G-SHOCK初のアナログモデル「AW-500」が発売されたのは1989年。30年を経てAW-500をフルメタルで復刻した「AWM-500」が登場した。
カシオ計算機の耐衝撃ウォッチ「G-SHOCK」にはいくつかのエポックメイキングな製品が存在する。1989年に発売した初のアナログモデル「AW-500」もその1つ。今年11月にはAW-500をフルメタルで復刻した「AWM-500」が登場した。外観以外で共通しているのは、20代の若いデザイナーが担当したことだ。
30年以上前にAW-500をデザインしたのは、現在カシオ計算機のグローバルリストデザイン室でチーフデザイナーを務める川島一世氏。まだ20代後半の若手だった。
当時のG-SHOCKは、1983年に登場した初号機「DW-5000C」が北米でヒットしたため、デジタル表示の角型のモデルが主流だった。しかし「時計市場は針(=アナログ)のマーケットが9割。カシオなりのアナログ時計をどう作るかという大きな命題があった」と川島氏は振り返る。
ならば、今までにないスタイルのアナログ時計を自由な発想で作ろう。AW-500の企画はこうしてスタートした。「カシオはオリジナルデザインを生み出す会社です。G-SHOCKのアナログデザインとは何か、デザイナー同士で議論しながら進めました」。
実はAW-500の前に「カシオ ジェナス」という、薄く軽い、八角形のボディを持つアナログとデジタルのコンビネーションモデルがあり、AW-500でもそのモジュール(時計の機械部分)を使うことが決まっていた。AW-500の針が上側にオフセットしているのはこのためだ。
ベゼルは丸型、角型の両方を検討した。丸型を採用したのは、針が回転するアナログ時計として理にかなっているから。また川島氏のチャレンジでもあった。「金属の時計は、鍛造(たんぞう)したり、金属を丸く切削加工したりします。それを樹脂に置き換えたらどうなるか興味がありました。丸型にまとまったら、その方がインパクトがあるだろうと思ったのです」(川島氏)
最大の問題はサイズだった。ジェナスのモジュールは八角形。それを丸いケースに収め、さらに20気圧防水や耐衝撃性能を持たせなければならない。裏ぶたはダイバーズウォッチで多く採用されている、ねじ込み式のスクリューバック。その中に八角形のモジュールを入れるとなると、八角形の一番長い対角線で円を描くことになり、時計のサイズが大きくなってしまう。
いくつもの試作を経て、デザインがまとまる手応えを得たのは、上に向かって狭まっていく円錐(えんすい)の形に行き着いたときだった。「最初は寸法の調整ばかりやっていましたね」と川島氏は笑う。
針にも一工夫。「衝撃に強くするため、針を固定するボルトのような黒い部品が使われていますが、これはどうしても付けてほしいと言われていたもの。そこで、この部品を逆に生かし、分針を丸く肉抜きして軽く丈夫なイメージにデザインしました」(川島氏)
見た目のバランスにも気を配った。針が上側にオフセットされていると、9時から3時までの間は針が文字盤の上半分に配置され、下部分に空間ができてバランスが悪くなる。そこで、分針の逆側に「尻尾」を付けて視覚的なバランスをとった。
ミニマルデザインという言葉もまだ知られていなかった時代。AW-500はシンプルなデザインを好むアーティストやクリエイターに支持され、その後も何度か復刻される人気モデルになった。
AW-500の発売から30年を経て登場したのが、フルメタルのAWM-500D/AWM-500GDだ。2018年に発売した角型のフルメタルモデル「GMW-B5000」が世界的に成功を収め、その実績を受けてAW-500のフルメタル化にチャレンジすることになった。
デザインを担当したのは、Gデザイン室の網倉遼氏。川島氏とは親子ほど年の離れた後輩デザイナーに当たる。
「AW-500はわれわれにとっても特別なG-SHOCK。こんなにシンプルで線の少ないモデルはG-SHOCKの歴史の中でも多くはありません。それでもG-SHOCKらしい力強さを表現した計算されたデザインです」(網倉氏)
復刻モデルのため基本的なデザインは決まっている。しかし今回もサイズが大きな問題になった。GMW-B5000などの経験から、樹脂モデルを同じサイズでメタル化すると、大きく見えてしまうことが分かっていたからだ。
どれだけ縮小すればオリジナルに近い印象になるのか。網倉氏は3Dプリンターで数%ずつサイズの異なる模型を作って検討した。CADデータから模型を作れる3Dプリンターは、腕時計の開発においてもなくてはならないツール。手書きの設計図を描いていた川島氏の時代と大きく異なる部分だ。
「径、厚さ、顔(ウォッチフェイス)のサイズの組み合わせをいくつも作って検討しました。顔を縮めると女性用モデルのような雰囲気になったり、今風ではない印象になったりします」と網倉氏。最終的にベゼルの径を93%に縮小し、顔のサイズはほぼ同じサイズをキープするのがベストだと分かった。
またメタル化によって重量が増すことで、落下時の衝撃も増してしまう。それを緩和するためにコアに当たるセンターケースをできるだけ肉抜きして軽くした。抜いたところを緩衝材が埋める構造だ。
ベゼルの円錐面からバンドに滑らかにつながるAW-500の造形を再現することにも注力した。「オリジナルの形状をメタルで再現するため、バンドの3駒目までは微妙にアールがかかった形状にしています。曲面の駒は研磨が非常に難しいのですが、AW-500の雰囲気をメタルで表現できたと思います」(網倉氏)
文字盤にはあえて「QUARTZ」の文字を入れた。今となってはレトロなイメージだが、オリジナルに近い雰囲気を出したかった。
一方、大きく変わったのが針の位置だ。モジュールが進化して針をオフセットする必要がなくなったため、針は文字盤の中心で安定感のあるデザインになった。
復刻モデルとはいえ、AWM-500Dの開発に川島氏はノータッチ。「全部お任せ」したという。「異なる素材で同じように見せることは大変なこと。よくベストバランスを導いてくれた」(川島氏)
メタルモデルとして進化していることを表すため、ボディも文字盤もシルバー一色のモデルも用意した。このカラーの追加は「網倉本人から報告を受けた」(川島氏)という。
「金属の無垢感、塊感がよく表現されていて、メタルならではの処理をしてくれました。オリジナルモデルはプリントだったインデックスも、力強くアレンジしてくれた。メタルとしての力感、バランスをよく表現したと素直に思います。これまで本人には言ったことがなかったのですが」と川島氏は笑う。
2人のデザイナーが、奇しくも同じ年代に作り上げたオリジナルモデルとフルメタルモデル。オリジナルを継承しつつ金属の素材感を生かしたデザインは、時代や世代を超えた価値を体現しているようだ。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2021年1月13日