コミケのような空間をネットでも――急成長「pixiv」が描く“第2章”の青写真(2/2 ページ)
コミケのように、さまざまな作品が生まれ、売買される空間へ――急成長を続ける「pixiv」が次のステップへ進もうとしている。有料会員制度「pixivプレミアム」はそのための入り口という。
投げ銭機能「goodP」の狙い
「知的生産物は宗教のように熱心なファンからの喜捨で支えられるようになると、私は考えている。これは決して縮小均衡にはならないはずだ」――作家・石田衣良さんの小説「アキハバラ@DEEP」に登場するこの言葉が、片桐社長は好きだという。
気に入った作品に対し、何かを寄付したり、感謝の気持ちを伝えるような習慣をpixivにも定着させたいという。そのための機能を充実させていく計画で、第1弾がgoodPだ。今後、ほかのユーザーに手書きのメッセージを送る機能を追加する計画だ。
goodPは当初「投げ銭」と呼んでいたが、評判が悪かったため、名前を変えた。「ネット上には昔から投げ銭の仕組みが存在しているが、pixivには若いユーザーが多く、投げ銭という言葉になじみがなかったようだ」
投げ銭に代わる新しい名前を決めるため、8時間ほど議論したという。結局「かわいい名前がいいのでは」という考えから、goodPに落ち着いた。「“あっぱれ”など、いろんな候補があったんですが……」
「ニコニ広告の仕組みはpixivに合わない」
「ニコニコ動画」には、気に入った動画や投稿した動画を、有料ポイントを使って宣伝できる機能「ニコニ広告」がある。「THE IDOLM@STER」「東方Project」「VOCALOID」など、再生回数の多い“御三家”以外の動画を目立たせる狙いだと、ニワンゴ取締役の西村博之氏は話している(初音ミクやアイマス“以外”を目立たせたい――ニコニ広告の狙い、ひろゆき氏に聞く)。
pixivでも東方ProjectやVOCALOIDのイラストが人気で、ランキング上位に入ることも多い。ユーザーが自主的に開催するイラスト投稿企画の作品なども「もっとプッシュしたい」と考えていた。だがその手段として「ニコニ広告のような仕組みはpixivに合わない」と見ている。
「自分の作品は自分の子どものようなものという感覚を持つユーザーがpixivには多い。ニコニ広告のように、投稿者が知らない間に、自分の作品が宣伝され、目立ってしまうのは、気分が良くないかも知れない」
解決策としてpixivが始めたのは、エンターブレインと共同で運営するWebマガジン「ピクシブ通信」だ。pixivに投稿された作品やクリエイターを紹介している。
「pixivがきっかけで仕事の依頼を受けるというユーザーもいる。埋もれているユーザーをピクシブ通信でピックアップして、世に出て仕事をするきっかけになればいい」と、期待を寄せる。
不況の影響は? 「ゴキブリみたいに生き残る」
pixivは開設から1年半で、月間ページビューが6億、会員数は70万人を突破した。同社に対する注目度も高まっており、「国内の有名なベンチャーキャピタル(VC)のほとんどから連絡が来た」ほどだ。「これまで細かい事件はいっぱいあったけど、絶体絶命だったことはないかな」と、片桐社長は急成長ぶりを控えめに振り返る。
2月末に開いたイラスト展示会「pixivフェスタ」には、1500人以上が来場した。開催前は「そんなに人は集まらず、寂しいことになるだろうと憂鬱(ゆううつ)だった」が、予想を超える盛況ぶりで「ユーザーの熱気は半端じゃなかった」。香港からpixivフェスタのために来日したユーザーもいた。反響に応え、7月に第2回を開くことも決めた。
順調なpixivだが、不況の影響はないのだろうか。「最近VCからの連絡は少なくなったが、pixivで不況の影響はあまりない。知り合いのベンチャーでは売り上げが半減したと聞いたが、pixivの広告収入はもともと波があるので……。市況が変化しても、ゴキブリみたいに生き残っていきたい」
今後は海外ユーザーを積極的に獲得していく考えだ。まずは韓国語と中国語への対応を進めるという。「ペンタブレットの価格が安くなってきているし、PCで絵を描く人はこれからも増えていくと思う」――片桐社長は、pixivの伸びしろはまだまだあると考えている。
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