1日に3億件以上をさばく データが命の広告プラットフォーマー、分析システム刷新の裏側

» 2021年09月07日 10時00分 公開
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 「Cookieや広告ID活用の規制で、デジタル広告業界に歴史的な大変動が起きている」――そう危機感を募らせるのは、広告プラットフォーム事業を手掛けるアドインテ(京都市)の稲森学副社長だ。プライバシー尊重の流れで、これまでターゲティング広告に必要不可欠だったトラッキングや分析の手法が使えなくなりつつある。

photo アドインテの稲森学副社長

 Cookie規制は世界各国で進んでいる。日本では個人情報保護委員会が規制を検討。Webブラウザをリリースしている各社もCookieのブロック機能を実装したり、サポートを廃止したりといった動きを見せている。

 この規制は、デジタル広告事業者だけでなく、広告主である企業にとっても看過できない環境変化であり、マーケティング戦略の見直しが必要になる。

 一方で、この変化が新事業進出のチャンスになる業界もある。それは、店舗というリアルの場で、消費者と直接の接点を持つ小売業界だ。店舗を広告メディアとして活用する「リテールメディア」という新しいビジネスが登場し、小売業界が広告業に進出し始めている。

 リテールメディアの仕組みはこうだ。小売企業は消費者の購買データ、行動履歴のようなファストパーティーデータ、会員情報などを取得。プライバシーに配慮し、情報を匿名化して分析。食品や日用品のメーカーといった広告主に提示する。広告主はそのデータを見て広告枠を買い、出稿する。

 リテールメディアにおける最大の強みは、店舗で得たリアルなデータを分析することで、精度の高いマーケティング戦略を構築できる点にある。規制強化でCookieなどを使ったマーケティングが難しくなる中で、プライバシーに配慮しながら実施できる新しい時代のターゲティング広告の仕組みとしてメーカーなどから注目が集まっている。

 このようなリテールメディア事業に力を入れ、大手小売企業との連携によりリテールメディア構築・運用で多数の支援実績を持つのがアドインテだ。2009年設立のスタートアップでありながら、全国に展開するドラッグストアや家電量販店、スーパーマーケットとの提携、電通デジタル、電通テックとのDX(デジタルトランスフォーメーション)専門チーム「Retail-Xing」の結成など、数々の大型案件を手掛けている。

 そんなアドインテでは、リテールメディアを運用するためのデータ運用プラットフォーム(CDP)をMicrosoftの「Azure」上に構築している。CDPには日本全国の店舗から、購買データやIoT機器のデータが数億件規模で集まる。それらのデータと小売企業が持つ固有のデータをクラウド上で統合して分析し、マーケティングに使える情報として整理するのがCDPの用途だ。

(前編)日本の小売店をメディア化する「リテールメディア」 データ分析で新しい広告作りへ

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 小売店をメディア化する「リテールメディア」が、米国を中心に注目されている。日本でリテールメディア事業を展開しているアドインテは、独自のビーコンを使ったデータ収集法が強みだ。

 同社は大量のデータを処理するためのクラウド基盤として「Azure」を採用。処理性能の向上のような技術的なメリットだけでなく、Microsoftとの関わりの中で、多くのビジネスチャンスをつかむに至った。


急成長で取り扱いデータ量が増加 処理性能不足に

 アドインテでは設立当初から他社のクラウドサービスでCDPを構築し、10年にわたり運用していた。それを経営上の理由から19年に切り替え、約1年掛けてAzureに再構築したという経緯がある。

photo アドインテの藤崎史郎氏(開発部)

 同社開発部の藤崎史郎氏によると、以前使っていたクラウドサービスでは処理性能の面で足りない部分があったという。事業を拡大する中で取り扱うデータが急増したことで、データを読み込むだけでも時間がかかるほどになってしまった。

 CDPに入力されるデータの中でも巨大なのが、ビーコンから得られるデータだ。アドインテは独自開発の特殊なビーコン「AIBeacon」を使って消費者の行動履歴を取得できる仕組みを持っている。

 一般的なビーコンはBluetoothを使って近くを通ったスマートフォンユーザーの行動データを取得するが、AIBeaconは加えてWi-Fiの電波も利用してデータを取得する仕組みを採用している。専用アプリをインストールしていないスマホからも匿名化したデータを得られるのが大きな特徴だ。

photo アドインテの「AIBeacon」

 アドインテが提供するサービスの要ともいえるAIBeaconは現在、日本全国で数万台が稼働しており、1日当たり合計で約1GBのデータがCDPに送られている。容量だけ見ると大きくないように見えるが、1件あたりの容量が小さいためデータの件数は3億件にもなる。ここに店舗のPOSレジから得られる購買データが月間で数億件加わるため、CDPには毎月100億件以上のデータが入力される。

 最終的に、アドインテではデータの分析結果を一つ出力するだけで4〜6時間かかる事態に直面していた。

 「データ分析レポートを作る際に処理性能の限界を感じていました。並行処理にするなど対策はしてみましたが、今度はメモリが枯渇して処理が中断するなど、業務に支障が出るレベルになりました」(藤崎氏)

 これを受けアドインテはMicrosoftに相談。同社が提案したクラウド型データ分析ツール「Azure Databricks」の導入検討を始めた。

最初は反対 移行は学習コストがネックに

 複数あるクラウドサービスの中からMicrosoftとAzureを選んだのは経営層だった。経営者の視点からビジネス上で最も効果的な選択として、移行を強く求められたが、開発部は反対の姿勢をとった。従来のクラウドサービスを10年にわたって使う中で、社内にノウハウがたまっており、それを手放すのはリスクだと考えたからだ。

 アドインテのAzure導入は、それまで使っていたクラウドサービスにAzureを加えるのではなく、全てのシステムをAzure上に再構築するものだった。使うサービスが違えば当然できることも異なるため、これまで培ってきた知見を生かせるとは限らない。新しいサービスに乗り換えれば、学習コストが重くのしかかる。

 Azureへの移行を決断するには、再構築に必要なリソースや学習コストの問題を解決する必要があった。

 アドインテの不安を解消するため、Microsoftからは4人のエンジニアと1人の担当営業が常にサポートに就いて支援。ツールの使い方から実装する中で出てきた疑問に至るまで、いつでも質問できる態勢をとった。その上で、場合によってはミーティングや勉強会なども共同で開催することで、徹底的に学習コストを下げた。

得意領域とコストでツールを使い分け

 Azure Databricksを使って構築したCDPの仕組みは次の通りだ。まず、消費者の購買データや会員情報、AIBeaconから得られるデータを、集積場所である「Azure Data Lake」に吸い上げ、分析しやすいようフォーマットの変換や加工を施す。その上で、データ分析用の保存システムであるデータウェアハウス(DWH)に格納。必要に応じてデータ分析を行い、可視化して広告主や小売企業に提供する。

photo CDPのシステム構成

 DWH上のデータを分析する際にはAzure Databricksか、同じMicrosoftのデータ分析プラットフォーム「Azure Synapse Analytics」のどちらかを使う。

 「Azure Databricksは大量データを元に『ある商品について過去1年分の併売商品の情報を得たい』といった細かなデータ分析が必要な場合に利用しています。一方Azure Synapse Analyticsは、大分類、中分類といった単純なくくりで、主に大量のデータを集計するような場合に使います」(藤崎氏)

photo Azure Databricksの操作画面

 運用コストを抑えるためにも使い分けをしている。Azure Synapse Analyticsの場合、起動している間はデータベースに何回アクセスしても料金が変わらない。一方、Azure Databricksは分析処理を実行するたびに起動して課金される。そのため、アドインテでは頻繁に確認作業が発生するような分析や集計の場合に、極力Azure Synapse Analyticsを使うよう設計している。

Azure導入で課題は解決 今後はより効率的で深い分析を

 Azureへの移行で並行処理が可能になり、以前のシステムで課題になっていた読み込み時間の短縮に成功。分析にかかる時間も1時間以内にまで短縮できた。

 アドインテ開発部の森下友加里氏は「比較的複雑な処理を行っていますが、必要なコードを記述して実行すれば、バックグランドで自動的にデータ量に応じて最適化され処理してくれるので助かっています」と明かす。

 今後のCDP開発方針について藤崎氏は、データの統合を挙げている。現状は複数の小売企業のデータを別々に分割して格納しているが、一つのプラットフォーム内で分析を完結できるようにすることでさらなる効率化を目指す。また、Azure DatabricksやAzure Synapse Analyticsが持つ機械学習の機能も活用して取得したデータを分析する方法も探っているという。

 「リテールメディアはこの2年で日本でも急速に広まりつつあります。今はまだプロジェクトの立ち上げ初期段階にある企業も多いですが、実現すれば、来店頻度や天候に合わせたコミュニケーションなど、店舗という時空間の理解を深めるような分析もできるようになります。今後はリテールメディアを起点に、テレビCMを含めたさまざまなマーケティング施策の見直しが進むでしょう」(稲森副社長)

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