M1搭載「iPad Pro」の本領発揮はまだ先か 新旧モデルを使い比べて分かった現状の実力と秘めた可能性:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/4 ページ)
Apple M1搭載の「iPad Pro」を試用した。イラストレーターとともに12.9型モデルの実機を使ってみたところ、現時点でも従来機に比べて体感できる差があったが、その性能を生かしきるにはもう少し時間がかかりそうだ。AppleはiPad Proの未来をどの方向にかじ取りしていくのだろうか。
期待通りだったLiquid Retina XDRディスプレイ
個人的な興味でいえば、最も期待していたのは12.9型モデルのみに与えられたLiquid Retina XDRディスプレイだ。このディスプレイを採用したことで、前述の通り41gとほんの少しだけ重くなり、0.5mm厚みが増え、価格が100ドル上がっている。
スペックの面でいえば、フルスクリーンの輝度が1000nitsで、ピーク時(一部分だけが明るい場合)に最大1600nitsまでブーストされるローカルディミング(バックライトの分割輝度制御)、Display P3に対応した調整済みのディスプレイは、プロ仕様の外付けディスプレイであるPro Display XDRに匹敵するものだ。
ローカルディミングの分割数でいえば、むしろ32型と大きなPro Display XDRが576個のLEDを用いて576分割の制御を行っているのに対し、12.9型iPad ProのLiquid Retina XDRディスプレイは1万個を超えるLEDを用いて2596分割の制御を行っているため、単純な分割数は多いことになる。
ローカルディミングを用いると、液晶ディスプレイが本質的に不得手としている暗部の階調性や色再現の正確性が高まり、黒も引き締まった映像となる。一方で部分ごとに明るさが変わるため、設計や制御のよしあしで品質が大きく変化する。
つまり、光源にミニLEDを採用しているから高画質になる、というわけではなく、そこに優れた制御や光学設計が伴って、初めて高画質なディスプレイとなるわけだ。分割数が多いからといって画質が高くなるわけではない。
Appleは既にPro Display XDRの実績があるため、ローカルディミングの制御に関してはさほど心配していなかったが、バックライト部の設計にはかなりの難しさがあったのではないだろうか。
旧モデルに比べてボディーは0.5mm厚くなったが、むしろその程度の厚みの増加だけで自然な多分割のバックライト制御が行えるのならば驚きというほかない。
結論からいえば、Dolby Visionに対応した映画などの動画作品はもちろんだが、HDRフォトの編集やHDRを用いたディスプレイ向けのグラフィックスデザインなど静止画でも違和感のないローカルディミングになっている。
また、映像作品を制作する現場では、ロケ先などでHDR撮影の映像ルックを確認したり、ラッシュの段階でシーン全体の風合いを調整したりといったことが容易になるだろう。
Liquid Retina XDRディスプレイの質は、ローカルディミングを採用した液晶ディスプレイの中でもかなりよい方だ。もともとのコントラストが低いIPS液晶でこのレベルならば十分に満足できる。女性の顔や首筋、別シーンの炎の周囲にハロ(高輝度部に引っ張られて暗部に雲のように明るい部分が出ること)が映り込んでいるが、カメラのゲインを上げているためで、実際にはほとんど目立たない。低輝度部分のホワイトバランスの安定も大幅によくなっていた
一方で(物理的なメディアは再生できないが)、HDRに対応した映像配信サービスを用いれば映像作品を楽しむためのディスプレイとしても最高クラスだ。画面サイズこそ小さいが、仕事でハイエンドテレビなどを評価する際に見比べるソニーの4KマスターモニターであるBVM-X300との記憶と照合しても、近い体験が得られている。
もう少し大きければ、近接でHDR映像を楽しむためのデバイスとして個人的にも使いたいと思うぐらいだ。映像作品の画質評価を行う際にも、高い信頼性を持つディスプレイとして利用できると思う。
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