「テクノロジー人材としてのスキルをどこで発揮できるか」「どのような成果を残せるのか」と自問しながら自己研さんを続けて、活躍の場を探している人は多いだろう。そのような問いに答えてくれる職場が“ここ”にあるかもしれない。ITベンダーではなく、企業の情報システム部でもない――監査法人だ。
世界4大監査法人(Big4)の一角をなすEY新日本有限責任監査法人(以下、EY新日本)が、DX推進のためにテクノロジー人材を募集している。EY新日本はテクノロジーによる監査の変革とデータドリブンな監査体制の確立を目指す取り組みを「Assurance 4.0」と名付け、専門組織「アシュアランスイノベーション本部」を2020年に新設。デジタル化やオートメーション化、AI活用などに取り組んでいる。
Assurance 4.0の成果が数字として表れるなど改革が軌道に乗り始めた今、この取り組みをさらに加速させるためにテクノロジー人材の採用にいっそう力を入れている。監査がメインのEY新日本でテクノロジー人材が活躍できるのだろうか。公認会計士の資格を持ちながら、監査部門からアシュアランスイノベーション本部に移ってテクノロジー人材に転身した3人のメンバーに聞いてみた。
EY新日本がデジタル化を急ぐ背景には、監査法人が抱える課題がある。同法人で公認会計士として働いていた秋元さんは、テクノロジー人材に転身した動機を次のように話す。
「金融系企業の監査業務を担当していました。決算データや開示書類を表計算ソフトで開き、数字の整合性を目視と手作業で確認するなどの単純作業が多くあります。テクノロジーを使って省力化や効率化ができるはずと考えて、アシュアランスイノベーション本部に参画しました」
公認会計士として事業会社の監査を手掛けていた吉藤さんは、法人全体の最適化が必要だと訴える。EY新日本内に監査チームが多数ある中で、吉藤さんが所属するチームだけが業務のデジタル化や効率化をしても効果には限界があると分かり、全社規模で改革に携われるアシュアランスイノベーション本部に移った。
同じ課題を感じていた公認会計士の渡邊さんは、もともとテクノロジーに明るかったこともありアシュアランスイノベーション本部設立前からデジタル部門に異動。監査現場のデータ処理、分析をサポートするチームのリーダーを2年以上務めた後、 Automationチームでサブリーダーを務めている。
監査の現場でデジタル化やオートメーション化できる領域が多々あると感じていた3人は、変革を進めるという使命感を持ってアシュアランスイノベーション本部への異動を申し出た。同本部にはもちろん公認会計士を経ていないテクノロジー人材も多数所属している。現場感が分かるメンバーとテクノロジーに強いメンバーが協力してAssurance 4.0に取り組んでいる。
3人はプロダクトマネージャーのような立場で、社内外のテクノロジー人材と協業してさまざまな監査システムやITツールの開発に携わっている。主に担当しているのが、監査自動化システムの開発だ。代表的なシステムとして、クライアントが利用する開示システムとEY新日本の監査システムをAPIで連携し、取得した決算データや開示データの計算や整合性チェックを自動化するものがある。調書補助資料を自動出力することで開示書類の作成プロセスと監査業務を途切れることなくつなぐ仕組みで、自法人内にとどまらず監査に関わる業界のシステムと連携させる画期的な取り組みだ。
監査業界の中でも先進的な取り組みで、2024年夏から数社の監査で段階的に利用したところ、1つの監査チームにつき20〜30時間の工数削減効果があったと渡邊さんは説明する。本格的に稼働すれば1チームにつき50時間、全社で合計1万時間以上の削減を見込んでいる。
「監査チームで雑務に忙殺されていたころに『こんなシステムが欲しかった』というものをリリースできました。全社に広げることで、監査業務の最適化を推し進めたいです」(秋元さん)
監査自動化システムの他にも、さまざまなプロジェクトが進行中だ。公認会計士や監査チームの要望を受けながらの開発になるが、全てが計画通りに進むとは限らない。ましてや、テクノロジーと会計という異なるバックボーンを持つ人材がタッグを組むのだ。衝突が起きないか心配になるが、3人のような人材が両者の間を取り持つことでプロジェクトが円滑に進む。
「あるプロジェクトが停滞したことがあります。監査チーム側の『やりたいこと』がデジタルチーム側にうまく伝わっていませんでした。両方の視点を持つ私が間に入って、データフローを図解しながらデジタルの言葉に翻訳したことでプロジェクトが動きました。互いに相手の考えを理解し合える環境作りを心掛けています」(渡邊さん)
監査チームからの要望を無条件に全て引き受けるわけではないと吉藤さんは説明する。「全ての要望を実現するのはシステム的にも開発コスト的にも現実的ではありません」とした上で、要望の中にある「監査業務における本質」を捉えて優先順位を付けて取り組んでいると話す。秋元さんは「開発コストが大きくても、切り捨てるべきではないものもあります。そこは公認会計士の経験に基づいて見極めています」と強調する。
「監査法人の変革」「テクノロジーの現実解」という2つのバランスを取る上で、公認会計士を経験したメンバーがアシュアランスイノベーション本部にいるのは心強い。
取材中、3人の口から「チーム」というキーワードが頻繁に飛び出した。公認会計士とテクノロジー人材が遠慮や萎縮することなくフラットな関係で変革を目指すことを尊び、その土壌としてのチームを耕すことがプロジェクト成功への近道だと渡邊さんは力を込める。
「テクノロジー人材が監査部門の下請けのような関係では、プロジェクトが円滑に進みません。双方が対等な立場でお互いに意見を出し合える関係性が強いチームの証しだと考えています」(渡邊さん)
「私たちのチームは、全員が意見を対等に出し合って課題に立ち向かう場面を幾度も経験しています。テクノロジー人材は知的好奇心が強い人が多く、案件を深掘りして業務に還元したり知識を共有したりしてくれます。このような理想的なチームで働けるので楽しいです」(秋元さん)
「会計士は数字を扱い、テクノロジー人材はプログラミング言語を操ります。双方とも思考がロジカルなので、意思疎通が円滑に進むのかもしれません。思考プロセスが共通しているので、テレワーク中心の働き方でもスムーズにコミュニケーションできます」(吉藤さん)
公認会計士もテクノロジー人材もそれぞれの分野のプロフェッショナルであるだけに、お互いに尊重し合えていると全員が口をそろえて付け加える。言い換えれば、テクノロジースキルにどれだけ長(た)けていても、自分の考えに固執してチームワークを乱すような人はEY新日本では価値を発揮できないかもしれない。
「『自分以外のメンバーには全く無関心』という姿勢の人はなじめないと思います。自分の役割を果たすことは大切ですが、チームの一員としてゴールに向かうことを大切にできる人が活躍できるでしょう」(渡邊さん)
テクノロジー人材を迎え、良いチームを育むために、EY新日本は働きやすい職場環境を整えている。アシュアランスイノベーション本部はテレワーク中心で、シフト勤務や中抜けも可能。吉藤さんは、同本部に移籍した理由について「ちょうど子どもが生まれたタイミングで、テレワークで働けるというのが魅力的でした」と振り返る。
秋元さんも「1年間に1〜2回しか出社しません」と笑う。子育て中の秋元さんは「フレキシブルワークプログラム」で週4日勤務という働き方を選択。水曜日を休業日にして、育児や家事に時間を当てているそうだ。「残業はほぼありません。学校から帰ってきた子どもに『おかえり』と声を掛けられる毎日がとても幸せです」
メンバーに優しい労働環境が整っているようだが、人事評価や昇格に影響することはないのだろうか。制度上は問題なくても、評価者のアンコンシャス・バイアスが働いて不利な処遇を受けるケースも考えられる。
「確かに、フレキシブルワークプログラムを選んだとき、評価への影響が心配だったというのが本音です。上司は『心配ない』と言いますが不安は完全には消えませんでした。しかし、ふたを開けて見れば正当に評価してもらえました。今、マネージャーというポジションにいることがその証です。心配は杞憂(きゆう)でした」
テクノロジー人材のスキルアップを支援する制度も充実している。オンライン学習サービス「Udemy」の講座を無料で受講可能。30科目以上を受講した渡邊さんは「EY新日本の制度を利用して、自分が思い描くキャリアパスを実現できることは確かです」と訴える。
3人への取材を通じて伝わってくるのは、メンバーの多様な選択を後押しすることで個人の能力を引き出そうとするEY新日本の姿勢だ。公認会計士なのかテクノロジー人材なのか、仕事とプライベートのバランスをどう取るか、などさまざまな選択肢を用意し、それを選べる社風が醸成されている。
自身が持つテクノロジースキルを生かして活躍したい、レベルアップを目指して新たな挑戦がしたい、などこれからの生き方を模索している人にとって、EY新日本は理想的な職場ではないだろうか。同法人は「いつでもウエルカム」だという。まずは採用情報をチェックしてみてはいかがだろうか。
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