もはや“AIカメラマン” 遠隔から自動撮影に目的が変わってきた「PTZカメラ」の今:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(3/3 ページ)
パン・チルト・ズームの3機構を備えたカメラを、俗に「PTZカメラ」という。監視用途などの業務向けとして長らく使われてきたが、昨今は発展目覚ましいAI技術と組み合わせることで、もはや人が操作しない、自動撮影カメラという方向へ進化してきている。ここではInter BEE 2024で見る事ができた、PTZカメラの進化についてまとめてみたい。
人間とAIがコラボするキヤノン「マルチカメラオーケストレーション」
キヤノンは放送向けには、放送用レンズでおなじみだが、あまりスタジオワークに関係するソリューションは聞いたことがなかった。だが24年はPTZカメラを使ったスタジオ撮影の効率化ソリューション「マルチカメラオーケストレーション」を展示し、多くの来場者を驚かせた。
例えばスタジオで3人の出演者を3カメ撮影するならば、当然各カメラには1人ずつカメラマンが、さらにはカメラアシスタントもそれぞれ付くことになる。こうしたカメラも、メイン以外は徐々にPTZカメラに置き換わって省人化していくところではあるが、それぞれを人が操作する事には変わりない。
一方「マルチカメラオーケストレーション」では、メインカメラは人が操作するとして、他のPTZカメラをAIが操作する。これは単にオートフレーミングに任せるという事ではない。
例えばABC 3人の演者がいたとして、メインカメラが人物Aを捉えていたとすると、他のPTZカメラは自動的にBとCを追う。メインカメラがBを捉えたら、それまでBを捉えていたPTZカメラは代わってAを追う、といったことができる。
この動作は、複数のパターンを仕込んで瞬時に切り替えることができる。例えばメインカメラがBを捉えたら、Bを捉えていたカメラは引き絵を撮るといった、一見すると人間がサブからの指示で動いているかのような、複雑な動きが可能になる。
スタジオ情報番組などでは、キャスターやアシスタント、コメンテーターなどの配置は事前に決まっており、カメラワーク一見自由なように見えて、実は一定のルールに基づいて動いている。これまではカメラマンとサブがインカムでやりとりしながら行っていたカメラワークが、1人のカメラマンだけで完結できる。
カメラマンをはじめ、技術者が不足する地方局では、いますぐほしいソリューションだろう。現在鋭意開発で、まだ価格も決まっていないが、おそらく25年以降の登場になるだろう。
PTZカメラとAIを使った無人オペレーションが求められる背景には、地方局の技術者不足がある。ニュースの生放送は、いっせーの、でやるために多くの人手が必要で、その時間だけ全員集合しなければ番組が出せない。そのぶん他の番組制作が押すので、残業してカバーしなければならなかった。
だがこうした自動化が進めば、生放送の時間帯でも他のカメラマンはロケに出たり、別スタジオで収録したりといった、並行作業が可能になる。スタジオワークの自動化は、キー局よりも地方局のほうが先行していくかもしれない。
【訂正:2025年12月4日午後8時20分】タイトルの一部を修正しました。
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