ソニーから分離で「VAIO」の魂は失われてしまうのか:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
斬新なPCを数多く輩出してきたソニーのVAIO事業が、日本産業パートナーズに譲渡される。なぜ、こうした事態になったのか、そしてVAIOブランドのPCは今後どうなるのか?
ソニーのエレクトロニクス事業改革を前進するために
もっとも、今回の事業切り離しに関しては、別の事情があるように思える。
1月の2014 CESでソニーの平井社長にかなり長いインタビューを行ったが、簡単にまとめると「現在は製品力を高めるための投資フェーズであり、当然その中には失敗例も多い。しかし、成功例も出始めており、必要な投資(リスク)であることを理解してほしい」ということだ。
昨今、ソニー製品の存在感が増しているのは、こうした平井体制後のやり方が浸透し始め、実際の製品に反映され始めたからだ。実際、商品を企画・開発している人たちと頻繁に接している筆者のような立場から見ると、その違いは明らかで、現場でモノづくりをしているエンジニアが、生き生きとしてきている。
とはいえ、リスクを取ったとしても、その成果として利益が生まれ始めるまでには、まだしばらくの時間はかかる。社内の平井氏への求心力はかつてないレベルにまで高まっているが、一方で収支改善を求める圧力は、社長就任3年目を迎える今年、さらに強まるだろう。
こうした中で、よい商品を作りながらも収支改善できなかったVAIO事業を切り離さなければ、これまで進めてきたソニーのエレクトロニクス事業改革を前進させられないという判断だったのではないか。
WindowsタブレットであるVAIO Tap 11にも見られるように、Androidスマートフォン/タブレットのブランドであるXperiaの領域とVAIOの領域がクロスオーバーし始めていただけに、タイミングとしては非常に残念だ。VAIOがあるからこそ、ソニー製品のネットワークを生かせる。そんな場面も、今後きっと出てくると思う。
しかし、そうした期待感だけでは説明しきれないほど、事業規模の縮小や赤字規模の拡大などがあるならば、他のコア事業として指定している分野への継続的な投資を正当化するためにも、VAIOの切り離しという判断をせざるを得ないかもしれない。
ただし、前述したように、“事業の切り離し=ブランドの喪失でないこと”は、Lenovoの例を見ても分かるだろう。ソニーからVAIOが分離されることで、むしろ状況が改善する可能性もあると思う。今後は長野県安曇野に生まれる新会社の体制に注目したい。
関連キーワード
VAIO | ソニー | 事業・資産の譲渡 | 日本産業パートナーズ | 本田雅一のクロスオーバーデジタル | 本田雅一
関連記事
本田雅一のクロスオーバーデジタル:2014年、PCはどう進化するか?
2013年はHaswellにBay Trail-Tという電力効率の高いプロセッサが登場し、WindowsのモバイルPCやタブレットが大きく進化した1年だった。2014年にPCはどこへ向かうのだろうか。本田雅一のクロスオーバーデジタル:“PCを使う理由”が改めて問われる2013年
2013年のPC業界は「Office 2013」や「Haswell」といった大きなトピックが続く。しかし、スマートフォンやタブレットが一般層にも普及する中で、PCはより大きなターニングポイントを迎えようとしている。本田雅一のクロスオーバーデジタル:2012年のPC業界を占う
激動の2111年が終わり、2012年が始まった。今年のPC業界における大きなトピックはIntelの次世代CPU(Ivy Bridge)とWindows 8だが、この2つはPCの何を変えるのだろうか。本田雅一のクロスオーバーデジタル:2013年のタブレットを冷静に振り返る
昨年はタブレットのサイズバリエーションが広がった1年だったが、今年はWindows PCがタブレットにより近づく動きが目立った。タブレット市場のトレントを振り返りつつ、個人的に印象深い製品を挙げていこう。本田雅一のクロスオーバーデジタル:2012年のタブレットを冷静に振り返る
iPad mini、Nexus 7、Surface、Kindle Fire HD……。刺激的な製品が多数投入された2012年のタブレット市場だが、業界全体のメガトレンドとしてはゆったりしたものだった。本田雅一のクロスオーバーデジタル:2011年のタブレット端末を冷静に振り返る
さまざまなタブレット端末が登場した2011年。相変わらずの強さを見せたiPad 2、国内勢も本腰を入れ始めたAndroidタブレット、そしてHPのwebOS端末撤退と、ニュースは多かったが、期待通りに盛り上がったかと問われると疑問符が付く。本田雅一のクロスオーバーデジタル:2013年冬のノートPCとタブレットはどう選ぶ?――実際に買った新製品はコレ
ボーナスシーズンに向けて、各社が続々とノートPCやタブレットの新モデルを発売し、注目製品が出そろってきた。この中から、どのように製品を選ぶべきだろうか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.