出版業界の“激変の荒波”、データで乗り切る──グループ全体でフル活用、日販の仕掛け人たち

» 2020年03月12日 10時00分 公開
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 これまで連綿と築き上げてきたビジネス構造や慣行が変容の圧力にさらされている出版の世界。とりわけ、出版社と書店の間に入り、書籍の流通を担う「出版取次」の在り方には大きな関心が寄せられている。そうした中、2大出版取次の一角を成す日本出版販売株式会社(以下、日販)は、“データ分析のチカラ”で書店や出版社のビジネス最適化に取り組み、この激変の荒波を乗り切ろうとしている。

 「出版業界が縮小している中、日販は『グループ経営』をうたい、事業の多角化を進めています。そこで貴重なデータ資源を日販社内に限らず、グループ全体で活用したいというニーズが生まれていました」──日販テクシード株式会社の森山光氏(取締役 グループ事業開発本部長)はこう話す。

 日販は15年ほど前から、営業戦略を支えるIT基盤として、全国の書店への配本状況、売り上げ、返品状況などを分析するデータベースを社内で運用してきた。営業担当者が分析結果を基に、取引先の書店に“売れる商品”の品ぞろえをタイムリーに提案し、配本を最適化することで機会損失を最小限に抑えるというものだ。

 早くからデータ分析のチカラを信じてきた日販だが、こうした仕組みはグループ内では日販しか備えていなかった。そのため日販社内だけに閉じた運用ではなく、豊富なデータ資源を持つ分析基盤として、グループ全体で共用したいという要望が出ていた。

 課題はそれだけではなかった。森山氏は「(長年使っているため)データがたまり、処理が遅くなっていました」と苦笑いする。数億件規模の在庫・売り上げなどのデータに、大人数の営業担当者が一斉にアクセスするため、データベースにかかる負荷も大きく、使い勝手を損ねていたという。

 そこで同社は分析の基盤だったデータウェアハウス(DWH)アプライアンス製品のサポート切れを契機に、運用環境をオンプレミスからクラウドに移行。日販社内とグループ全体の要望に応え、より高度な分析や密接な連携を行える分析基盤を整えようとしている。プロジェクトを担当した日販テクシードの奮闘ぶりに迫った。

photo 左から日販テクシードの森山光氏(取締役 グループ事業開発本部長)、福田和江氏(グループC&I本部 ビジネスソリューション第2 アドバイザリー・マネージャー)、野上巳知夫氏(グループC&I本部 ビジネスソリューション第2 シニア・マネージャー)

「出社しても処理が終わっていない」 アクセスが集中、処理の遅延が顕在化

 出版業界の中で、日販がいち早くデータを活用してきたのは、出版流通ならではの事情が存在する。通常の流通であれば、小売店が複数の卸業者からさまざまな商品を店舗の裁量で仕入れる形態が一般的だ。一方、出版業界は書店の売り場に並ぶさまざまな商品(書籍)を、日販のような取次事業者が一括して納入する形態をとっている。

 多品種少量という特性を持つ書籍の場合、どのタイトルをどの程度の数量、どのタイミングで納入するかにより、書店の売り上げに影響が出る。例えば、森山氏は「売り上げ上位300位までの商品は、どの書店にも置いておくべき商品ではありますが、300〜500位の商品の売れ筋は、書店によってかなり差があります」と説明する。

 ビジネス街、郊外ロードサイド、駅ナカといった書店の立地や規模はもとより、客層、季節といった条件の差異が、本の売れ方に大きく影響する。そうなると、納入する書籍を選定する出版取次の分析力が極めて重要な役割を担うことになる。

photo 日販テクシードの森山光氏(取締役 グループ事業開発本部長)

 情報分析の重要性は、書店向けにとどまらない。サプライチェーンの上流に位置する対出版社についても同様だ。増刷数の提案などはその代表例だろう。需要を見誤り多く増刷すると、出版社に対し余剰在庫を強いるし、かえって少なく見積もってしまうと、品切れを起こし機会損失を生む。データを集約・分析し出版社に的確なアドバイスを送ることは、出版取次の重要な役割なのだ。

 これらの要になっていたのが、情報分析用のデータベースだった。的確な分析を行うには、基盤としてのデータベースが強靭で可用性の高いものでなければならない。しかし日販のデータベースは社内での利用が前提で、グループ全体への展開は難しい上に、使い勝手の悪さも顕在化していたという。

 日販テクシードの福田和江氏(グループC&I本部 ビジネスソリューション第2 アドバイザリー・マネージャー)は「データベース側に負荷がかかり過ぎないように、フロントのBIツール側の設定で同時実行数をチューニングするなどして、何とか運用を続けていました」と当時の苦しい状況を振り返る。

 オンプレミスで運用していたデータベースは、アクセス集中時に大きな課題を抱えていた。書籍を流通させるという性格上、蓄積されるデータ数は数十億件に上り、日々増加していく。月初、週明け、業務開始時など、営業部門からのアクセスが集中するタイミングになると、満足のいくレスポンスが得られない状況に陥る場合もあったという。

photo 日販テクシードの福田和江氏(グループC&I本部 ビジネスソリューション第2 アドバイザリー・マネージャー)

 福田氏は「前日夜間処理の結果を翌日即入手するためにBIツールの予約実行という機能を使っており、毎朝7時から走らせていましたが、営業担当者の出社時刻になっても処理が終わっていない、という事態が起きていました」と顔を曇らせる。「本当にデータが大量なので、数分間、数十分間というレベルではなく数時間たっても終わらないケースもありました」

 データベースへの負荷を軽減する目的で、操作時のデータの取り出し方など具体的な作業手順について、営業部門に運用方法を「お願いすることもあった」という。ただ、福田氏は「(営業担当者は)さまざまな目的でデータを使っているので、体系的なアドバイスは難しかったです」とうなだれる。こうした状況の中、サポート切れを契機に乗り換えを決断した。

クラウドへの移行は必然 決め手は「導入事例の多さ」

 福田氏らは移行に際し、後継のデータベースを何にするのか、そして、そのためのインフラ環境は何が適しているのか、という順番で検討を進めた。選定に当たっては(1)集中的な多重アクセスへの耐性、(2)ユーザーがさまざまな目的でクエリを投げるという非定形的な使用方法、(3)グループ各社が同じデータベースを利用できること、(4)これまで慣れ親しんだBIツールとの親和性──を考慮した。

 その中から、データベースの構築で実績のあるベンダーを選び、PoC(概念実証)を実施した結果、満足のいく結果が得られた「SQL Server」を選択するに至った。データベースが決まったことで、次はインフラ環境の選定に移るわけだが、森山氏は「拡張性を考えたらオンプレミスではなく、クラウドへの移行は必然でした」と強調する。当初からクラウドの採用が前提条件だったという。

 結果的に、日販はクラウドサービス「Microsoft Azure」を採用した。社内からは「データの規模が大きいのに、これまで導入実績がないMicrosoft Azureをいきなり採用しても大丈夫なのか」といった声も上がったが、日販テクシードの野上巳知夫氏(グループC&I本部 ビジネスソリューション第2 シニア・マネージャー)は「(Microsoft Azureは)SQL Serverとの親和性も高く、先行事例が多かったため、安心して導入できました」と振り返る。

 「安心」というキーワードが登場した背景には、過去の苦い経験があった。先代のデータベースを導入した際は参考にできる事例がなく、それまで利用していたデータベースからの移行で「相当苦労した」という。

 「(先代のデータベースでは)現在使用しているBIツールを導入した先行事例がなく、私たちがファーストユーザーだったこともあり、さまざまな問題が起きました」(福田氏)。永続的に処理が遅く、システムを組み直せるかを確認する作業にも時間がかかる──といった、クリティカルな問題が発生。BIツールの使用者(営業担当者)の業務が遅れたり、やり方を見直してもらう事態にもなり、「だいぶ怒られた」という。

 今回はこうした教訓を踏まえ、SQL Serverの親和性の高さに加え、導入事例が多いことを重要視。「安心して導入できることが決め手」(福田氏)になった。

「よりレベルの高い分析を」 機械学習の活用も視野

 オンプレミスだったシステムをMicrosoft Azure上のSQL Serverに切り替えたことで、処理のリソースをスケーラブルに割り当てられる環境が整った。そのため、アクセス集中への耐性を向上させることに成功したのは言うまでもない。福田氏は「データ取得が速くなったという意見もあり、業務が効率化されていることを体感しています」と破顔する。

photo 日販テクシードの野上巳知夫氏(グループC&I本部 ビジネスソリューション第2 シニア・マネージャー)

 野上氏は「現場は日々、当たり前のようにBIツールを使っています。(以前と比べて)現場から不具合の指摘や要求が上がってこなくなったことこそが、切り替えに成功したことの証左ではないでしょうか」と笑う。

 クラウドへの移行で、日販社内に限らずグループ全体への展開も進む。野上氏は「日販グループには取次以外に、書籍などを販売する小売の会社もあります。その中の3社が11月から自店の販売動向の分析に今回の分析基盤を活用しています。直近は東京近郊の店舗だけですが、ゆくゆくは全国の店舗に広げていきます」と展望を語る。

 さらに、これまでなら諦めていたような手法にもトライできる可能性があるという。森山氏は「分析精度を上げるための付加情報の追加など、データ分析をより進化できる環境が整った点も評価したいです」と付け加える。

 福田氏は「現状の分析は、BIツールを使い手作業でできる範囲にとどまっていて、現場からは『より高度な分析をしたい』という要求の高まりを感じます。手作業であるがゆえに、個人の分析スキルに依存する部分も多々あり、成果にバラツキが生じています」と指摘する。

 ただ、福田氏は「データはそろっています」と自信を見せる。今後は機械学習を取り入れるなどし、分析手法を高いレベルで標準化することに取り組む。データ分析のチカラをさらにパワーアップできれば、店舗ごとに細やかな配本が可能になる。福田氏は「導入のハードルは下がりました。よりレベルの高い分析を目指していきます」と意気込んでいる。

(後編)「プロジェクトは人ですから……」──日販のデータ分析基盤構築、成功の理由

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 「グループ全体でデータをうまく活用したい」「処理の遅延を解消したい」──そんな要望に応えるため、データ分析基盤をクラウドに移行させることになった日販のプロジェクトチームのメンバーたち。

 彼らを待ち受けていたのは、サポートが終了した前世代のデータベースや、ブラックボックス化したレガシーなシステムなど、二重苦、三重苦の様相を呈する状況だった。


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