中国で普及する信用スコアは、なぜ日本で定着しない? 「Yahoo!スコア」終了に思うこと(2/3 ページ)
ヤフーの信用スコアサービス「Yahoo!スコア」が8月末に終了する。多くのユーザー基盤を持つヤフーが手掛けたにもかかわらず、このサービスは日本に定着しなかった。一方、中国では、数年前から「芝麻信用」が普及している。なぜ日本と中国で、こうした差が生まれるのか。中国に精通する筆者が、その要因を考察する。
中国では「デポジット」が当たり前
中国では、信用スコアが高いと、シェアサイクルやレンタカーのデポジットや、アパートの敷金が無料になる場合がある。
出張や旅行で中国に行き、自力でホテルの宿泊手続きをした経験がある人なら、その際にデポジットを数百元ほど払ったことがあるだろう。チェックアウト時に返金されるが、備品を壊してしまうなどのアクシデントがあると、そこからお金が差し引かれる。賃貸住宅の敷金のようなものだ。
中国ではホテルだけでなく、図書館や、物品のレンタルサービスでもデポジットが必要だ。近年台頭したシェアサイクルやカーシェア、モバイルバッテリーや傘のシェアにおいても同様。病院での車椅子の貸し出し、ショッピングモールでのベビーカーのレンタルといった、日本では無料のサービスまでがビジネスになり、デポジットが求められる(これらも返却時にお金は返ってくる)。
中国企業がデポジットを取る理由は、そもそもそういった商習慣があることや、ユーザーがレンタル品を返さなかったり、私物化したりすることがよくあるためだ。
このように、中国ではデポジットがもともと定着していた。その支払いをなくすメリットがあるので、信用スコアも定着したといえる。中国ではシェアサイクルやモバイルバッテリーのシェアが爆発的に普及したが、これも信用スコアの拡大に拍車を掛けた。
日本では中国式のデポジットは合わない?
日本ではどうか。筆者が体験した限りでは、ホテルでデポジットを取られたことはない。シェアサイクル、モバイルバッテリーや傘のシェア、その他のレンタルサービスでもデポジット料金は取られない。システムが対応していないのか、ユーザーの良心を前提に運営しているかのいずれかだろう。
そのため、日本のシェアリングサービスには、デポジットと関連する中国式の信用スコアは不要だ。身近なサービスとの連携や金銭的なメリットがないため、日本の消費者は「信用スコアサービスを使おう」とはならないわけだ。
Yahoo!スコアは可能性を秘めていた
それでは、Yahoo!スコアが中国の信用スコアと比べて意味がなかったのかというと、そうでもない。2019年6月にYahoo!スコアが発表された際のプレスリリースによれば、ヤフーは18年10月からスコアを活用し、「パートナー企業のサービスの利便性向上や課題解決、ユーザーに対する特典プログラムの実施」などの実証実験を行ったという。
具体的な実験内容は、(1)クラウドソーシングを手掛けるランサーズと組み、優良と推定されるフリーランスと仕事発注者の案件をマッチングする、(2)同じくクラウドワークスと組み、仕事を積極的に受注してくれそうな優良ユーザーに優先的に仕事をオファーする、(3)シェアサイクル「HELLO CYCLING」を運営するOpenStreetと組み、優良と推定されるユーザーに特別料金プランを提供する――といったものだ。
スコアが高い人を優遇するだけでなく、レストラン予約サービスのTableCheckと組んだ実験では、予約を忘れそうなユーザーを抽出し、リマインド連絡を増やす事で直前キャンセルを防止したという。ヤフーは当時、これらの取り組みを通じて、スコアの有効性を確認できたとしていた。
中国の事例ばかり見ている筆者からすれば、このスコアの活用は斬新だった。ヤフーのサービス内でのユーザーの傾向やスキルを把握し、パートナー企業に活用してもらうのは、意欲的な試みだと感じた。
Yahoo!スコアでは職業情報を分析対象にしないので、与信としてみるなら、クレジットカードほどの信用度はないかもしれない。だが、金融的な与信ができない代わりに、中国とは異なる日本式信用スコアを作れる可能性を秘めていた。
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