バングラデシュ期待のPCは「Dell」じゃなくて「Doel」:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)
インドと東南アジアが交わるバングラデシュ。主な食事はカレーで道行く人はベンガル語を操る。そして、首都ダッカの人口密度は世界一。うああ! 濃い顔だらけ!
バングラデシュ国産ノートPCはAtom搭載で1万3500円
流通量は少ないが、PCに詳しいバングラデシュ人が期待するPCもある。それがバングラデシュのTSSというメーカーがリリースした「Doel」ブランドのPCだ。「10型液晶ディスプレイ搭載で、CPUが動作クロック800MHzのVIA 8650、容量16GバイトのSSDに512Mバイトのシステムメモリ、Windows CE 6.0、または、Android搭載のノートPC」で1万タカ(1万円)のノートPC(OS的にPCといっていいかどうかは微妙だが)だ。
その上位モデルは、「10.1型液晶ディスプレイ搭載、動作クロック1.66GHzのAtom、容量1Gバイトのシステムメモリ、 要容量250GバイトのHDD内蔵」で1万3500タカ(日本円にして1万3500円)など安価なノートPCを投入している。「田舎の農村にもラップトップを」というコンセプトに基づいて開発しているため、ハイエンドモデルでも「解像度1024×768ドットの14型液晶ディスプレイ搭載、Core i3 2350M、容量500GバイトのHDD、容量4Gバイトのシステムメモリ」の本体に、DoelブランドのUSBマウスと容量8Gバイトのフラッシュメモリ、そして、キャリーバッグが標準付属で4万2300タカ(日本円にして4万2300円)に過ぎない。
Doelは、バングラデシュで初めての国産PCブランドであるだけでなく、Facebookで、製品開発の現場を紹介することで、バングラデシュのPCユーザーの物欲をうまく刺激している。バングラデシュのIT業界関係者は、DoelブランドのPCで国内にもITを普及してほしいと期待している。
バングラデシュのPC市場で、もう1つ特徴的なのは、ロースペックなPCや中古PCが、ある程度のボリュームで売れていることだ。若い世代には、ハイエンドPCを必要とするPCゲームユーザーや、ブランド製品でないとカッコがつかないというユーザーも少なからずいるが、大勢は、個人で利用するPCに求めるスペックは高くない。また、個人の消費活動で中心となっているバングラデシュの定番オンラインショッピングサイト「CellBazzar」では、中古品を扱う個人売買があり、バイクや車とともに、PC、そして、携帯電話(スマートフォンを含む)をよく出品している。
ベンガル語入力ソフトもあるにはあるが
バングラデシュにおける所得水準はまだまだ低い。農村から都市部に出てきた労働者だと、月5000タカ稼げればいいという。都市部住民でも月収1万タカが主流だ。なお、ダッカでは、カレー一杯が100タカ以上する。そんなバングラデシュでも、5万タカする新品の海外メーカー製PCを買うのに、労働者の月収数カ月分が必要となる。そうなると、少しでも安いDoelのPCにIT普及の期待がかかるのも無理のない話だ。
バングラデシュでITの普及を阻害する、金銭面の壁とともに忘れてはならないのが言葉の壁だ。ITを利用するには、その国で使う言語を入力できる必要がある。隣の大国インドでは、国内で多くの言語を使用しているが、この言葉の壁の克服がPCの価格引き下げ以上に労力を必要としていて、インドにおけるIT普及を阻んでいる。
バングラデシュは、基本ベンガル語だけでどうにかなる。バングラデシュではベンガル語入力ソフト「vijoy」がPCユーザーに普及しているほか、PCのキーボードや携帯電話のボタンにもベンガル文字を刻んでいる。ならば、バングラデシュのユーザーがベンガル語入力をフル活用しているかというと、FacebookやCellBazzarなどのSNSにおけるコミュニケーションでは、英語でベンガル語を表記したり、英語で会話したりするなど、IT利用には英語が必須という状況なので、言葉の壁は依然として高いままだ。
モチベーションの壁もバングラデシュにおけるIT普及を阻んでいる。バングラデシュでは、PCを利用する目的がPCゲームではなくFacebookやCellBazzarなど、SNSの用途が主流となっている。しかし、多くのユーザーにとってSNS利用は携帯電話でできてしまう。実際、バングラデシュのユーザーに「次はPCを買うか、スマートフォンを買うか?」と聞けば、全員が「スマートフォン」と答える。PC普及とDoelの前途は多難に満ちている。
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