巻き返しの準備を進める「Intel」 約束を果たせなかった「Apple」――プロセッサで振り返る2022年:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
残りわずかとなった2022年。PCにとって一番重要なパーツである「CPU(SoC)」に焦点を当てて、この年を振り返ってみようと思う。
「次」への飛躍が見え始めたIntel
一方で、Intelは少しづつ、CPU業界におけるリーダーとしての自信を取り戻してきているようだ。
もちろん、市場を現実的な数字で見ると、IntelがPC向けCPU市場でコントロール権(≒トップシェア)を失ったことはほとんどない。同社がコントロール権を失ったのは、1980年代にAMDが本家(Intel)よりも優れた性能を持つセカンドソース(※1)を出していた時くらいのものである。
この辺の話をし始めるとかなり長くなってしまうが、そもそも現代において、Intelの生産能力なしにPC市場は維持できないことは事実である。いくら優秀なCPUを設計しようとも、Appleと同様にファブレス(※2)になったAMDは、結局のところ供給に関してはファウンドリー(受託生産者)の生産能力やスケジュールに左右されてしまう。CPUの供給が不足しても、自社の一存ではどうにもできない可能性があるのだ。
(※1)オリジナルの製造元(この場合はIntel)と正式なライセンス契約を締結した上で開発/製造された同一仕様(アーキテクチャ)の製品
(※2)もっぱら設計のみを行い、自前の生産工場を持たないメーカー
AMDの最新CPU「Ryzen 9 7950X」はTSMCの5nmプロセスで生産されている。ファブレスゆえに「他社の5nmプロセスでの生産が入っていると、自社製品を満足に作れない可能性がある」というリスクを常に抱えている(これはAppleも同様に抱えるリスクである)
……と話は脱線したが、やはり2022年において、CPU回りで筆者が最も大きな期待を寄せていたのはIntelだった。パット・ゲルシンガー氏がトップに就任したことによって、「力強く前進するIntel」が帰ってくると考えたからだ。
CPUを始めとする半導体の設計と生産/出荷までには想像以上のリードタイムが必要となる。誰が指揮を執ったとしても、製品としてその成果が明確に出始めるには数年は必要である。しかし、冒頭で触れた通りIntelは2022年、ハイブリッド構造の第12世代Coreプロセッサの本格展開を開始した。これはx86アーキテクチャの歴史としては“大転換”でもあり、Intelにとって大きな節目といえる。
加えて、Intelは「IDM 2.0」という構想に基づき、一部製品のファウンダリとしてTSMCを使い、自社生産の製品と分けて出荷の計画を立てるようになった。ゲルシンガーCEOが就任直後に決めた米国内での最新工場の建設など、生産面でも“激動”の中にあって、未来を期待させる1年だったと思う。
2021年11月にハイエンドデスクトップ向けに限って展開された第12世代Coreプロセッサは、2022年に入るとそのラインアップを一気に拡充した。5月には、さらなるパフォーマンスを求めるハイエンドノートPC向けに「HXシリーズ」の展開も開始している
IDM 2.0の効果が本格的に目に見え始めるのは、早くとも米国の新工場が稼働し始める2024年からとなるだろう。製品面での明確な進歩をハッキリと見るには、さらに1年かかるかもしれない。
しかし、PC業界における“プラットフォーマー”であるIntelの方針転換や意識変革は、それを採用するPCメーカーの戦略や商品企画にも影響する。2023年以降、Intel CPUを搭載するPCのトレンドに“目に見える変化”が訪れると筆者は予想しておきたい。
スマートフォンやタブレットに起源を持つApple Siliconとは異なり、PCへの搭載を前提とするIntelのCPUは、極端に省電力に割り振る作りにはならないと思われる。しかし、従来よりも電力効率を意識した設計となる可能性は高い。
現時点において、IntelのCPUはゲーミングやHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)といった、より高性能が求められる用途で注目されることが多い。しかし、一般ユーザーにとって最も大きな意味を持つのは、やはり“処理効率”である。今後、モバイルPC向けCPU(SoC)は、そういう意味で充実したものになるだろう。
現在のIntelは、次への飛躍に向けて助走から大きくしゃがみ込み、ジャンプする直前の段階に見える。
Intel初の「Intel 4(7nmプロセス)」で作られるCPU「Meteor Lake(開発コード名)」は、2022年第2四半期(4~6月)に生産ラインの稼働を開始している。製品は2023年内に出荷を開始するとされており、Intel製CPUのさらなる進化に期待が集まっている
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