──そんな課題に挑んだ、彼らの成長物語を追った。


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