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「iPhone 13」「13 Pro」を試して分かったこだわりの違い コンピュテーショナルフォトグラフィーはここまで進化した本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/6 ページ)

これまでiPhoneのファーストインプレッションでは、SoCとその使い方といった視点でコラムを書くことも多かったが、今回の「iPhone 13」世代ばかりはカメラにかなりフォーカスした記事にせざるを得ない。評価用端末を使い始めてすぐにそう感じた。

 「iPhone 13」シリーズの評価用端末を使い始め、その実力が徐々に明らかになってきた。iPhone 13世代ではカメラモジュールがそれぞれ一新されると同時に、カメラ画質を高める、あるいは楽しむための新しい要素をソフトウェアとSoC(System on a Chip)の組み合わせで実現している。


iPhone 13世代のラインアップ。左から13 Pro Max、13 Pro、13、13 miniだ。13 Proシリーズのカラーは「シルバー」、13シリーズのカラーは「(PRODUCT)RED」。ボディーのサイズと背面にあるカメラの数が異なる

 それ以外にもバッテリー容量増加、Proモデルのディスプレイ性能向上などのトピックもあるが、「何が進化したのか?」と問われれば、シンプルには「カメラ」という答えになる。iPhone 13世代ではカメラを改善するため、演算能力で写真の表現力を高める「コンピュテーショナルフォトグラフィー」というアプローチを深化させているからだ。

 もちろん、そのために用意されたSoCの膨大な演算能力は、一部を除いて他のアプリケーションでもニューラルネットワーク処理や機械学習のアクセラレーションという形で活用できる。しかし使いこなしのレベルで他社のアプリがApple本家に追い付くには、それなりに時間もかかる。

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 ということで、リリース直後の現時点で違いは何かといえば、カメラという答えになるのだが、短時間ではあるもののテストを行っていると、予想以上にSoCレベルからカメラに特化した開発を行っていること、そして、まだまだこの先はありそうだという感触を覚えた。

CPUコア以外の性能改善にフォーカスした「A15 Bionic」

 iPhone 13と13 Proに採用されたSoCの「A15 Bionic」は、CPUも改良しているとのこと。確かにマルチプロセッサ処理時のオーバーヘッドが減っているようでトータルパフォーマンスは向上しているが、ビッグコアのスループットはクロックあたりでほとんど変わらないようだ。


iPhone 13世代のSoCである「A15 Bionic」。2つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した6コアCPU、新しい5コアのGPU(13、13 miniは4コアGPU)、新しい16コアNeural Engineを備えている(Apple発表会の配信動画より)

 定番ベンチマークテストのGeekbench 5を実行したところ、シングルコアのスコアは1500台半ばから1700台半ばに上昇しているものの、これは主にコアのクロック周波数が向上(3GHzから3.25GHz)したためと考えられる。TSMCの製造プロセスがアップデートしたことで消費電力が下がった分、ピーク時のクロック周波数を上げることができたのだろう。


Geekbenchのスコア

 しかしトランジスタ数としては、より多くを割り当てた形跡はない。基本的に同じコンセプトのコアを最適化してマルチで配置したという印象だが、今回はGPUや機械学習処理の回路により多くを割り当てたようだ。また、ISP(Image Signal Processor)の処理も向上し、トーンマッピングやノイズ処理が改善しているというが、これらはベンチマークテストで計測の手だてがない。

 Neural Engine(およびMLアクセラレータ)はGeekbench MLでCore MLの処理速度を比較してみた。するとTensorFlow Lite Core MLのスコアはA15 Bionicの2750程度に対してA14 Bionicは2440程度で、これを推論エンジンのコードを動かした速度差として捉えると、コアそのものに手を入れた上でクロックも上げている可能性がありそうだ。コア数そのものは16コアで変化はしていない。


Geekbench MLのTensorFlow Lite Core MLスコア

 GPUは「ライバルよりも50%高速」という表現を使い、あえてApple製品同士の違いは訴求していないが、iPhone 13 ProはGeekbench 5のMETALを通じた演算能力評価では14170程度を出した。A14 Bionicを搭載するiPhone 12 Proは9540程度という結果で、前世代のGPUからおおよそ1.5倍という大幅な性能向上を果たしていることになる。


Geekbench METALのスコア(iPhone 13 Pro)

 ProではないiPhone 13と13 miniのA15 Bionicでは、5つあるGPUのうち4つしか動作しないことが明らかになっているが、METALのスループットは10760程度とコア数の違いよりも大きな差があった。恐らくGPUコアのクロック周波数が異なるためだと思われるが、それが省電力のためなのか、何らかの設計上の制約なのかは分からない。とはいえ、それでも昨年のiPhone 12世代よりも上回っていることに違いはない。


Geekbench METALのスコア(iPhone 13)

 もちろん、これらはベンチマークテストの数字であってユーザー体験に直結しているわけではないが、Appleはそれをカメラアプリという形で表現している。

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