進む電子書籍化、「忘れられていた」バリアフリーの取り組み:EPUBと協調展開する「DAISY」
マイクロソフトは電子書籍フォーマット「DAISY」に変換できるWordアドインソフトを開発し、無償提供。バリアフリー化の主要団体とも連携して電子書籍のバリアフリー化とスタンダード化を推進する。
EPUBと互換、EPUBにアクセシビリティ機能を強化したフォーマット「DAISY」
「電子書籍の普及、だからこそ、今バリアフリー化を」──。DAISYコンソーシアムと日本障害者リハビリテーション協会、マイクロソフトは4月6日、電子書籍のバリアフリー化への取り組みで協力していくと発表。電子書籍の国際標準規格“DAISY”形式の文書を作成できるWord用アドインソフトの日本語版「DAISY Translator」の提供を同日に開始した。
2010年はアップルの「iPad」、Amazonの「Kindle」といった電子書籍リーダー機能を持つ端末や、各種電子書籍向けサービスの台頭により、国内外で電子書籍・電子出版に関する動きが活発になっている。
「だからこそ、バリアフリーが重要。“紙媒体ではできなかった”ことが、電子書籍でできるようになるためだ。電子書籍市場は活況を呈してきているが、バリアフリー化の取り組みはいままで忘れられがちな問題だった」(DAISYコンソーシアム 河村宏会長)
“DAISY”(Digital Accessible Information System)は、アクセシビリティ(障がいを持つ人も含め、誰もが支障なく利用できること、使いやすいこと)を大きな特徴とするDAYSYコンソーシアムが策定した国際的な電子書籍フォーマットだ。テキストの音声読み上げや読み上げ部分のハイライト表示、文字の拡大/色の反転操作──といった機能・仕様も標準で盛り込まれ、欧米各国においては、すでに障がい者向け電子教科書や電子書籍の標準フォーマットとして採用されている。
なお、メタ言語 XMLをベースとするフォーマットであるため、iPadなどが採用する電子ブック向けフォーマット“EPUB”とも互換性がある。「EPUBに、読み上げやハイライト表示などのマルチメディアや数式を含めたアクセシビリティのサブセットを強化・包括したもの──がDAISYフォーマット」(河村会長)とし、EPUBを策定するIDPF(International Digital Publishing Forum)とDAISYを策定するDAISYコンソーシアムは、互いに協力体制をとっている。
次バージョンのEPUBバージョン3およびDAISYバージョン4(2010年夏頃を目安にリリース予定)においても、アクセシビリティ機能の拡充と各国語対応(日本語においてはJEPA:日本電子出版協会が要求仕様案を策定した、縦書き/横書きや禁則処理、ルビ類)のための改訂作業を統合し、互いに親和性のある電子書籍フォーマットを策定する方向で取り組みが進んでいる。「DAISYバージョン4は動画などもサポートするが、多様なのでいくつかのサブセットに分ける計画。電子書籍用サブセットについてはEPUBバージョン3と一致させたいと思う」(河村会長)
「DAISY文書の作成・変換」用Wordアドインソフトを無償提供──「簡易電子書籍データ作成ソフト」への画策も
国際的な標準化を目指すDAISYフォーマットだが、作成においてはXML記述のためのやや高度で専門的な知識を要するため、今までは専門の編集ソフトウェアなどを使用する必要があった。
マイクロソフトは、Open XMLを採用した2007 Office systemを土台に、Wordで作成した文書をDAISY文書へワンタッチ変換するWord用無償アドインソフト「DAISY Translator V2(日本語版)」をDAISYコンソーシアムと共同で開発。専門知識を必要とせず、短時間でDAISY文書を作成できるようにする取り組みで、DAISYフォーマットの普及促進や電子書籍データの作成・配布者層をサポートする。DAISY Translatorは、日本障害者リハビリテーション協会のWebサイトで無償配布する。
DAISY Translator V2が対応するバージョンは、Word 2007/2003/XP。2010年夏(企業向けは5月12日)のリリースを控えるWord 2010には現時点では非対応となるようだ。「(Word 2010を含む)Office 2010のリリース後、なるべく早く対応させる予定」(マイクロソフト 業務執行役員の加治佐俊一CTO)。
DAISY Translatorで作成したDAISY文書は専用ビュワー「AMIS 3.1日本語版」などで再生するしくみで、DAISY文書の音声読み上げデータはクリエートシステム開発「ドキュメントトーカ」による日本語音声合成エンジンを用いて作成される。この環境下で作成されたDAISY文書は、日本語合成エンジンをインストールしていないPC・クライアント機器でもAMISで読み上げ再生できるという。なお、日本語音声合成エンジンはWindows 7日本語版に標準では含まれず、マイクロソフトは障がいを持つ人とその関係者・指導者などを対象に無償提供を行っている。
マイクロソフトの加治佐俊一CTOは「Wordを使って作成(変換)できるので、専門知識を持つ層やビジネス層だけでなく、エンドユーザー、例えば教材や資料を配付する教師や指導者の方も容易に扱えるようになる」のがやはり大きなメリットとアピールする。教育市場や施設を含めたOffice普及の促進(や維持)とともに、かつての“ホームページ作成ソフト”などのように、電子書籍の普及期において“容易に電子書籍を作成できるツール”として広く利用されることも期待していると考えられる。
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関連リンク
- ニュースリリース(マイクロソフト)
- DAISY Translator V2のダウンロード
- DAISYコンソーシアム
- 日本障害者リハビリテーション協会
- マイクロソフト
- マイクロソフト アクセシビリティホーム
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