Innovative Tech
老化したヒト細胞を若返らせる「スイッチ」を見つけるシステム 米国チームが開発 マウスが3週間で8カ月若返り
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2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校に所属する研究者らがPNASで発表した論文「Systematic identification of single transcription factor perturbations that drive cellular and tissue rejuvenation」は、老化した細胞を若返らせる「スイッチ」を発見するシステムを開発した研究報告だ。
細胞の若返りを目的とした「転写リプログラミング」は、老化研究において注目される分野の一つだ。これまで若返りを促す転写因子(遺伝子の働きを制御するタンパク質)は、iPS細胞の作製に使う山中因子など数種類しか発見されていない。しかも、山中因子は複数の転写因子を必要とする複雑性や、がん化のリスクなど懸念も見られる。
研究チームは、こうした課題を克服するため、膨大な遺伝子データの中から若返りの鍵となる因子を効率的に探し出すプラットフォーム「TRDP」(Transcriptional Rejuvenation Discovery Platform)を開発した。
このシステムを用いて、ヒトの皮膚線維芽細胞をモデルに、200種類の転写因子に対して活性化と抑制を組み合わせた計400パターンの介入をスクリーニングした。結果、E2F3やEZH2という因子を過剰に働かせるか、STAT3やZFXという因子を抑制するという単独の操作を行うだけで、老化細胞が若い細胞のような特徴を取り戻すことが明らかになった。
これらの操作は、細胞の増殖能力やミトコンドリアの活性、老廃物の処理能力といった重要な機能を回復させ、かつ細胞のアイデンティティーを保ったまま若返りを実現した。しかも、複雑な遺伝子カクテルを用いずとも、特定の因子を操作するだけで組織の若返りが可能であることを証明した。
研究チームは、この手法が培養細胞だけでなく生体内でも有効であることを実証するため、老齢マウスを用いた実験を行った。候補因子の一つであるEZH2を老齢マウスの肝臓で3週間だけ過剰発現させた。
その結果、肝臓の遺伝子発現パターンが約8カ月分若返った。組織レベルで見ると、加齢に伴う脂肪肝や組織の線維化(硬くなること)が大幅に改善され、糖尿病のリスク指標であるグルコース耐性も向上したことを確認した。
安全面では、このEZH2による若返りが肝臓がんモデルで見られるような危険な遺伝子変化を伴わなかった点が挙げられる。短期実験ではあるものの、がん化のリスクを抑えつつ単一因子の操作で健康寿命を延ばすためのアプローチになる可能性を示唆している。
Source and Image Credits: J. Sengstack,J. Zheng,T. Aghayev,G. Bieri,M. Mobaraki,J. Lin,C. Deng,S.A. Villeda, & H. Li, Systematic identification of single transcription factor perturbations that drive cellular and tissue rejuvenation, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123(2)e2515183123, https://doi.org/10.1073/pnas.2515183123(2026).
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2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
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