“当て馬”マウスと“本命”マウス:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
量販店の陳列棚に膨大な数のマウスが並ぶ。よく見れば同じメーカーがほぼ同じ仕様の“競合”モデルを投入していたりする。なんでこんな無駄なことをするの?
特価対応モデルで通常価格を死守する
こうした「同等仕様で複数のモデルを展開する」ことで、別の効果をもたらすこともある。その1つに、量販店から値引き対象の「特価商材」を求められた場合の対応が容易になることが挙げられる。
販売店から特価商材を求められたとき、通常から在庫されている製品を対象として値引きすると、特価期間が終了しても、通常価格に戻すことが難しくなる。購入者も、特価期間に安く買えることが分かってしまうと、通常価格で買わなくなってしまう。このように、通常在庫品を特価対象にすると、トータルで売上が低下するという悪循環に陥ることになる。
このようなとき、同等仕様で異なる2つのモデルがあれば、一方の製品を特価商材とすることで、「本命」の通常在庫製品の価値を守ることができる。この場合、どちらが「当て馬」でどちらが「本命」に選ばれるかはケースバイケースだが、中国などの委託工場が用意したボディをそのまま使った“オリジナリティの低い”モデルが「当て馬」となり、日本国内でデザインされた“オリジナルボディを採用した”モデルが「本命」となることが多い。デザイン性の高いモデルは高価でも売れるので、特価商材として値引きする必要はない。デザイン的な特徴に乏しいモデルが値引きの対象になる。
また、同等仕様で複数のモデルを用意しておくと、不良品がロット単位で発生した場合に、代替品として提供しやすいメリットもある。特に法人向けでは、独創的なデザインのマウスよりも、“当て馬”として中国に生産させた無難なデザインが好まれる傾向がある。こうした当て馬マウスを大量に納入したとき、ロット単位で不良品が発生した場合、見た目的にグレードが上の「本命」マウスを代替品として供出することで、販売代理店や法人ユーザーを納得させやすい。
早い話がボディが異なるだけで中身は同じ
ともあれ、今回紹介したいずれの場合においても、PC周辺機器メーカーに多いファブレスであることが要因としては非常に大きい。自社工場であれば生産能力そのものを拡張できるが、委託先の工場であればそうもいかないため、ラインアップの数でカバーすることになってしまう。購入する側も、仕様上はわずかな違いであっても、多くのバリエーションを比較検討できると購入したときの満足度は高くなる。これは、量販店のメリットでもある。
もっとも、「同等仕様で複数のモデル」の場合、「本命」と「当て馬」の製品にしても、ボディだけを異なる工場で作っているだけで、動作や性能に影響する内部はまったく同一という例も多い。「デザインもいいし価格も高いから、これはいいマウス」と思ったら、隣の値引きマウスと同等品だったりするのだ。
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