カメラの進化が楽しさと使い勝手を跳躍させる――iPhone 11/11 Proレビュー:林信行が新iPhoneに潜む魅力のタネをチェック(4/4 ページ)
9月20日にAppleから発売される新型iPhoneを、林信行氏が徹底レビュー。すぐ分かる魅力、じっくりと使い込むと分かる魅力などを細かくチェックした。
11で十分。でも、欲しい人は11 Proが欲しくなる
ここで面白いのは普及型のiPhone 11も、上位モデルのiPhone 11 Proも、搭載しているプロセッサの種類も性能も全く一緒であることだ。これは、ここ数年のiPhoneでそうなっているが、Appleは製品グレードをプロセッサ性能で差別化することを真っ先にやめたコンピューター機器メーカーかもしれない。
それではiPhone 11と11 Proシリーズの差別化要因は何かというと、まず1つは望遠レンズの有無、そして11 Proが搭載するはるかに明るく(800ニト/写真によっては1200ニト)発色が良いSuper Retina XDRディスプレイを搭載していること、バッテリーの持ちが長いこと、大容量の512GBモデルが用意されていることなどとなっており、ほとんどの人はiPhone 11でも十分に満足できる価値をしっかりと提供している。
ただ、筆者もその1人だが、それでいて大きな価格差を払ってiPhone 11 Proシリーズを買おうと思わせる差別化は、なかなかうまいと言わざるを得ない。
11にするべきか、それとも11 Proにするべきか? ほとんどの人にはiPhone 11をお勧めしたい。iPhone 11 Proを買う人は、筆者がわざわざ背中を押さないでも自らそれを自覚しているはずだ。
前人未到の工業デザイン
最後に、買ってすぐに実感できるiPhone 11/11 Proのもう1つの良さに触れてレビューをシメたい。
iPhone 11、そしてiPhone 11 Proシリーズを購入してすぐに実感できる、もう1つの素晴らしい価値。改めて言うまでもないかもしれないが、それは製品の工業デザインだ。
エレクトロニクス製品と言えば、環境には悪いけれど加工がしやすく大量生産がしやすいプラスチック製のものがほとんどだ(とはいえ、さすがにここまでプラスチックが環境に与える影響が問題視されてくると、今後、ますます作りづらくなると思うが……)。
これに対してiPhoneは、2007年に登場した最初のiPhoneから、大量生産品でありながら、上質さと品を感じさせる素材選びと、まるで工芸品のような美しく繊細なつくりを施していることが特徴となっていた。
今回のiPhone 11/11 Proでもその伝統は変わらず、世界のもの作りに関わる人々を「これは一体どうやって作ったんだ」と迷わせるような前人未到のものづくりにチャレンジしている。
ここ数年、レンズの形はiPhoneのモデルを区別するための象徴となっていた。
しかし、iPhone 11と11 Proでは、それに加えて本体背面左上のレンズが並ぶエリア全体を角丸の正方形のプレートとして隆起させたことで、iPhone 11世代製品全体としての、見た目のまとまり感もうまく醸し出した。プレートの上に載っているレンズが2つでも3つでも、それはiPhone 11世代のiPhoneなのだ。この製品ブランディングのカタチが決まったのを受けてか、製品背面からは2007年の登場以来初めて「iPhone」という製品名の刻印が消えた。
ところで、先ほど正方形の「プレート」と書いたが、実はこの部分はプレートではない。もの作りに関わっている人であれば、おそらくこれが最大の驚きだろう。
実はiPhoneの背面全体と、この隆起してプレートに見える部分は仕上げの質感が違うにも関わらず1枚の同じガラスなのだ(だから継ぎ目がなく、これがiPhone 11世代の防水性や耐じん性にも貢献している)。
ガラスはAppleがコーニングと共同開発した、スマホ史上最強の硬度を持つもので、以前の記事で書いた通り少なくとも1セント硬貨(0.01ドルのコイン)よりも硬い。
この1枚ガラスの背面がiPhone 11では光沢仕上げ、11 Proシリーズではマット仕上げ(梨地仕上げ)になっているが、実は隆起した部分は逆で11がマット仕上げで11 Proが光沢仕上げになっている。
こんな高度な加工は、これまでどんな製品でも見たことがないし、こうしたディテールを尋常ではない熱量で仕上げるもの作りは、今や地球上でAppleか、高価な工芸品、ハイブランドのコレクターズアイテムくらいしかしていないはずだ。それを大量生産品で形にして、誰でも手が届く価格で提供してしまうあたりに、Appleという会社の妥協しない向上心を感じる。
iPhoneの顔がディスプレイ側から背面に変わった
iPhoneの箱を開封した経験がある人なら、誰もがパッケージを開けると、iPhoneの画面がこちらを向いて待っているのをご存知だろう。しかし、iPhone 11/11 Proからは、これが変わった。
AppleはiPhoneシリーズの新しい顔であるカメラプレートを強調するように製品パッケージにiPhoneの背面を上にして収納する方針に切り替えたのだ。そしてパッケージまで精密に作られていることを示すように、なんと上ぶたの内側にはカメラプレートやレンズに合わせた凹みが用意されている。
Appleが何の文字も並ばない、この美しい背面を作り出すために、各国の政府と渡り合っては、製品背面の表示を無くす交渉を繰り返し、金属のような触り心地を持つ独自のガラスをコーニングと共同開発し、それをどうやったのか想像もつかないような仕上げでカタチにしている辺り、Appleはまさにものづくりの未来を開拓している会社なのだと実感させてくれる。
モデル:REATMO(リトモ)
口でさまざまな楽器音を奏でる「ヒューマン・ビートボックス」奏者(=ヒューマン・ビートボクサー)。iPadなどの電子機材によってビートボックスや声を次々重ねていくことで楽曲を構築・演奏していく独自の奏法を持つ。19歳でアメリカのビートボックス大会で優勝。パリファッションウィーク(パリコレ)でのパフォーマンス、SXSW出演を含むアメリカツアーを行うなど、国内外で活躍。米ロックバンドMaroon 5にも絶賛され親交がある。今回は、ファッションデザイナー廣川玉枝氏がZoffのために作ったアイウェアを身につけてモデル登場。
撮影協力:渋谷 GEN GEN AN by EN TEA
渋谷東急ハンズの目の前、GEN GEN ANはこの時代の茶葉の楽しみ方「TEA TIME」を考え、少しだけ未来の姿で伝えていくためのプロジェクト。チームラボの展示などでお茶を提供しているEN TEA主宰で茶人の丸若裕俊氏のプロデュースしたお茶が飲める店。
文と写真:林信行
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