人工知能が作ったものは誰のモノ? 弁護士が体を張って解説してみた:STORIA法律事務所ブログ(3/3 ページ)
AI(人工知能)が及ばないとされていた“クリエイティブ領域”の進歩が著しい。AIが描いたコンテンツの権利は誰にあるのか。AIと著作権に詳しい弁護士の柿沼太一さんが解説する。
別著作物の場合は?
では、人工知能が作成した新作品が、元写真とは全く別物だった場合はどうでしょうか。テイストとして、知り合いのプロのイラストレーターの作品「花」のスタイルを付加してみましょう。この絵です。
すてきな絵ですね。で、これを元写真に「スタイル」として付け加えると──。
我ながら(と言っても私は「submit」ボタンを押しただけですが)、想像を超える出来栄えです。メガネや目、鼻や口が違和感なく花になっていますね。弁護士バッチも新種の花みたいになっています。背景も大胆にデフォルメして花と茎で埋め尽くされています。ただ、まあ、人間の顔と言えなくもないので、ギリギリですかね。
元写真の「表現上の本質的な特徴を感得できる場合」
ではこれは? これは、私の知り合いの、カエルと野外フェスが好きな女性がささっと描いたカエル絵です。
……たぶん3分くらいで描いてますね、これ。カエルのDJがお皿を回しています。この絵を「スタイル」として元写真に付加したみたのがこちら。
人間ではないですね、まず。
向かって右のカエルの化け物から熱い吐息を吹きかけられてピカピカ光っている電球みたいになっています。向かって左側には、金剛力士が踏みつけている邪鬼もいますね。完全に元作品とは別の作品としかいいようがない。
このように、元作品と、人工知能が作った新作品が全く別物だった場合は、このような関係になります。
新作品を制作した人工知能は著作権を持ち得ないし、かつ原作品と新作品は別物だから原作品の著作者も新作品に何の権利も持てない。とすると、結論的に、このパターンの作品は誰も著作権を持っていない、ということになりそうです。こんなにいいカエルなのに。
この結論が意味しているのは、人工知能を用いると、既存の著作権法の解釈の下では著作者が存在しない、しかも一定レベル以上の質の著作物が大量に生み出される、ということです。
つまり、極めて低コストで著作物を量産することができることになり、これがコンテンツ業界に与えるインパクトは想像できないほど大きいと思います。今は、人工知能による著作物の生成は写真やイラストの世界にとどまっていますが、映像や小説などのコンテンツについてもどんどん人工知能が活用されようとしています。
それは、ほとんどの人間のクリエイター(と、私のような著作権関係を仕事としている弁護士)が失職するという暗黒の未来につながっているのでしょうか。考えると冷や汗が出てきます。
まとめ
原著作物を元に新作品を制作した場合、原作品の「表現上の本質的な特徴を感得できる場合」には、二次的著作物となり、2人の著作権者が存在することになる。
人工知能が関与して二次的著作物を制作した場合には、原著作物の著作者のみが二次的著作物に関する権利を有することになるのではないか。
人工知能が関与して原著作物とは別の著作物を制作した場合には、だれも著作権を有しない著作物が生み出されることになるが、それは既存のコンテンツ業界に大きなインパクトを与えるのではないか。
著者プロフィール
弁護士・柿沼太一
1973年生まれ。00年に弁護士資格取得後、著作権に関する事件を数多く取り扱って知識や経験を蓄積し、中小企業診断士の資格取得やコンサル経験を通じて企業経営に関するノウハウを身につける。13年に、あるベンチャーから案件依頼を受けたのをきっかけとしてベンチャー支援に積極的に取り組むようになり、現在ベンチャーや一般企業、著作権関係企業の顧客多数。STORIA法律事務所(ストーリア法律事務所)所属。ブログ更新中。
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