人工知能が作った創作物、現行の法律ではどうなる?:STORIA法律事務所ブログ(2/2 ページ)
「AIがすごいすごいと言っていると、いつの間にか人間のクリエイター全員が飢え死にしていた、という状況は冗談ではなく生じうるわけです」──AIと著作権に詳しい弁護士の柿沼太一さんが解説する。
- AI創作物に関わる全てのプレーヤーに権利が発生するわけではない
- 全てのAI創作物に権利が発生するのではなく、「登録されたAI創作物」や「流通の結果、周知性や著名性を獲得したAI創作物」に限定して権利が発生する可能性が高い
一口でAI創作物と言っても、問題領域は1つではない
まず「AI創作物と知的財産権」と言っても、複数の問題領域を含んでいます。コンテンツ分野(音楽、小説など)に限っても、以下のような問題があります。
(1)AIが創作した音楽、小説のようなコンテンツについては、誰がどのような権利を持つのか
(2)AIが創作した創作物が、たまたま人間の創作物に類似してしまった場合、人間の創作者はAI創作物の提供者に著作権侵害を主張することができるのか。
(3)AIに既存の小説やマンガなどを全部入力して、そのビッグデータを解析して将来流行するものを予測して作品を生成させた場合において、元の著作物の創作的表現が残ってしまった場合には著作権侵害になるのではないか。
(4)AI創作物と人間の創作物は今後市場で競合する関係になるが、仮にAI創作物の方が人間の創作物より保護が薄いということになると、AI創作物の利用の方が進む可能性がある。それにより相対的に人間の創作物が埋没していくのではないか。
いずれも非常に難しい問題です。(2)は、自動運転の自動車が交通事故を起こした場合に誰が責任を負うか、という議論とパラレルですね。特に(4)については、よく考えなければならない問題です。AIがすごいすごいと言っていると、いつの間にか人間のクリエイター全員が飢え死にしていた、という状況は冗談ではなく生じうるわけです。
今日の記事では、特に関心がある人が多い(1)「AIが創作した音楽、小説のようなコンテンツについては、誰がどのような権利を持つのか」について掘り下げて検討をします。
何も法律をいじらなかったらAI創作物に権利は発生しない
ここで、仮に現行の法律を全くいじらなかった場合、AI創作物に関する権利はどうなるか考えてみましょう。報告書では3つに整理されています。
一番上が人間による創作の場合で、当然創作した人に著作権が発生します。2つ目が、人間が人工知能を道具(ツール)として利用して創作した場合です。例えば、前回の体を張った記事は、これに該当すると思います。この場合も、人間が創作的な寄与をしているので、当該寄与をした人間に著作権が発生します。
そして最後が、人間は創作指示をするだけの「AIによる創作」の場合です。この3つ目のパターンは、上図では「権利は発生しない?」と控えめに記載されていますが、現行法を前提とする限り、このパターンの創作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項)」ではないため、著作物に該当せず、著作権も発生しません。
冒頭で紹介した「人工知能が描いたレンブラントの『新作』」は、おそらくこのパターン3に該当します。現行法をまったくいじらなかった場合、この新作は法的な保護がされない、つまり、このパターンのAI創作物は誰でも利用できる(いわゆるパブリックドメイン)ということです。問題はそれでいいのか。
このパターンのAI創作物がパブリックドメインということになると、誰でも無料で使いたい放題ですから、AI創作物を使ったビジネス(例えば、AIが創作した音楽をストリーミングで聴けるとか、AIが創作した小説を電子書籍で読めるなど)は成り立たないことになります。
パブリックドメインに属するAI創作物は、お金を支払わずに合法的に誰でも楽しめるのに、なんでお金を支払う必要があるのか、ということになるからです。おそらくAI創作物を無料で楽しめるサイトが乱立することになるでしょう。しかもそのサイトは完全に合法です。
AI創作物について、誰にどのような権利を与えるのか?
そうなると、AI創作物を創作して世の中に提供しようという事業者が出てくるかどうか、疑問になりますね。提供してもパクられることが分かっているのであればビジネスは止めておこう、というのが自然な発想だからです。このように考えるとAI創作物に関しても、誰かに何かの権利を与えないとまずいようにも思います。
ただ、ここは抽象的に「AI創作物を法的に保護する必要があるかどうか」を議論していても前に進みません。「AI創作物を法的に保護する」ということは、「誰かにAI創作物に関する何らかの独占権を与える」ということです。
そして、なぜ独占権を与えるかというと、「独占権を与えることで、投資を促進するインセンティブを与えるため」だといわれています。
この「インセンティブ論」を手掛かりにすると、抽象的に「AI創作物を法的に保護する必要があるかどうか」ということではなく、AI創作物を利用したビジネスモデルとしてどのようなものがあって、そのビジネスモデルにおいて誰に、どのような権利を与えることが、もっともプレーヤーのインセンティブを増し、それによって豊かなコンテンツが世の中に流通することになるのか、という視点でこの問題を考えなければならないことになります。
長くなったので、取りあえず次回に続きます。次回の記事では、AI創作物を使ったビジネスモデルを基に具体的に検討します。
著者プロフィール
弁護士・柿沼太一
1973年生まれ。00年に弁護士資格取得後、著作権に関する事件を数多く取り扱って知識や経験を蓄積し、中小企業診断士の資格取得やコンサル経験を通じて企業経営に関するノウハウを身につける。13年に、あるベンチャーから案件依頼を受けたのをきっかけとしてベンチャー支援に積極的に取り組むようになり、現在ベンチャーや一般企業、著作権関係企業の顧客多数。STORIA法律事務所(ストーリア法律事務所)所属。ブログ更新中。
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