「プロジェクトは人ですから……」──日販のデータ分析基盤構築、成功の理由

» 2020年03月12日 10時00分 公開
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 出版市場の縮小が危惧される昨今、本の卸業にあたる出版取次大手の日本出版販売株式会社(以下、日販)が、生き残りをかけ“攻めの姿勢”を明確にしている。同社は2019年10月に社内事業を分社化し、持株会社体制に移行。迅速な事業判断の強化を目指すと同時に、グループ内のITインフラの刷新も進めている。日販テクシード株式会社は、その“攻め”のITインフラ刷新の推進を担う。長年培ったプロジェクトマネジメントとシステムエンジニアリングで蓄積された技術力、グループ外顧客へのビジネス展開から得る新技術適用の経験と実績が同社の強みだ。

 特に力を入れるのは、データを活用する基盤の構築だ。日販は、営業戦略を支えるIT基盤として、全国の書店や書籍の配本・売上などを扱う情報分析用のデータベースを社内で運用。営業担当者が分析結果を基に、書店への営業活動を行っている。

 データの増大に対応し、さらには日販以外のグループ会社でも使えるようにするため、運用環境を移行。従来はオンプレミス環境で、データウェアハウス(DWH)製品を使って運用してきたが、サポート終了に伴ってクラウド上に移行した。

 このデータベース移行に取り組み、みごと成功を成し遂げた日販テクシードと、それを手助けした株式会社システムサポートの技術者たち。サポートが終了した前世代のデータベースや、ブラックボックス化したレガシーなシステムなど、二重苦、三重苦の様相を呈する状況を乗り越えた、プロジェクトメンバーたちの奮闘に迫る。

photo 左から日販テクシードの森山光氏、福田和江氏、野上巳知夫氏、杉本健一氏、システムサポートの伊東克也氏、佐藤大夢氏

(前編)出版業界の“激変の荒波”、データで乗り切る──グループ全体でフル活用、日販の仕掛け人たち

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 出版業界でいち早く“データ分析のチカラ”を活用してきた日販。営業戦略を支えるIT基盤として、全国の書店への配本状況、売り上げなどを分析するデータベースを運用し、書店や出版社のビジネス最適化に取り組んできた。

 しかしデータがたまっていく中で、処理の遅延が顕在化。さらに日販社内に限らず、グループ全体でも活用したいという要望も生まれていた。


「同じ轍は踏みたくない」

 新しく選んだデータベースは、「Microsoft Azure」のIaaS環境に構築したSQL Server。数あるクラウドの中からMicrosoft Azureを選定した理由は、SQL Serverとの親和性や導入実績だった。これには、利用していたBIツールとの親和性も大きく寄与している。日販テクシードの森山光氏は、「拡張性やグループ企業での共用を考えると、オンプレミスからクラウドへの移行は必然でした」と明かす。

photo 日販テクシードの森山光氏(取締役 グループ事業開発本部長)

 データベースの切り替えを契機に、それまでのような日販社内だけに閉じた運用ではなく、豊富なデータ資源を持つ分析基盤としてグループ全体で共用するという大命題があったからだ。

 刷新したシステムの概要は次の通り。まず大本になる各種データは、オンプレミス環境にある業務システムが扱っている。そこからVPNを介して、Microsoft Azure上に設定したSQL Serverに必要なデータを送信することでデータを統合し、分析用のデータベースとして運用。並行してBIツールを運用するためのアプリケーションサーバもMicrosoft Azure上に構築し、グループ各社のユーザーがクライアントから必要なデータを適宜要求して分析を行う、という流れだ。

photo システム構成の概念図

 クラウドへの移行の背景には、既存のDWHのサポート終了だけでなく、ある課題を払拭する大きな目的があった。その課題とは、アクセス集中によるデータ取得レスポンスの遅延だ。

 従来のデータベースでは、月初、週明け、業務開始時などのアクセスが集中するタイミングで、満足のいくレスポンスが得られないという状況が頻発していた。日販テクシードの福田和江氏は「最悪の場合、数時間たってもデータ取得が終わらないことがありました」と振り返る。

photo 日販テクシードの福田和江氏(グループC&I本部 ビジネスソリューション第2 アドバイザリー・マネージャー)

 そのため、移行プロジェクトの第一ステップは「同じ轍は踏みたくない」(森山氏)と、慎重を期すデータベースの選定から始めた。

 検討のパートナーには、システムサポートを指名。選定の決め手は、データベース構築に強いパートナーであったことと、ミーティングを繰り返す過程での、対応力の高さだった。「PoCの段階から親身になって協力してくれたことで信頼感が生まれました」(福田氏)と振り返る。

 システムサポートの伊東克也氏は「PoCによる徹底検証で、(日販が抱える)課題を無事にクリアできる見通しが立ちました」と話す。PoCでは、アクセスピーク時に従来と比べて高速処理を実現できるか否かという観点で検証を繰り返したという。

残されたままだったレガシー環境

photo システムサポートの伊東克也氏(東京支社クラウドコンサルティング事業部)

 データ移行時には、移行元の2種類のデータベースそれぞれで新データベースとの非互換が多数発生したため、日販テクシードとシステムサポートにて新旧それぞれのデータベースの仕様を確認しながら移行を実施した。

 伊東氏は「移行作業は苦労しました」と苦笑する。データの件数が数十億件に上るため、通常の手法でテーブルを設計すると膨大な容量になり、課題をクリアできないことは明白だった。

 そこで、伊東氏らは「ディスクを何本か束ねることで読み込みを高速化する方策を施行しました。さらに各テーブルに対し圧縮処理を行い、メモリに読み込む際の容量を減らす技法も取り入れました」と説明する。クライアントから要求のあったデータは、メモリから全て送り出すことができ、高速処理が可能になるからだ。

 また、伊東氏はシステム構成を提案する時、「当初からIaaS環境を提案していたわけではありませんでした」と明かす。導入後の運用面における効率化を考慮すると、実はPaaSという選択肢がベストだったという。しかし、PoCを実施し技術的な要件を確認して、「将来はさらに踏み込んだ分析を行いたい」というユーザー部門からの要望に応える形でSQL ServerをAzure VM上に構築したという。

 移行時の試行錯誤はこれだけではない。今回、移行元のデータベースは1つだけではなかった。前々回のデータベース移行時、古いJavaで構築されたWebアプリケーションがあり、そのアプリケーションの利用を維持するために、別のデータベースが残されたままだったのだ。つまり、今回のプロジェクトでは、前世代のデータベースとさらにその前のレガシー環境から移行を実施する必要があった。

photo 日販テクシードの杉本健一氏(ソリューションC&I本部 プラットフォームサービス チームマネージャー)

 後者のデータベースについて、日販テクシードの杉本健一氏は「15年以上前に導入したものなので、当時の技術者がいない状態でのスタートでした」と語る。複数のシステムからデータ抽出・変換を行う「ETL」ツールを利用し、レガシーなシステムにありがちな手組みでの移行は回避したものの「データ種が多くデータ量も膨大な分だけ、移行設計は大変でした」と振り返る。

 ただ、苦労した甲斐(かい)があり、2種類のデータベースが一本化されたことで、「クライアント環境の一本化」というメリットももたらされた。これまでは前世代のデータベースにアクセスするためのBIツールと、さらにその前のデータベースに対応したWebアプリケーションの2種類が存在していたが、今回の一本化を機に、前者のツールに統一できたという。管理面での効率化がうまくいったことは言うまでもない。

「プロジェクトは人ですから……」

 今回のプロジェクトは、検討を開始してから約2年を費やした。森山氏は「BIツールの検討、クラウドの選定といった部分で濃密な検討を重ね、評価には約1年半を費やしました」と明かす。だが検討やPoCが終了し、システムサポートも参加した開発と実装フェーズは、約6カ月という短期間で本番運用にこぎつけた。

 約6カ月で移行できたポイントとして関係者一同が挙げたのが、「丁寧な作業」。伊東氏は「異種間データベースの移行になるので、オブジェクトの全書き換えが必要になりました。そこは、マンパワーで時間をかけて対応するしかありません。また、単純にCSVデータをロードしても、エラーが多発して時間が無駄になります。あらかじめデリミタや改行コードの不一致をつぶすなど、連携を密に行うことで、ロード時のエラーを最小限にとどめることができました。このような考え方を徹底したことで、結果的に時間を短縮できました」と分析する。

 本番運用が始まり、課題としていたアクセス集中による処理の遅延は過去のものとなった。福田氏はこれらに加え、サポートが一元化されたことを大きく評価する。「これまでクラウドやデータベースなどのシステムには、複数のベンダーが関わっており、問題や課題の切り分けが大変でした。この部分をシステムサポート1社に一元化できました」と喜ぶ。

 今後のデータベースの進化について、福田氏は「例えば機械学習を導入するなどして高度な分析を誰でも実施できるようにしたいです。また、ノウハウを日販グループだけでなく広く提案していけるようにしていければと思います」と期待を寄せる。システムサポートの佐藤大夢氏は「運用のサポートを継続する上で、クラウド環境ということもあり、使いたい機能、使える機能が増えていくかと思います。ユーザーが使いたい、使えたらうれしいと感じる機能を、幅広く積極的に提案していきたいです」と話す。

 今回の移行が成功した背景には、日販テクシードの担当者とシステムサポートのチームワークがある。日販テクシードの福田氏は「ミーティングを重ねる中で、同じ目標に向かって歩みを進めながら、常に寄り添ってくれた印象を持っています。困ったときに時間も関係なく対応してくれました」と話す。杉本氏は「課題や陥りがちな失敗を理解していて、適切なアドバイスをくれました」とも振り返る。

photo システムサポートの佐藤大夢氏(東京支社クラウドコンサルティング事業部)

 システムサポートの佐藤氏は「(課題が見つかった際)日販テクシードの皆さまとたくさん打ち合わせを重ねました。技術的に優れたものを活用するだけでなく、人と人が綿密に会話することが、1番早い解決策でした」と振り返る。

 密なコミュニケーションがプロジェクトを成功に導く、一つの事例がここにある。インタビュー中、日販テクシードの森山氏は「プロジェクトは人ですから……」とつぶやいた。まさに的を射た表現と言えよう。

(前編)出版業界の“激変の荒波”、データで乗り切る──グループ全体でフル活用、日販の仕掛け人たち

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 出版業界でいち早く“データ分析のチカラ”を活用してきた日販。営業戦略を支えるIT基盤として、全国の書店への配本状況、売り上げなどを分析するデータベースを運用し、書店や出版社のビジネス最適化に取り組んできた。

 しかしデータがたまっていく中で、処理の遅延が顕在化。さらに日販社内に限らず、グループ全体でも活用したいという要望も生まれていた。


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