「Microsoft Defender for Individuals」でMicrosoftが狙う市場:Windowsフロントライン(1/2 ページ)
Microsoftがセキュリティ関連のソリューションを相次いで発表している。それらの意図は何か。同社の考えるセキュリティ戦略を読み解いていく。
今回から3回にわたってMicrosoftのセキュリティ戦略をカバーしたい。1回目は表題にもある「Microsoft Defender for Individuals」だ。同製品は6月16日に発表され、パーソナルユーザーをターゲットとしている。
「あれ? Microsoft Defenderって確かデフォルトでWindows(10以降)に搭載されていて、必要なければ無効化するだけじゃないの?」と反応した方は、Windowsのセキュリティ事情をよくご存じだ。
以前、「『他のセキュリティ対策ソフトはもういらない』とアピールするWindows Defenderの現状」のあおり風タイトルでMicrosoft Defenderと同社を含むPC向けセキュリティ対策ソフトウェアの最新事情を紹介したのが2018年4月であり、それから既に4年以上が経過して、特に個人ユーザーの間でMicrosoft Defenderは広く認知されていると思う。
Windows 10/11には標準で搭載されている機能なので、同OSに切り替えて以降、もうサードパーティー製のマルウェア対策ソフトウェアを導入していないというユーザーはそれなりにいるはずだ。
そんなMicrosoft Defenderなのだが、なぜこのタイミングでMicrosoft Defender for Individualsなる製品を出したのだろうか。この戦略の鍵を握るキーワードが、以前にも触れた「MetaOS」だ。
MetaOS戦略の一環で提供されるソリューション
モバイル向けOSの戦略でMicrosoftが失敗して以降、PCを除くプラットフォームの世界でMicrosoftが直接戦略に関わる機会を逸してしまった。結果として、モバイルOS回りの連携機能はAppleやGoogleに握られる形となり、Microsoftは両プラットフォーム向けにアプリやサービスを提供する1ベンダーという立場となった。
一方で、同社は生産性ソフトウェアの世界では圧倒的シェアを持つ「Microsoft Office」という製品を抱えており、これをクラウド化する形でプラットフォームを選ばずにどこからでも利用できる「Office 365」、後の「Microsoft 365」を実現することになる。
同社はMicrosoft 365を多くのユーザーに提供すると同時に、周辺サービスのアクセス窓口としてモバイルやPCなどプラットフォームを問わずにアプリを提供した。そしてこれらを入り口に、「クラウド」という1つのサービスプラットフォームでそれら全てをつないでいくという考えだ。
MetaOSとは、こうしたエンドデバイスのプラットフォームにかかわらず、そこに提供されるアプリのような窓口を介してMicrosoft 365という1つのサービスプラットフォームを共有する、読んで字のごとくの「メタなOS」構想を示したものだ。今回提供されるMicrosoft Defender for Individualsもその1つであり、MetaOSの考えを通じて「WindowsではないデバイスにMicrosoft Defenderを提供すること」を主眼にしている。
ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏によれば、Microsoft Defender for Individualsは「Gibraltar」の名称で内部的に呼ばれていたもので、Windowsのみならず、Android、iOS、macOSといったプラットフォームにMicrosoft Defenderの機能を提供する。長らく内部テストが行われており、2022年2月にリーク情報が出て少し話題に上ったことがある。「Individuals」とあるが、もともとは「Family」を想定していたもので、個人を含む一般家庭にあるPCの保護を目的とする。
実は同様の仕組みを提供する「Microsoft Defender」には、他に中小企業のSMB市場をターゲットとした「Microsoft Defender for Business」や、大企業向けのエンタープライズ市場をターゲットにした製品と新たなセキュリティソリューション「Microsoft Entra」といったものが存在する。今後本連載の中で、市場概況を含めてこの話題を順番にフォローアップしていく予定だ。
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