“The銀行員”のデジタル人材化×分析基盤の構築 北國銀行がクラウドで挑むデータ活用の全貌とは

» 2022年04月25日 10時00分 公開
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 日本経済が暗く長いトンネルから抜け出せていない。しかし、その中にいる企業らは生き残りを懸けてさまざまな取り組みを進めている。そんな中でも“冬の時代”といわれるのが地方銀行だ。背景には、長引く低金利政策やフィンテック企業の台頭がある。状況を打開すべく行動を起こした銀行の一つが、北國銀行(石川県金沢市)だ。

 北國銀行はグループ企業とともに、積極的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進。保有するデータを活用すると同時に、「デジタル」を軸に据えた地域の総合ビジネスプラットフォームを目指して組織改革を進めている。

 DX推進の堅い決意を示すかのように、同銀行では2021年5月に「Microsoft Azure」上でオープン勘定系システム「BankVision」の稼働をスタート。主な銀行業務をカバーするフルバンキングシステムをパブリッククラウド環境で運用する取り組みは、国内ではかなり先進的だ。

 このように、銀行を取り巻く環境の変化にいち早く対応してきた北國銀行が次に挑戦するのが、データ分析基盤の構築とデジタル人材の育成プロジェクトだ。デジタル化やクラウド活用を進めてきた同銀行の取り組みの中でもデータ活用に注目して、その北國銀行の挑戦を追った。

photo 北國銀行のデータ分析基盤構築と人材育成プロジェクトに携わったメンバー

「勘や経験だけに頼る従来型ビジネスは限界」 データ活用で顧客ニーズ把握へ

photo 北國銀行の小西明久氏(マーケティング部 マーケティンググループ長)

 「勘や経験だけに頼る従来のプロダクトアウト型ビジネスは限界に来ています。“ビジネス力”に磨きをかけつつ一般行員もデータサイエンス力を養い、個人/法人を問わず、顧客のニーズを徹底的に把握するマーケットインの考え方でサービスを構築する必要があります」――こう話すのは北國銀行の小西明久氏(マーケティング部 マーケティンググループ長)。

 データ活用やデータサイエンスに注力する背景には、銀行が扱うデータの量や質の変化がある。インターネットバンキングや銀行が提供するスマートフォンアプリが普及したことで、顧客接点のデジタル化が進んだ。そのため、これまでにはない種類や量のデータが集まるようになった。こうしたデータを活用することで、顧客ニーズの把握を進める狙いだ。

データ分析基盤を活用し、柔軟で素早いデータ活用を実現する

photo 北國銀行の中越寛人氏(マーケティング部 マーケティンググループチーフ)

 北國銀行のデータ活用は今に始まったことではない。約20年前から金融機関向けのマーケティングシステム(MCIF)を導入して銀行内のデータを統合するなどデータドリブンな経営を推進してきた。しかし銀行内外から収集するデータが変化したことで、従来のシステムでは十分な活用が進まないという悩みを抱えていた。「変化しているデータをいち早く取り込んで活用できる基盤を作らないと厳しい状況になってきています」――同銀行の中越寛人氏(マーケティング部 マーケティンググループチーフ)はこう振り返る。

旧来型システムでは「イノベーションもDXも進めづらい」

photo 北國銀行の岩間正樹氏(システム部 部長)

 適切なデータ活用とは別に、このプロジェクトに期待する成果の一つが銀行内システムや業務の在り方の見直しだ。北國銀行では100以上のパッケージシステムやサブシステムがある。「パッケージシステムは従来型の銀行業務に特化しているので、無駄な部分もあります。システムに合わせて業務が作られて固定化しているため、イノベーションを起こしづらいし、DXを進めづらい環境になっています」――同銀行の現状を、岩間正樹氏(システム部 部長)はこう分析する。

 こうした状況を打破するため、パッケージシステムを使う業務の目的や価値を再評価しながら必要なシステムをゼロベースで考え直し、システムの刷新と内製を目指す。その際、データ分析基盤との連携を意識することで、データ活用というビジネス戦略の実現を後押しする狙いだ。

人事異動でデータ分析ノウハウが消失――過去の失敗から、内製化と人材育成に注力

 プロジェクトでこだわったのが、内製化とデジタル人材の育成の2つ。内製化にこだわる理由は、収集するデータや環境の変化に素早く対応するためだ。従来のシステムは一度データベースを構築した後に変更を加えることが難しい。データ項目を1つ足すだけでも、システムインテグレーター(SIer)に発注して対応して――といった手順を踏む必要がある。そのため変化に合わせた柔軟な仕様変更や、機動的な運用を望めず、自分達が思い描く姿でデータを生かせないのは明白だった。SIerを通さずフレキシブルに分析基盤を運用するため、内製を重視した。

 加えて、基盤運用やデータ分析に関するノウハウを蓄積して残すという観点も内製化のポイントだ。新たに構築した分析基盤の仕組みを理解する人間が社内にいないとブラックボックス化してしまうため、これを避ける目的もある。

 デジタル人材の育成については、中長期経営戦略で2〜3割の銀行員をデジタル分野にシフトすると掲げるほど力を入れている。その理由の一つが過去のエピソードで分かる。これまで北國銀行が使っていたMCIFのシステムは、本部のマーケティング担当者が顧客サービスを開発するなどの用途のみに使っており、銀行全体でデータサイエンス力を底上げするには限界が見えていた。さらに人事異動で担当者が入れ替わると、データ解析のノウハウが消失してしまう課題もあった。こうした課題の解決もプロジェクトの目的だ。

顧客データ活用でサービス改善 「デジタルフィードバックループ」実現へ

 いざプロジェクトを進めるに当たり、内製するとはいえ全てを自分たちだけで行うのは難しい。「必要な部分は外部のサポートを受けながら構築する必要があります。今回は、分析ツールの導入という枠組みを超えて優れた人材育成プランを提案してくれたBIPROGYをパートナーに選びました」(小西氏)

 データ分析基盤を構築するクラウドは、北國銀行内ですでに使っていたMicrosoft Azureを選定。データ分析サービス「Azure Synapse Analytics」に白羽の矢を立てた。

 プロジェクトでは、Microsoftが提唱する「デジタルフィードバックループ」の実現を念頭に置いた。デジタルフィードバックループとは、企業を形作る要素を全方位的にカバーする4領域「人」「顧客」「業務」「製品」からデータを収集/分析/活用することを指す。これにより、今までにない新たな知見を発見し、その結果を各領域に還元して改善を続け、また新しいデータを取得するというサイクルを循環させて継続的に企業のデジタル変革を促すものだ。

photo デジタルフィードバックループの全体像(クリックで拡大)

データ活用でリアルタイム与信管理を試す 3カ月のPoCで検証

 21年6月から開始した3カ月のPoCでは、データ活用を試す業務を決めるために約300の業務をピックアップして、業務内容を基に営業分野と管理分野に切り分けた。それらの内容を精査し、各分野1つに絞り込んだ。

 1つ目はデビットカードの利用促進だ。デビットカードの決済状況を基に、優良顧客の使い方や特徴を機械学習で洗い出した。そして優良化しそうな顧客のモデルを作成し、該当する顧客にメールを送ることで、カードのさらなる利用を促す仕組み作りを検証した。

 2つ目は法人を対象にした与信管理だ。従来型の格付けによる判断は、過去の決算内容に基づいており、刻々と変わる社会情勢をリアルタイムに反映することは難しい。そこで、日々の取引内容や口座の動きの変化を分析することで、企業の業況悪化の兆候を見極める仕組みづくりにチャレンジ。今後は従来型の与信判断からの移行を目指す見通しだ。

photo BIPROGYの近藤泰幸氏(金融ビジネスサービス第三本部ビジネスサービス四部サービス一室 チーフ・スペシャリスト)

 「デジタルフィードバックループを実現するには、業務や組織体制の整備が必要です。PoCでは、北國銀行内で業務部署を巻き込み、内製化を前提とした取り組みを進めることを最重要視しました」――プロジェクトを支えるBIPROGYの近藤泰幸氏(金融ビジネスサービス第三本部ビジネスサービス四部サービス一室 チーフ・スペシャリスト)はこう振り返る。

PoC参加者は“The銀行員” デジタル人材育成は着実に進んだ

 PoCは人材育成の観点でも成果があった。実は、今回PoCに参加した人の多くが一般的な業務を担う“The銀行員”で、データ分析との関わりは少なかった。「従来のシステム開発では、銀行員は業務要件を出して発注するだけのスタンスでした。しかし今回はシステム部門と一緒にシステムの中身を理解して課題感を共有するなど、マインドの共有を進められました」(中越氏)

 銀行員全体の士気も高く、クラウド活用などアジャイル開発の勉強会を開くと約600人が集まる。これは全銀行員の約3割だ。北國銀行は、データ分析基盤を使えるだけでなく、出力結果を見て「なぜそのような結果になったのか」まで理解できる銀行員を目指して人材育成を進める。

北國銀行が目指す「デジタルを軸にした総合的なビジネスプラットフォーム」

 PoCを終え、22年2月から本格フェーズでの構築を始めている。最初はデータ分析基盤の構築を進めるが、最終的には銀行内の各システムをクラウド環境に移行する予定だ。データ連携に有利なクラウドのメリットを最大限活用して、データ活用を推進する。

 今後は早い段階でのインターネットバンキングやスマートフォンアプリとの連携も視野に入れており、ここでもBIPROGYやMicrosoftの力を借りたい考えだ。「内製化をメインにしつつ、コラボレーションをしていきたいです。三社でまだどこの銀行もやっていないようなチャレンジングな取り組みを進めていきたいです」(岩間氏)

 地方銀行の先端を走る北國銀行。最後に、これからの地方銀行としての役割について尋ねた。「単なる金融企業の枠を超えて、デジタルを軸にした総合的なビジネスプラットフォームを目指します。例えば、個人のお客さまなら、インターネットバンキング教室を開くなどシルバー世代のスキル向上に貢献したり、法人向けならシステム構築からコンサルタントをしたりと、ビジネス上のあらゆる課題解決に貢献することも考えています」(小西氏)

 これまでのように顧客のお金を取り扱うだけの存在ではなく、個人/法人問わず顧客の課題解決に貢献する存在にならなければ、地方銀行は生き残れない。従来のやり方が難しくなった今、地方の企業でもITやクラウドといった新しいテクノロジーを活用する必要に迫られている。

【後編はこちら】

「DXの将来を占うマイルストーン」 北國銀行が挑む脱・旧システム データ分析基盤の構築プロジェクトを追う

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 北國銀行が進めるデータ分析基盤の構築プロジェクトは、銀行内のデータ活用にとどまらず内製化や人材育成を進めるなど同銀行の将来を重視した内容になっている。DXや組織改革を着実に進めるにはどうしたらいいのか。

 北國銀行の挑戦を追うと「なぜクラウドを選んだのか」「素早いデータ活用を実現するカギは何か」「Microsoft Azureを使ったプロジェクトの進め方」といった背景が見えてきた。追従する企業のモデルケースともいえる同銀行の取り組みを深掘りする。


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