未利用だった数千万件の配荷データが“ファンづくり”の主役に カルビーが実現したデータ活用の舞台裏

» 2022年01月27日 10時00分 公開
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 人口減少の局面にある日本市場で企業が生き残るには、いかに顧客を確保するかという課題に向き合う必要がある。「ポテトチップス」「じゃがりこ」といったスナック菓子で有名なカルビーは、会社や商品のファンになった人たちと積極的にコミュニケーションを取ることで愛着心を高めてもらおうと奮闘している。

 ファンづくりの一環で力を入れているのが、スマートフォン向けアプリ「カルビー ルビープログラム」(以下、ルビープログラム)だ。アプリを介して、工場見学やじゃがいもの収穫体験など独自の体験を提供して商品や会社を身近に感じてもらうデジタルマーケティングだ。

 2020年9月にルビープログラムを開始。カルビーの商品がどこの店舗で売っているか検索できる機能「販売店検索システム」を22年1月に追加した。ポテトチップスだけでも年間100種類を超えるという新商品の中には、数量限定や期間限定商品も多いため、「食べたいけど売っていなかった」という消費者の不満を解消することで、ファンを増やす狙いだ。

 この機能は、これまで社内にたまっていたものの生かしきれていなかった配荷データを活用している。一回の配荷データは数千万件に上るというから驚きだ。カルビーの取り組みを探っていくと、社内のデータ活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるヒントが見えてきた。

【前編はこちら】

消費者の「買いたい」を最短距離で実現――カルビーの“ファンづくり”最前線「販売店検索」を深堀りする

 販売店検索システムは、カルビーが持つ数千万件に上る配荷データを基にしている。これまで、この配荷データを十分に生かしきれていなかった。一体、どのようにしてデータ活用を進めて販売店検索システムの開発に至ったのだろうか。

 カルビーの取り組みを探っていくと、データ活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるヒントが見えてきた。ルビープログラムの基盤になっているMicrosoftのクラウド基盤「Microsoft Azure」を使った開発背景と合わせて紹介する。


社内にたまっている未利用だったデータを活用する

 販売店検索システムは、カルビーのお客様相談室に「この商品はどこで売っているか」と問い合わせる相談が多かったことから開発するに至った。お客様相談室の担当者が商品の販売店舗を調べて回答するだけではなく、アプリ化することで24時間いつでも気軽に使える機能になった。

 販売店検索システムを実現した配荷データは、カルビーが商品を店舗に配送したデータを集めたものだ。一つのレコードに「どの店舗にどの商品を何ケース納品したか」という情報が含まれる。店舗や配荷日ごとに集約すると、一回の配荷で数千万件のデータが集まる。このデータを、これまでは活用しきれていなかった。

photo カルビーの関口洋一氏(マーケティング本部 デジタルマーケティング担当マネジャー)

 カルビーの関口洋一氏(マーケティング本部 デジタルマーケティング担当マネジャー)は、今回の販売店検索システムが成功すれば類似事例の取り組みを進めやすくなり、社内にあるデータの有効活用によって新たな価値を生み出すことができるという道筋を示すことができたと目を輝かせる。

 「データがあるから何かをしたい、データを集めてから何ができるか考えるといったデータ中心の考え方では本質を見誤ります。まず、目的があって、その目的を達成するために社内のデータが活用できないか検討するプロセスで物事を進めていくことが、カルビー流のDXといえます」(関口氏)

数千万件のデータ処理にMicrosoft Azureを採用

 販売店検索システムはカルビーと、クラウドサービスの導入支援を手掛けるナレッジコミュニケーション(千葉県市原市)が共同開発した。開発時には、数千万件のデータを管理するためにMicrosoftのクラウド基盤「Microsoft Azure」上でデータ分析をできる「Azure Databricks」を採用した。大量のデータを短時間で集約して毎日更新するのに適したソリューションとして、ナレッジコミュニケーションが提案した。

photo ナレッジコミュニケーションの牧村健氏(シニアソリューションアーキテクト)

 数千万件のデータを更新し続けていく状況で、大規模データの処理を分散化できる「Apache Spark」をAzure Databricksで使えば、必要なデータを抽出/加工して蓄積するETL処理を数秒で実行できる特長が決め手だったとナレッジコミュニケーションの牧村健氏(シニアソリューションアーキテクト)は説明する。

 ルビープログラム自体をMicrosoft Azure上に構築しており、20年のアプリリリース以降、障害が一度もなかったこともMicrosoft Azureを選んだ理由の一つだ。

配荷データから販売店検索用のデータベースを作成

 販売店検索システムには分散NoSQLデータベース「Azure Cosmos DB」を採用。負荷に応じてクラウドサーバの台数を自動で増減するオートスケール機能があるため、データの書き込み時に一時的にスペックを上げて高速処理をしてその後は低コストの状態で運用を続けることができる点がメリットだと牧村氏は話す。

 開発に当たっては、カルビーの配荷データをCSVファイル形式でストレージサービス「Azure Blob Storage」上にアップロードして、Azure Cosmos DBにデータを書き込む仕組みを設計した。Azure Blob Storageにファイルが追加されたことを、クラウドETLサービス「Azure Data Factory」を通して検知し、Azure Databricksを介して集積場所である「Azure Data Lake Storage Gen2」に一度保存する。

 その後、Azure Data Lake Storage Gen2内のデータから一定期間のデータを抽出して、別のAzure Databricks上でETL処理することで店舗ごとの配荷データを集計し、Azure Cosmos DBに書き込んで販売店検索用のデータベースを作成している。

 ルビープログラムのアプリから検索クエリを受け取って結果を返す流れは、「Azure API Management」と特定のプログラムコードを実行できる「Azure Functions」を組み合わせて実現している。

 2つのAzure DatabricksをAzure Data Factoryでつなぐ構成になっている。今回はETL処理を実行する目的で使っているが、少し手を加えれば新しい機能を追加できるため、将来的な拡張性も考慮した構成だ。

photo 販売店検索システムの構成図(クリックで拡大)

4人で、約2カ月半で開発

 販売店検索システムはカルビーの関口氏と谷澤渓介氏(マーケティング本部 商品2部1課)、ナレッジコミュニケーションの牧村氏を含めた合計4人で開発を進め、およそ2カ月半で開発を完了させた。

 ナレッジコミュニケーションにMicrosoft Azureに関する知見や実装支援の豊富な実績があったため、システム開発の内製化を的確に支援できたことに加え、Azureの各サービスの使いやすさも影響したという。

 「Azure Cosmos DBはJSON(JavaScript Object Notation)の知識で作業を進められ、さまざまな方法でデータの入出力を行えるので、体感として使いやすかったです。Azure Databricksについても、一つのデータ分析基盤として完成していて、複雑な工程を経ずに今回のシステムに導入できました。Apache Sparkのコーディングをしっかり勉強しておけば、高度な情報分析を手軽に導入できます」(牧村氏)

開発の難所は、エラーを出さずにデータ処理できる最適値探し

 反対にチャレンジングだった部分を聞くと、牧村氏はAzure DatabricksからAzure Cosmos DBにデータを書き出す部分を真っ先に挙げた。Azure Cosmos DBの許容可能なスループット(一定時間内に処理できるデータ量)を超過してしまい、リクエスト過多でエラーが出てしまった。この状態が多発するとサービス全体に影響を及ぼす可能性がある。牧村氏は、リクエスト量を調整して最適値を探す作業に難しさを感じたと話す。

 エラーの回避は、リクエスト速度と書き込むデータサイズの最適値を探す作業を地道に進めた。「Apache Sparkの処理設定のうち、エラーを誘発する項目がどこにあるのか」「設定値をどの値にすればどのくらいの量を書き込めるのか」といった内容を、書き込むデータ量を少しずつ変化させながら落とし所を探った。

 一般的なデータベースはリクエスト量に応じた課金方式だが、Azure Cosmos DBの課金方式は独自の指標を設定している。そのため、課金額を横目で見ながらリクエスト量を調整する必要があり、日本マイクロソフトのサポートを受けながら調整を進めた。

ビジネスに寄り添い、一緒に考えてくれるクラウドを使う

 ルビープログラムのシステムにMicrosoft Azureを採用した理由には、技術的な観点の他に、カルビーが大切にしている価値観がある。

 「私たちは日頃から、お客さまにどのような価値や体験を提供すればファンになっていただけるか、という視点でシステムを考えています。だからこそ、特定のクラウドサービスありきで開発を進めるのではなく、私たちの考え方に合った環境を導入すべきという思いがあります。機能やコストだけでなく、私たちのビジネスにいかに寄り添って、一緒に考えて伴走してくれるのかという点も重視します」(関口氏)

 日本マイクロソフトはハッカソンやアイデアソンを積極的に実施するなど、自社のビジネスや利益に直接つながるか分からないところから技術を磨いている。カルビーは、こうした姿勢や文化を高く評価していた。

 カルビーの非エンジニアが参加した日本マイクロソフトのアイデアソンでは、エンジニアの知識がなくてもノーコードで課題解決ができる方法やMicrosoft製品がどう役立つかを分かりやすく解説したという。関口氏は「Microsoft Outlook」「Microsoft PowerPoint」のように、どんどん使いやすくなって空気のように社内に入り込んでくる存在になってほしいと要望を口にした。

 ナレッジコミュニケーションの立場では、販売店検索システムの開発を通してDXやデータ活用を実現している企業の考え方や、企業の目的達成に向けてテクノロジーを使って貢献するための知見が得られるといった収穫があった。日本マイクロソフトについては、クラウド上で提供しているソリューションを組み合わせて顧客の要望を実現し、しっかり話し合えば熱量を持って応えてくれるパートナーだと振り返る。

 今回リリースした販売店検索システムは、現時点では検索可能な商品を限定している。今後は検索可能な商品数を増やしたり新商品をプッシュ通知でお知らせしたりする機能を実装して、さらなるファンの獲得を目指す。

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