費用は数十億円規模 創業8年のスタートアップが「人工衛星50基」を飛ばすわけ(3/3 ページ)
超小型の人工衛星を50基打ち上げ、宇宙から地球を毎日撮影する――東京大学発のスタートアップがそんな計画を打ち出した。50基の小型衛星が生む新ビジネスとは何か。同社の中村友哉CEOに聞く。
「高い解像度はいらない」
こうした用途のためには高解像度のカメラが必要かと思いきや、アクセルスペースが飛ばす人工衛星のカメラの地上分解能(解像度)は約2.5メートルと、クルマ1台をなんとか見分けられる程度だ。中村CEOは「軍事目的ならともかく、民間ビジネス用の衛星なら高い解像度はナンセンスだ」と話す。
「高い解像度が必要」という考えは、人間が画像を直接見て解析する発想によるものだという。アクセルスペースでは、画像の解像度が高くなくても、人工知能(AI)によって解析して抽出したデータを人間が見ればいい――と考えている。
分解能を下げるとともに、1回の撮影範囲を広くしているのもポイントだ。衛星の高度を下げたり、ズームしたりして細かく撮影しようとすれば、画像の鮮明さは上がるが、撮影範囲は狭まってしまう。鮮明さと引き換えに撮影範囲を広くすれば、50基の衛星で地球上のほとんどを撮影できるという。「きれいな写真を求めるなら、宇宙に行かなくてもドローンを飛ばせばいい。解像度よりもカバレッジを優先することで、衛星ビジネスが成り立つ」(中村CEO)。
「超小型衛星をインフラにしたい」――これからは「勝負の5年間」
中村CEOは、これからを「勝負の5年間」と話す。17年に3基を打ち上げた後は加速度的にペースを上げ、22年までに50基を周回させる必要がある。そこで問題になるのが、打ち上げに必要な「超小型衛星専用のロケット」だ。
同社はこれまで、小型の衛星を打ち上げる際、大型衛星を打ち上げるためのロケットに“相乗り”してきた。そのためメインの衛星の行き先に合わせる必要があり、思うように目的の周回軌道に乗らない課題があったという。今後打ち上げ数を増やしていく中で、行き先を選べるようにするには専用ロケットが不可欠だ。
「AxelGlobe構想は、インフラビジネスに近い」と中村CEOは話す。競合他社よりも先に小型衛星の体制を整え、利用企業が増え始めれば、後追いのサービスができても乗り換えのコストが高いため移ろうとはしないだろう――という狙いがある。
「超小型衛星をインフラにしたい。人々の知らないうちに、宇宙から送られてくる情報が生活に欠かせない存在になれば」(中村CEO)
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